貸切風呂のある温泉宿16選|家族・夫婦で湯を独占できる旅館

「貸切風呂あり」と書かれていても、中身は宿ごとにまるで違う。1時間1,500円の時間貸しもあれば、宿泊者なら予約不要で何度でも入れる無料の湯もある。浴場に大浴場が存在せず、貸切風呂だけで運営している宿さえある。

この記事では、源泉かけ流しの貸切風呂を持ち、実際に泊まれる宿16軒を全国から選んだ。16軒すべてが源泉かけ流しで、循環ろ過の湯は1軒も入れていない。源泉温度は38.4℃から93.2℃まで、pHは6.3から8.9まで幅がある。

日帰りの貸切風呂は対象外とした。貸切風呂を落ち着いて使えるのは、チェックイン後から翌朝までの時間を持てる宿泊のときだからだ。実際、16軒のうち5軒は日帰り入浴そのものを受け付けていない。

この記事でわかること

  • 貸切風呂・家族風呂・露天風呂付き客室の使い分け
  • 貸切の運用が「無料・予約不要」から「浴場ごと貸切」まで4通りに分かれること
  • 源泉かけ流しの貸切風呂を持つ宿16軒と、それぞれの泉質・源泉温度・pHを確認できる個票ページ

貸切風呂・家族風呂・露天風呂付き客室の違い

3つの言葉は現地では混ざって使われるが、宿を選ぶ側の実務では区別しておくと迷わない。

貸切風呂は、宿の共用浴場のうち一組ずつ使う浴室を指す。鍵を借りる方式、入口の木札を裏返す方式、フロントで時間を予約する方式がある。空いていれば入れるという運用が多く、宿泊料金に含まれる場合と、時間貸しで別料金がかかる場合に分かれる。

家族風呂はほぼ同義で使われる。本記事では宿の個票に「家族風呂」と記載されていても、宿泊者が貸切で使えるものだけを扱った。

露天風呂付き客室は部屋に付属する風呂で、貸切風呂とは別のものだ。こちらは客室のグレードと料金に直結するため、本記事の選定基準には入れていない。

掲載した16軒の選び方

条件は4つある。

  1. 宿泊できること。日帰り専用施設は除いた。貸切風呂は滞在時間があってはじめて活きる
  2. 貸切風呂・家族風呂を実際に備えていること。施設データの記録だけでなく、宿の浴場構成に貸切の記載があるものに限った
  3. 源泉かけ流しであること。結果として16軒すべてが源泉かけ流しになり、循環ろ過の宿は1軒も残らなかった。ただし加温している宿(湯田川温泉 九兵衛旅館)と、内湯で加水している宿(湯の峰温泉 旅館あづまや)はある
  4. 既存の県別記事との重複を抑えること。当サイトの県別秘湯記事と重複するのは、和歌山県記事の湯の峰温泉 旅館あづまやと大分県記事の長湯温泉 大丸旅館の2軒だけである

地域の内訳は東北5軒・関東1軒・中部5軒・近畿2軒・九州3軒である。番号はおおむね北から南へ並べた。


1. 日景温泉(秋田県 大館市)

秋田県大館市、青森県との県境をなす矢立峠。天然の秋田杉に囲まれた白神山地北東の谷あいに、一軒宿「白神矢立 湯源郷の宿 日景温泉」は静かに佇む。明治22年(1889年)の発見、明治26年(1893年)の開業以来、皮膚病に効く「三日一廻りの霊泉」として知られ、あまりの効能の高さから「東北の草津」とも称されてきた。地元の自由民権運動家・日景弁吉が湯宿を構えたこの地は、長らく湯治客の拠り所であり続けたが、施設の老朽化と地震被害により2014年に惜しまれつつ一度閉館。3年の時を経て、2017年10月に新たな宿として蘇った。 日景温泉最大の魅力は、4ヶ所の源泉から湧く濃厚な硫黄の湯である。大浴場の泉質は含硫黄-ナトリウム-塩化物泉(硫化水素型)で、硫黄の香りをまとった乳白色の湯が浴槽を満たす。源泉温度は大浴場で約38.4℃、貸切風呂用は約52.8℃、pHは6.3前後の中性。毎分約170リットルの豊富な湧出量を誇り、全浴槽が源泉かけ流しで供給される。肌にやさしく浸透する薬湯は、アトピーをはじめとする皮膚の悩みを抱える人々を今も惹きつけてやまない。 浴場は、乳白色の硫黄泉をたたえる大浴場の内湯と露天風呂が中心だ。露天風呂では秋田杉の緑と季節の移ろいを眺めながら湯浴みができる。さらに趣の異なる5つの貸切風呂が用意され、いずれも無料で利用できるのが嬉しい。硫黄泉のほかに、透明な含鉄泉を楽しめる浴槽もあり、一度の滞在で異なる湯めぐりを味わえる。館内には岩盤浴やライブラリー、休憩スペースも整い、ゆったりとした湯治滞在を後押しする。 日帰り入浴は11:00〜15:00(最終受付14:30)、大人600円で楽しめる。定休日は月ごとに変わるため、訪問前に公式サイトで確認したい。夏季は露天風呂にアブが出ることがあるため、午前中や夕方の入浴がおすすめだ。宿泊は1泊2食付き2名46,200円(1名23,100円)からで、地元食材を活かした料理とともに静寂の一夜を過ごせる。碇ヶ関ICから車で約10分、JR陣場駅からタクシーで約5分と、秘湯ながらアクセスは比較的良好。白神山地の玄関口で、乳白色の名湯に身を委ねる旅をぜひ味わってほしい。
泉質
含硫黄-ナトリウム-塩化物泉(硫化水素型)
温度
38℃ ~ 53℃
湧出
動力揚湯
供給
源泉かけ流し
加温
加温なし
pH値
pH 6.3
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 可/日帰り 可
入浴料
大人 600円/子供 ---円
営業時間
月火水木金土日祝
11:00 - 15:00◯◯◯◯◯◯◯◯
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2. 強首温泉 樅峰苑(秋田県 大仙市)

秋田県大仙市、雄物川がゆるやかに蛇行する田園地帯に、唐破風の玄関を構えた堂々たる木造家屋が建つ。強首温泉 樅峰苑である。この建物はもともと旅館として建てられたものではない。江戸期からこの一帯450町歩を所有した大地主・小山田家の本邸として、大正6年(1917年)に竣工した本宅なのだ。代々村長や県議を務めた名門の住まいは、鹿鳴館風の階段室、天然秋田杉の一枚板を16.3メートル通した廊下といった贅を尽くした意匠を今に伝え、国の登録有形文化財に登録されている。15代目の当主を亡くした夫人が子を育てるために昭和41年(1966年)、宿へと転じたのが樅峰苑の始まりである。 湯もまた偶然の産物だった。昭和39年、強首大場崎地区で天然ガスを掘り当てようとボーリングを行ったところ、ガスではなく大量の温泉が噴き出した。これが強首温泉の起こりである。当初は引き湯に頼っていた樅峰苑だが、平成20年2月、敷地内での掘削に成功。毎分246リットル、49度の湯が自噴し、以来すべての浴槽が自家源泉のかけ流しとなった。泉質は含よう素-ナトリウム-塩化物強塩温泉。よう素を含む温泉は国内でも数えるほどしかなく、溶存物質量は1キログラム中22.24グラムと、海水の6割を超える濃度を持つ。源泉温度は約49.8度、pHは6.9のほぼ中性で、加水も加温もしていない。 浴槽に張られた湯は茶褐色に濁り、湯の花がゆらゆらと舞う。洗面器も椅子も檜という大浴場「ひのき風呂」は総檜造りで、木の香りと塩気を含んだ湯気が満ちる。強塩泉らしく身体は芯まで温まり、湯上がりの保温力は驚くほど長い。宿泊者だけが使える貸切露天風呂「大樹の湯」「こもれびの湯」は平成20年3月に新設されたもので、湯屋全体が総檜造り。それぞれの湯船からは、樹齢380年以上と推定される当苑のシンボル「樅の木」を望むことができる。宿の名の由来となったこの巨木を眺めながら湯に沈む時間は、この宿でしか得られない。 客室はわずか7室。大正6年当時のままの和室10畳や特別室では、欄間や襖に職人の技が残る空間に泊まれる。テレビも冷蔵庫も室内風呂もないが、それこそがこの宿の流儀だろう。食事は大広間で供され、雄物川で獲れるモクズガニ(川蟹)料理が名物である。日帰り入浴は11時から18時(最終受付17時)、中学生以上650円・小学生以下350円で、大浴場のみの利用となる。支払いは現金のみ、宿泊は中学生以上限定という点は事前に押さえておきたい。秋田自動車道西仙北スマートICから約7分、JR奥羽本線峰吉川駅からは前日までの予約で無料送迎が受けられる。8月第4土曜の全国花火競技大会(大仙市)や2月の刈和野の大綱引きに合わせて訪ねるのも一興である。
泉質
ナトリウム-塩化物強塩泉
湧出
掘削自噴
供給
源泉かけ流し
加温
加温なし
pH値
pH 6.9
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 可/日帰り 可
入浴料
大人 650円/子供 350円
営業時間
月火水木金土日祝
11:00 - 18:00◯◯◯◯◯◯◯◯
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3. 鬼首温泉 とどろき旅館(宮城県 大崎市)

宮城県北西部、栗駒国定公園に抱かれた鬼首(おにこうべ)温泉郷は、間欠泉や地熱発電所を擁する地熱の里である。その一角、荒雄岳の南西麓を流れる荒雄川の左岸に、杉木立に囲まれてひっそりと建つのが轟(とどろき)温泉の一軒宿・とどろき旅館である。轟温泉には古湯と新湯があり、古湯は元和年間(1615〜1624年)ごろ、新湯は近世末期に見出されたと伝わる。約400年におよぶ湯の歴史を、いま受け継いでいるのはこの宿ただ一軒だ。眼下には鳴子ダム湖(荒雄湖)へ注ぐ川の流れがあり、下流は鮎釣りの名所として知られる。 湯は自家源泉「新とどろき3号」から引く単純温泉で、正式には低張性弱アルカリ性高温泉。pH7.8、源泉温度は約75℃と高く、これを加水も加温もせず、循環ろ過も入浴剤も塩素消毒も用いずに浴槽へ落とす100パーセントの源泉かけ流しである。公式には無色透明・無味無臭と説明されるが、実際に浸かるとメタケイ酸を200mg/L以上含む湯らしいすべすべとした肌触りがあり、石膏系のほのかな温泉臭と細かな湯の華に気づく。浴槽温度は42〜43℃に均衡し、湯口から注がれた分がそのまま縁からあふれ続けるため、どの位置でも湯の鮮度が変わらない。単純温泉と聞いて薄い湯を想像すると裏切られる、鳴子温泉郷の実力派である。 風呂は3種類。男女別の内湯は大人3人ほどの控えめな造りだが、この宿の主役は庭園を眺める混浴大露天風呂「荒湯」だ。15〜20人がゆったり収まる広さで、中央の岩と塀が男女のエリアを緩く分ける。手入れの行き届いた庭の緑と山肌を望みながらの湯浴みは、鬼首でも屈指の心地よさである。ただし水着やバスタオルを巻いての入浴、そして撮影はいずれも禁止で、目隠しもないため女性には勇気が要るという声もある。その点を補うのが、無料で使える貸切露天風呂「木もれびの湯」だ。2〜3人には十分な広さで、入口の木札で空きを確認して使う仕組みになっている。混浴に抵抗があるなら、まずこちらを目当てに訪ねるとよい。 日帰り入浴は大人600円・子供400円(2026年4月改定)。ただし入館受付は10時から14時までと短く、浴室清掃で受け入れを止める日もあるため、電話(0229-86-2311)で確認してから向かうのが確実である。宿泊は当面の間4室限定で1泊2食付13,900円から。山菜・きのこ・川魚といった地元産の食材に大崎市産ササニシキが添えられ、4月から5月中旬にかけては最大7種の山菜が膳に並ぶ。全室Wi-Fi対応だが支払いは現金のみで、クレジットカードは使えない。車なら東北自動車道 古川ICから国道47号・108号経由で50〜60分、公共交通なら鳴子温泉駅から市営バス鬼首線で約20分だがバスは1日数便のみ、送迎もないので時刻表の確認は必須だ。宿から車5分の鬼首かんけつ泉(12月〜3月下旬は冬季休園)、車20分の鳴子峡と組み合わせれば、地熱の里を一日で味わい尽くせる。
泉質
単純温泉
温度
42℃ ~ 43℃
供給
源泉かけ流し
加温
加温なし
pH値
pH 7.8
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 可/日帰り 可
入浴料
大人 600円/子供 400円
営業時間
月火水木金土日祝
10:00 - 14:00◯◯◯◯◯◯◯◯
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4. 滑川温泉 福島屋(山形県 米沢市)

滑川温泉 福島屋
引用: 滑川温泉 福島屋 HP
滑川温泉の湯が見出されたのは文明8年(1476年)と伝えられる。大沢の郷士・斉藤盛房が前川を渡ろうとして岩で足を滑らせ、倒れた拍子に手に触れた石が温かかったことから、川底に湯が湧いていることを知ったという。滑って転んだ川、すなわち「滑川」という地名は、この素朴な発見譚に由来する。湯治場として体裁が整えられたのは宝暦13年(1763年)で、米沢藩主・上杉家の許しを得た笹木正直が宿を構えた。以来260年余り、福島屋は14代にわたって一軒宿の湯守を続けている。米沢八湯のひとつに数えられ、日本秘湯を守る会にも名を連ねる、山形を代表する山の湯である。 泉質は含硫黄-ナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩・硫酸塩泉。低張性の中性泉で、pHは7.0前後と、硫黄泉としてはめずらしく刺激の穏やかな湯質である。3本の自家源泉はいずれも動力に頼らない自然湧出で、源泉温度は下の湯が40.4℃、上の湯が53.6℃、合わせて毎分約150リットルが湧き続ける。加水も加温もせず、循環も消毒も行わない完全な源泉かけ流しで、湯船に満たされた湯は乳白色から青白色へと濁り、硫黄の香りが立ちのぼる。湯量に恵まれているため、浴槽の縁からは常に新しい湯があふれ出している。 浴場は4か所。石造りの混浴内湯「大風呂」と女性専用の内湯があり、屋外には前川の渓流を見下ろす混浴の岩露天風呂と、川べりに据えられた檜の露天風呂が配される。新緑や紅葉を背景にした乳白色の岩風呂は温泉専門誌でもたびたび取り上げられる名景で、混浴ではあるが女性専用時間が設定されている。檜風呂は宿泊客が夜間に貸切で利用できる。標高約850メートルの山中にあるため電線も水道管も届かず、宿は水力による自家発電と貯水タンクで日々の営みを支えている。客室は25室で、朝夕とも部屋食。昔ながらの自炊湯治棟も残されている。 営業は4月下旬から11月上旬までの期間限定で、冬季は道路の除雪がないため休業する。日帰り入浴は9:00〜16:00、大人700円・小学生以下350円で、タオル類は有料販売のため持参するとよい。宿泊は1泊2食付き13,700円からで、湯治棟の素泊まりなら3,200円からと幅がある。車では東北中央自動車道・米沢中央ICから約45分だが、終盤は前川沿いの崖に沿った狭い道が続くので運転には注意したい。公共交通機関ならJR奥羽本線・峠駅から車で約15分、宿泊客に限り送迎がある(要予約)。徒歩30分ほどの場所には日本の滝百選に選ばれた滑川大滝があり、新緑の5月下旬から6月、紅葉の10月が特に美しい。
泉質
含硫黄-ナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩・硫酸塩泉
温度
40℃ ~ 53℃
湧出
自然湧出
供給
源泉かけ流し
加温
加温なし
pH値
pH 7
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 可/日帰り 可
入浴料
大人 700円/子供 350円
営業時間
月火水木金土日祝
09:00 - 16:00◯◯◯◯◯◯◯◯
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5. 湯田川温泉 九兵衛旅館(山形県 鶴岡市)

湯田川温泉は、鶴岡市街の南西、金峰山の麓に湧く庄内屈指の古湯である。開湯は和銅5年(712年)と伝わり、傷を負った一羽の白鷺が湯に浸かって傷を癒す姿を里人が見つけたのが始まりとされる。山形県では蔵王温泉、五色温泉に次いで3番目に古く、東北でも8番目という歴史を持つ。庄内藩の時代には藩主の湯治場として重んじられ、作家・藤沢周平が青年期を過ごした地としても知られる。九兵衛旅館はこの温泉街に江戸中期から続く宿で、平成15年のリニューアルで宴会場を廃し、個室の食事処と静かな滞在を軸とした現在の姿になった。全13室、館内は全室禁煙という小さな構えである。 湯の正体は、ナトリウム・カルシウム硫酸塩温泉(旧泉質名・含石膏芒硝泉)である。無色透明・無味無臭で、肌に触れるとやわらかい。温泉街が使う源泉は「湯田川1号」の一本のみで、毎分約1,000リットルという豊富な湧出量を誇り、昭和11年(1936年)から温泉組合による集中管理方式で各旅館・共同浴場へ配湯されている。源泉温度は42〜44℃、pHは8.6前後の弱アルカリ性で、成分総計はおよそ1,169mg/kg。九兵衛旅館は加水を一切せず、季節に応じて加温したうえで全浴槽を源泉かけ流しとしており、日本源泉かけ流し温泉協会の認定を受けている。循環装置を通さない湯であることが、湯田川の湯を語るうえでの核心である。 浴場は個性の異なる2つの大浴場が主役だ。「山の湯」は手前が内湯、奥が露天になった構成で、浴槽の四隅に小さなうさぎの意匠が置かれている。「川の湯」は壁面が大きな水槽になっており、金魚がゆらゆらと泳ぐ姿を眺めながら湯に浸かれる、ほかでは見ない浴場である。この2つは時間帯で男女が入れ替わり、山の湯は男湯14:00〜19:40・女湯20:00〜翌10:00、川の湯はその逆で運用される。さらに予約不要・内鍵式の無料貸切風呂があり、徒歩1分の姉妹館「珠玉や」の檜風呂大小と展望風呂も宿泊者は無料で使える。宿は大浴場と貸切風呂を合わせて計9か所の湯めぐりを案内している。館内にはスリッパを置かず素足で歩く床、囲炉裏の間、藤沢周平の著作を集めた図書コーナー、マッサージチェアを備えた湯上がり処が並ぶ。 宿泊は1泊2食付きで1名20,350円〜(税込・別途入湯税150円)、チェックイン14:00・チェックアウト11:00。食事は朝夕とも専用個室で供され、寒鱈、孟宗竹、岩牡蠣、ズワイガニといった庄内の季節の膳と、庄内18酒蔵の地酒が楽しめる。子どもの受け入れは10歳以上に限られる点は事前に確認しておきたい。日帰り入浴は通常行っておらず、例年3月下旬に開かれる湯田川温泉梅まつりの開催日(2026年は3月28日・29日)のみ、14:00〜17:00・30分ごと1組限定・大人500円で開放される。日帰りで湯田川の湯に触れたいなら、宿の目の前にある共同浴場「田の湯」や「正面の湯」(各300円)を訪ねるとよい。アクセスは鶴岡ICから車で約15分、JR鶴岡駅から庄内交通バスで約25分。孟宗汁の季節(5〜6月)と寒鱈の冬が、庄内の食を目当てにするなら狙い目である。
泉質
硫酸塩泉
温度
42℃ ~ 44℃
供給
源泉かけ流し
加温
加温あり
pH値
pH 8.6
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 可/日帰り 不可
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6. うぐいす谷温泉 竹の葉(茨城県 北茨城市)

茨城県北茨城市、五浦海岸にほど近い磯原の山あいに、うぐいす谷温泉 竹の葉は静かに佇んでいる。竹林と渓流に囲まれたその立地から「隠れ湯の宿」と呼ばれ、旧称を竹葉亭といった。喧騒から離れ、鳥のさえずりと水の音だけが響く谷あいの一軒宿であり、日常を忘れて湯と料理に向き合うための宿として親しまれてきた。 湯は、うぐいす谷温泉を源泉とするナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉である。メタホウ酸を含む湯には殺菌作用があるとされ、肌への効能や、冷え性・消化器病・神経痛への効果が伝わる。源泉かけ流しで供給される湯に身を沈めれば、竹林を渡る風のざわめきと小川のせせらぎが耳に届き、五感で自然を感じることができる。派手さはないが、体の芯までじんわりと温まる、滋味深い湯である。 浴場は、ゆったりとした大浴場のほか、竹林を望む露天風呂、そして家族連れやカップルに嬉しい貸切風呂を備える。そして竹の葉を語るうえで欠かせないのが料理だ。冬の名物・あんこう鍋や、脂ののったキンキの煮付けをはじめ、常陸牛や近隣の漁港から届く新鮮な刺身など、海と山の幸をふんだんに使った膳が並ぶ。温泉と料理、その両方を目当てに訪れる客が多い。 アクセスは常磐自動車道・北茨城ICから約5分、JR常磐線・磯原駅からもタクシーで約5分と近く、事前予約で駅からの送迎も受けられる。駐車場は普通車30台分を無料で用意する。日帰り利用は食事付きプラン(大人5,400円、2名以上・夜の部のみ・要予約)が中心で、ゆっくり過ごすなら宿泊がおすすめだ。あんこう鍋が旬を迎える冬はもちろん、竹林が瑞々しい新緑の季節も魅力的で、五浦海岸や岡倉天心ゆかりの六角堂など周辺観光と組み合わせても楽しめる。
泉質
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉
供給
源泉かけ流し
利用
宿泊 可/日帰り 可
入浴料
大人 5400円/子供 ---円
営業時間
24時間営業
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7. 濁河温泉 朝日荘(岐阜県 下呂市)

御嶽山の飛騨側六合目、標高約1,800メートル。原生林に囲まれたこの高みに湧くのが濁河温泉である。明治20年ごろから温泉地として開発され、飛騨小坂口登山道の起点として登拝者や登山者に親しまれてきた。雪深い立地でありながら通年営業を続ける稀有な高所温泉地で、今も9軒の旅館と市営の日帰り入浴施設が肩を寄せ合っている。その一角に建つ朝日荘は昭和45年(1970年)の開業。平成6年(1994年)に全館を改築し、日本秘湯を守る会と日本源泉湯宿を守る会の双方に名を連ねる宿である。 朝日荘の最大の個性は、性格の異なる2つの源泉を持つことだ。ひとつは自家源泉「源泉朝日荘」。ナトリウム-炭酸水素塩・硫酸塩泉で、53℃の湯が毎分250リットルという豊富な量で湧き、pHは6.72の中性である。もうひとつは共同源泉「濁河の湯」で、市営泉源などを混ぜたナトリウム・カルシウム・マグネシウム-硫酸塩・炭酸水素塩泉。51.9℃、pH6.3の湯を毎分60リットル引いている。いずれも加水・加温・塩素消毒を一切行わない源泉100%かけ流しで、貝汁のようにうっすらと濁った湯からは金気の香りが立ちのぼる。浴槽の使用温度は42〜43℃と、長湯にちょうどよい加減に落ち着く。 浴場は源泉ごとに役割が分かれている。男女別の内湯と露天風呂に注がれるのは自家源泉で、露天風呂のすぐ目の前には原生林が迫る。夜は標高1,800メートルならではの満天の星が、秋には色付いた木々が湯船を取り囲む。共同源泉を受け持つのは貸切風呂だ。洗い場付きの檜内湯と、小庭を配した岩造りの露天風呂がセットになった豪華な造りで、優に10人が浸かれる広さがありながら宿泊者は無料で利用できる。空いていればチェックインの15時から翌朝9時30分までいつでも入ることができ、2種の湯を飲み比べるように味わえるのが朝日荘ならではの愉しみである。 客室は全12室と小ぶりで、自家源泉の熱を利用した全館床暖房により、厳寒期でも浴衣姿で過ごせる。逆に高所ゆえ真夏も冷房は要らない。食事は季節ごとの山の幸を用いた炉端風の料理で、朝食に必ず添えられる朴葉みそが名物だ。宿泊は1泊2食付き27,000円〜(税別)、飛騨牛プランは30,000円〜。日帰り入浴は受け付けていないので、この湯に浸かるには泊まるほかない。アクセスは高山ICから車で約1時間20分、中津川ICから約1時間50分、伊那ICから約1時間30分。気を付けたいのは冬の道路事情で、12月から4月中旬にかけては推奨ルートのチャオ〜濁河間が17時30分から翌朝8時30分まで通行止めになるため、遅くとも17時までに通過しておきたい。スタッドレスタイヤやチェーンの装備も欠かせない。手間をかけて辿り着くだけの価値がある、雪見露天のよく似合う山の湯である。
泉質
ナトリウム-炭酸水素塩・硫酸塩泉
カルシウム(・マグネシウム)・ナトリウム-炭酸水素塩・硫酸塩泉
温度
42℃ ~ 43℃
供給
源泉かけ流し
加温
加温なし
pH値
pH 6.7
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 可/日帰り 不可
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8. 白川郷平瀬温泉 お宿 湯の里(岐阜県 大野郡白川村)

世界遺産・白川郷の合掌造り集落から国道156号を南に15分ほど走ると、庄川沿いに平瀬温泉の小さな温泉街が現れる。この地の湯の歴史は意外に新しい。もともと白山登山口の近くには大白川温泉、通称「円太郎の湯」があったが、1961年の大白川ダム建設によって湖底に沈んだ。村がダムの上流3キロ地点で井戸を掘ったのが1966年のことで、噴き出した蒸気泉が現在の白川郷平瀬温泉の始まりである。1980年3月27日には環境省の国民保養温泉地に指定され、白山連峰の登山基地としても知られるようになった。お宿 湯の里は、その温泉街に立つ全8室の料理旅館である。建物は白川村の合掌造りではなく、能登の旧網元の家を移築したもので、太い梁と落ち着いた和室が旅人を迎える。 湯の里が引いている源泉は「大白川2号線」。含硫黄-ナトリウム-塩化物温泉(低張性アルカリ性高温泉)で、源泉温度は93.2℃に達する。この湯が特異なのは、源泉が宿から約15キロも離れた白山の麓にあることだ。白川村では大白川の源泉から平瀬、御母衣、牧などへ配湯管が敷かれ、旅館や公共施設、一般家庭までが給湯装置を通して湯を分け合っている。宿はこの湯を循環ろ過せず、加水もせずに完全なかけ流しで浴槽へ注ぐ。硫黄をわずかに含むアルカリ性の湯はやわらかく、肌にとろりとまとわりつく感触があり、美肌と婦人科系への効能から古くから「子宝の湯」と呼ばれてきた。ただし引湯距離が長いだけに自然の影響も受けやすく、宿自身が「年に数回、大雨や雪崩によって温泉が供給できない場合があります」と正直に告知している。特に雪解け後の春から梅雨にかけては注意が必要で、その際はボイラーで沸かした湯に切り替わる。 浴場の構成は、この規模の宿らしく潔い。大浴場も露天風呂もなく、あるのは貸切風呂が2つだけである。1日4組限定という受け入れ人数だからこそ成り立つ造りで、家族や連れだけで湯を独り占めできる。宿泊者は15時から翌朝9時30分まで好きな時間に入ることができ、夜更けにひとりで熱い湯に沈む時間はこの宿ならではの贅沢だ。客室は全8室、いずれもバス・トイレのない素朴な和室で、そのぶん館内には昔の日本家屋の空気が濃く残る。1日1組だけペット同伴可の部屋が用意されているのも小さな宿ならではで、39キロ以下の大型犬まで受け入れる。食事は「料理旅館」を名乗るだけあって力が入っており、先代から続く味を受け継いだ郷土会席に、飛騨牛の朴葉味噌焼き、庄川の川魚、鶏を鉄板で焼く飛騨の郷土料理「けいちゃん」などが並ぶ。 訪ねるなら、白川郷観光と組み合わせるのが最も現実的である。合掌造り集落を歩いてから車で15分、荻町の混雑を抜けて静かな温泉街に落ち着くという流れがちょうどよい。宿泊は1名17,600円からで、駐車場は無料8台の先着順。公共交通なら濃飛バスで白川郷バスターミナルから「大白川口前」まで片道720円、バス停から徒歩3分だが、便数は日に4本ほどしかないため時刻の確認は欠かせない。日帰り入浴は大人・小人一律700円で受け付けているものの、受付時間は公表されておらず、清掃やメンテナンスで入れない日もある。立ち寄りを考えているなら、必ず事前に電話をしてから向かうこと。時間を問わず湯だけ浴びたい場合は、同じ平瀬温泉にある日帰り専用の「大白川温泉しらみずの湯」という選択肢もある。冬は11月から3月までスタッドレスタイヤかチェーンが必須で、周辺にガソリンスタンドはほとんどない。満タンにしてから山へ入るのが賢明である。
泉質
含硫黄-ナトリウム-塩化物泉
供給
源泉かけ流し
加温
加温なし
利用
宿泊 可/日帰り 可
入浴料
大人 700円/子供 700円
営業時間
24時間営業
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9. 河内温泉 金谷旅館(静岡県 下田市)

伊豆半島の南端、下田の市街地から少し内陸に入った河内(こうち)の集落に、慶応3年(1867年)創業の一軒宿・金谷旅館がある。江戸幕府が倒れる前年に暖簾を掲げて以来、金谷山の麓から湧く湯を守り続けてきた宿である。ペリー来航で開かれた港町・下田の歴史とほぼ歩みをともにしてきた宿でありながら、周囲は静かな里山で、観光地の喧騒とは無縁の落ち着いた時間が流れている。伊豆急行線・蓮台寺駅から歩いて4分ほどという立地は、秘湯を名乗る宿としてはきわめて例外的な近さだ。 金谷旅館の湯を支えているのは、金谷山の麓に持つ2本の自家源泉である。館内に掲示された温泉分析書によれば、河内5号源泉と下湯原源泉の混合泉が49.8℃・pH7.7、河内5号源泉と金谷温泉の混合泉が36.2℃・pH7.6。いずれも低張性・弱アルカリ性・緩和性の単純温泉で、無色透明、やわらかく肌に馴染む湯である。特筆すべきは、加温も加水も循環ろ過も塩素消毒も一切行わない、全浴槽100パーセントの源泉かけ流しという点だ。高温源泉とぬる湯源泉の2本を持つからこそ成立する贅沢な湯づかいで、湯船は場所によって熱めからぬる湯まで温度が分かれ、なかには35℃前後の長湯向きの一角もある。 この宿を全国区の存在にしているのが、総檜造りの大浴場「千人風呂」である。公式サイトによれば奥行約20メートル、幅約5メートル。最も深いところで約1メートルあり、立ったまま腰から胸まで湯に浸かれるほどの水深だ。壁も天井も檜で覆われた空間はプールのような開放感で、木造の大浴場としては国内最大級とされる。大正期に生まれた構想を受け継ぎ、平成14年には全面的に檜造りへと改修された。基本は混浴だが、女性用の入口が別に設けられ、湯浴み着やバスタオルを着用して入浴できる配慮がなされている。女性専用には総ヒバ造りで4つの湯船を持つ「万葉の湯」があり、こちらも木造の女性用浴場としては国内屈指の規模だ。さらに明治後期に建てられた宿最古の浴室を使う貸切風呂「一銭湯」、打たせ湯と泡風呂を備えた男女別の露天風呂まで揃う。 日帰り入浴は9時から22時(最終受付21時)、大人1,000円・小学生500円・小学生未満300円で、滞在は2時間まで。年中無休だが、平日の午前中は清掃にあたる場合があるため、事前に電話で確認しておくと確実だ。無料駐車場は約40〜50台分。宿泊すれば、これらの湯をすべて24時間好きなときに味わえる。伊豆急下田駅からタクシーで10分、車なら東名・沼津ICから天城越えで約1時間50分。下田の海と幕末史跡めぐりを組み合わせ、締めくくりに檜の大風呂でゆっくり体をほどく——そんな一日の組み立てがよく似合う宿である。
泉質
単純温泉
温度
36.2℃ ~ 49.8℃
供給
源泉かけ流し
加温
加温なし
pH値
pH 7.7
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 可/日帰り 可
入浴料
大人 1000円/子供 500円
営業時間
月火水木金土日祝
09:00 - 22:00◯◯◯◯◯◯◯◯
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10. 船原温泉 船原館(静岡県 伊豆市)

修善寺から土肥へ、天城の山ふところを西へ抜ける国道136号。その途中、船原川の渓流に寄り添うように一軒宿が建っている。船原温泉 船原館である。船原温泉そのものは古く、江戸時代には甲の湯・乙の湯と呼ばれる二つの湯があり、源頼朝も浸かったと語り継がれてきた。現在の船原館は昭和33年(1958年)、先代が旅館として開いたもので、以来60年以上を家族で守り続けている。宿が自らに与えた名は「ものわすれの湯」。俗事を忘れて湯に沈む、それだけを目的にして来てほしいという意思表示である。 この宿の価値は、湯そのものの扱い方にある。自家源泉の湧出量は毎分150リットル、源泉温度は45.6℃。この45℃台という数字が決定的で、そのまま浴槽に入れて心地よい温度になるため、加温も加水も一切必要がない。循環ろ過もせず、塩素消毒もしない。泉質は単純温泉(低張性・弱アルカリ性・高温泉)、pH8.0。派手な色も匂いもないが、弱アルカリ性らしいとろりとした肌ざわりがあり、湯上がりに肌がしっとりと張る。さらに船原館は、源泉を空気に触れさせないまま配管し、浴槽の底から静かに注ぎ込む方式を採っている。湯が酸化して痩せる前に体に届ける——この一手間が、純温泉協会から最上位の「純温泉A」認定を受けている理由である。 浴場は三つ。内湯と露天からなる「山の湯」、渓流に面した小ぶりな「川の湯」、そして名物の立ち湯だ。この立ち湯は水深1.2メートルという常識外れの深さを持ち、大人が立ったまま肩まで浸かれる。湯温は体温に近いぬるさに保たれており、熱くないので何十分でも入っていられる。足が底に着いたまま、体だけが軽く浮く感覚は、寝湯とも露天とも違う独特のものだ。ここでは水中で体をほぐすアメリカ発祥の療法「ワッツ」と、伊豆の「天城流湯治法」を組み合わせた施術も受けられる。立ち湯は1組45分の貸切制で、宿泊者は無料で利用できる。 宿泊は全14室、1泊2食付10,500円から。夕食は囲炉裏を囲んでの炭火焼き「お狩場焼き」で、猪鍋や川魚が並ぶ。館内には卓球台や地元ゆかりの資料を集めた「原人ぎゃらりぃ」が残り、昭和の湯宿の空気がそのまま保存されている。日帰り入浴も可能で、12時から15時、大人800円(立ち湯体験付きは1,500円)。ただし不定休のため必ず事前に電話で確認したい。修善寺駅から東海バスで20分、バス停の目の前という好アクセスながら、渓流の音しか聞こえない静けさがある。浄蓮の滝や天城越えの観光と組み合わせるなら、混雑を避けられる平日の午後が狙い目である。
泉質
単純温泉
温度
35℃ ~ 45℃
供給
源泉かけ流し
加温
加温なし
pH値
pH 8
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 可/日帰り 可
入浴料
大人 800円/子供 400円
営業時間
月火水木金土日祝
12:00 - 15:00◯◯◯◯◯◯◯◯
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11. 吉奈温泉 御宿 さか屋(静岡県 伊豆市)

伊豆半島の中央、修善寺から天城越えへ向かう国道414号を折れて山あいに入ると、吉奈川に沿ってわずか数軒の宿が身を寄せる小さな温泉地に出る。吉奈温泉である。西暦724年に建てられた古刹・善名寺の寺社縁起にはすでに温泉の記載があり、これをもって吉奈は「伊豆最古の湯」と呼ばれてきた。その中心にあるのが御宿さか屋だ。もとは造り酒屋で、安土桃山時代の中期、徳川家康の側室お万の方がこの地に湯治に訪れた際の寄り処となった。お万の方はここで二人の男児を授かり、その子らはのちに紀州徳川家と水戸徳川家の初代となる。以来この湯は「霊泉〜子宝の湯」として江戸時代に全国的な名声を得た。さか屋が宿を始めたのも江戸期のことで、造り酒屋の代から数えれば五百余年、現在の館主で25代目を数える。 さか屋の値打ちは、湯の扱い方に集約される。加温なし、加水なし、循環ろ過なし、そして塩素消毒なし。この四つを同時に満たす宿は静岡県下でも数えるほどしかない。それを可能にしているのが源泉の構成である。吉奈温泉はもともと湯温の低いぬる湯だが、さか屋は大湯・花沢・煤垣という3本の源泉を持ち、45.3℃・47.0℃・65.5℃という異なる温度の湯を、注入量の加減だけで混ぜて適温をつくり出している。合計湧出量は毎分425リットル。点在する源泉から旧共同湯とさか屋を中心に円を描くように配湯管を巡らせるという、全国でも珍しい方式だ。泉質は単純温泉、公式の表示は「弱アルカリ単純泉」でpH7.6。無味無臭の無色透明で、いかにも成分が濃そうな見た目ではないが、肌に触れた瞬間のやわらかさは明確に違う。25代目館主自身が湯守を務め、毎日換水するという手間が、この鮮度を支えている。 浴場は6つあり、それぞれ性格がまったく違う。大浴場のひとつ「お万さん風呂」は檜の湯船に伊豆石の床、肩までしっかり浸かる深めの造りで、緑の山並みが望める。もうひとつの「太郎さん風呂」は岡本太郎がデザインしたものだ。さか屋は50年にわたり太郎の常宿で、「僕も何か作ってあげようか」の一言から生まれたという曲線的な湯船は、不思議と身体にフィットする。露天は天城の山並みを望む半屋根付きの「オリオン座風呂」と、樹齢200年の白藤の下に据えたつげ材の「白藤の湯」。加えて造り酒屋の記憶をとどめる「酒樽の湯」と檜の「子宝の湯」という貸切露天が2つあり、予約不要・無料・24時間、空いていれば自由に使える。大浴場は朝夕で男女が入れ替わるので、滞在中に計画的に回れば6湯すべてに入ることができる。館内には茶室「養珠庵」や岡本太郎ギャラリー、遠州流の日本庭園も残り、3.6ヘクタールの敷地そのものが見どころになっている。 注意しておきたいのは、さか屋が日帰り入浴を行っていないことだ。一部の温泉情報サイトには日帰りの時間が載っているが、公式サイトに案内はなく、宿に問い合わせた利用者も断られている。この湯に浸かるには泊まるしかない。宿泊は全23室、うち4室が露天風呂付の特別室で、1泊2食付17,990円あたりが目安となる。アクセスは、東京から特急踊り子号で修善寺駅まで乗り換えなしの約2時間、そこから東海バス5番線で20分の「吉奈温泉入口」下車。バス停から宿までは約1km、電話をすれば送迎に来てくれるが、晴れた日なら川沿いを15分歩くのも悪くない。狙い目は白藤が咲く5月と、露天から色づく山が見える11月。伊豆では源泉かけ流しの紅葉露天そのものが希少で、この時期の「白藤の湯」は特に人気が高い。浄蓮の滝や天城峠、修善寺温泉街と組み合わせれば、伊豆の古い層をたどる旅になる。
泉質
単純温泉
温度
45.3℃ ~ 65.5℃
供給
源泉かけ流し
加温
加温なし
pH値
pH 7.6
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 可/日帰り 不可
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12. 七釜温泉 湯宿 奥澤旅館(兵庫県 美方郡新温泉町)

兵庫と鳥取の県境に近い新温泉町七釜。日本海から山あいへ少し入ったこの集落に、和室4室だけの小さな湯宿がある。七釜温泉は「浜坂温泉」「二日市温泉」とともに浜坂温泉郷を形成し、1991年に環境庁告示で国民保養温泉地に指定されており、兵庫県内では唯一の指定地である。地名の由来には、かつて入り江だったこの海岸に塩を炊くための釜が七つ据えられていたからという説が伝わる。観光地として磨き上げられた温泉街ではなく、湯治場の気配を残したまま今日に至っているのが七釜の性格であり、奥澤旅館はその空気をそのまま宿にしたような一軒である。 泉質はナトリウム・カルシウム-硫酸塩泉、低張性・中性・高温泉に分類される。新温泉町が公表する分析結果では、七釜の源泉は掘削の動力揚湯によるもので、知覚的試験は微弱な黄褐色・澄明・無味・無臭と記録されている。この宿が使うのは約50℃の湯で、加水も加温もせず浴槽へ直接注ぎ込む源泉かけ流しである。硫酸塩泉は湯上がりの保温効果が際立ち、七釜の湯は地元で「こたついらずの温泉」と呼ばれてきた。冬に日本海側の冷たい風にさらされたあとでも、湯から上がってしばらく体の芯が冷えないのがこの湯の身上だ。適応症としては筋肉や関節の痛みとこわばり、冷え性、胃腸機能の低下、軽症高血圧、自律神経不安定症、疲労回復などが挙げられている。 浴室は内湯が2つ。露天風呂もサウナもないが、この宿の風呂はすべて貸切制で運用されている点が大きい。順番に札を掛けて使う方式で、1回の入浴時間の目安は40分程度。4室しかない宿なので待たされることはまずなく、熱めの湯を独り占めして好きなだけ入り直せる。湯が熱いと感じたら風にあたって涼み、また浸かる——七釜の湯宿らしい入り方ができる。より多彩な浴槽を試したい向きには、徒歩約3分の外湯「七釜温泉ゆ〜らく館」がある。石風呂や桧風呂、露天の釜風呂など10の浴槽を備えた町営の日帰り施設で、宿からの湯めぐりに組み合わせやすい。 食事は浜坂港の水揚げが軸になる。浜坂は松葉ガニとホタルイカの水揚げで全国有数の港であり、11月から3月にかけての解禁期には刺身、焼き、鍋と、蟹を主役にした献立が並ぶ。自家栽培の野菜とコシヒカリを合わせ、館主が一品ずつ手をかける家庭的な構成である。宿泊は1泊2食付き13,200円からが目安で、蟹の相場によって時期ごとに変動する。アクセスはJR山陰本線の浜坂駅からタクシーで約8分、全但バス湯村温泉行きなら「七釜温泉口」下車徒歩約3分。大阪からは特急はまかぜが浜坂駅まで直通するため、鉄道だけで訪ねることもできる。車なら八鹿氷ノ山ICから国道9号で約50分、駐車場は無料10台。日帰り入浴は行っていないので、この湯を静かに味わうなら泊まるのが前提になる。
泉質
ナトリウム-硫酸塩泉
カルシウム-硫酸塩泉
湧出
動力揚湯
供給
源泉かけ流し
加温
加温なし
利用
宿泊 可/日帰り 不可
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13. 湯の峰温泉 旅館あづまや(和歌山県 田辺市)

熊野本宮大社の西、湯の谷川沿いの狭い谷あいに湯けむりを立てる湯の峰温泉は、開湯から約1800年を数えると伝えられ、日本最古の湯とも称される温泉地である。熊野詣の湯垢離場として栄え、川底から湧く小さな岩風呂「つぼ湯」は温泉としては世界で唯一、世界遺産に登録されている。その温泉街の中心に建つのが旅館あづまやである。江戸時代から続く湯治宿で、創業者は神職であったと伝わる。現在の建物は昭和初期から中期にかけて建てられた純和風の木造建築で、山肌に沿って別棟が背後に連なるため、表からは2階建てに見えて実質4階建てとも称される。廊下の古い窓ガラスの歪み、木の桟にねじ式の鍵、意匠を凝らした床柱——館内には昭和の湯治宿の空気がそのまま残っている。 あづまやの湯は、湯屋のすぐ脇に湧く自家源泉「環湯(たまきゆ)」から引かれている。泉質は含硫黄-ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉。源泉温度は92.5℃、pH7.6の弱アルカリ性低張性高温泉で、湧出量は測定不能とされるほど豊富である。公式サイトは「湯の峰温泉100%の源泉かけ流し」と明記し、循環ろ過も塩素消毒も行っていない。湯船には良質な温泉成分が湯の花となって浮かび、硫黄の香りが浴室を満たす。ただし90℃を超える高温源泉であるため、内湯では加水して湯温を調整している。その一方で「さまし湯」と名づけられた浴槽だけは、一切加水せず自然に冷ましただけの源泉100%の湯を張る。温泉通の客から最も高く評価されているのがこの湯である。 浴場の構成もまた独特である。看板は総槙造りの「槙風呂」で、大きさの異なる2つの湯船があり、24時に男女が入れ替わる。ふきぬけ天井の太い梁を見上げながら、槙の木の香りと硫黄の香りが混ざり合う湯に身を沈める時間は、この宿でしか味わえない。もうひとつの名物が「むしぶろ」だ。高温の温泉蒸気をそのまま利用したミストサウナで、自家源泉が浴室のすぐ脇にあるからこそ成立する設備であり、温泉大国の日本でも数軒しかないという。露天風呂は日本庭園を専門とする京都大学教授の設計によるもので、雨の日には本宮町の民芸品・皆地傘をかぶって湯浴みするのも一興とされる。加えて無料の家族風呂が2ヶ所あり、先着順で貸切利用できる。 訪ねるなら宿泊がよい。日帰り入浴は大人730円・子供420円で13:00〜15:00に受け付けていたが、感染症対策のため休止が続き、公式サイトでは2026年8月時点でも再開の案内が出ていない。宿泊は1泊2食付き2名1室で1名16,500円(税・入湯税別)から。夕食には紀南でしか味わえない美熊野牛の温泉しゃぶしゃぶ、朝食には温泉で炊いた特製温泉粥が並ぶ。到着後にまず槙風呂と蒸し風呂を楽しみ、つぼ湯の混雑が引いた頃に世界遺産の湯へ足を運び、夜は家族風呂を貸切に、翌朝は入れ替わった浴場でさまし湯と露天を味わう——公式サイトが薦めるこの過ごし方こそ、あづまやの真価である。エレベーターがなく上階は階段のため、足に不安がある場合は予約時に相談したい。アクセスは南紀田辺ICから車で約70〜90分、JR紀伊田辺駅から龍神バスで約100分である。
泉質
含硫黄-ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉
湧出
自然湧出
供給
源泉かけ流し
加温
加温なし
pH値
pH 7.6
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 可/日帰り 不可
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14. 長湯温泉 大丸旅館(大分県 竹田市)

長湯温泉 大丸旅館
引用: 長湯温泉 大丸旅館 HP
長湯温泉は奈良時代に編まれた『豊後国風土記』にもその名が見える古湯であり、芹川沿いにおよそ十数軒の宿が源泉かけ流しを守り続ける温泉地である。その最古参として大正6年(1917年)に暖簾を掲げたのが大丸旅館だ。与謝野鉄幹・晶子夫妻をはじめ、野口雨情、田山花袋、大仏次郎といった文人墨客がこの宿に逗留し、湯と料理を愛でた。玄関脇には文学碑が立ち、百年を超える湯治宿の風格を今に伝えている。 長湯温泉は「含鉄炭酸泉としては世界屈指」と評され、昭和8年(1933年)には九州帝国大学の研究者が稀有な炭酸泉として世界に紹介した。大丸旅館が誇る自家源泉「テイの湯」は、三代目女将が自ら掘り当てた一本で、泉質はマグネシウム・ナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩泉。溶存物質総量3.745グラム、湧出量は毎分450リットルにおよぶ。源泉温度46.7℃をそのまま浴槽へ注ぐ源泉かけ流しで、加水をしないため湯は茶褐色に濁り、口に含めば炭酸のかすかな刺激と鉄の風味が広がる。館内には飲泉用の茶碗が用意され、古くから胃腸に効く「飲む温泉」として親しまれてきた。 湯船は総ひのき造りの大浴場「テイの湯」が中心で、内湯に露天風呂が付く。さらに清流・芹川を眺めながら湯浴みできる貸切の家族風呂を3室備え、家族連れやカップルでも人目を気にせず炭酸泉を堪能できる。大丸旅館はまた、建築家・藤森照信氏の設計で全国的に知られる外湯「ラムネ温泉館」の運営元でもあり、高濃度の炭酸が肌に細かな気泡をまとわせる名物湯へも足を延ばせる。文人ゆかりの宿らしく、館内には長湯温泉にまつわる美術品を集めた一角も設けられている。 日帰り入浴は大人500円、3歳から小学生までは300円で、11時から17時まで利用できる。貸切の家族湯は1時間1,500円。宿泊は1泊2食付で14,000円台からと湯治宿らしい手頃さで、芹川に面した客室でくつろげる。アクセスは大分自動車道湯布院ICから車で約40分、JR豊後竹田駅からはバスで約50分「長湯」下車徒歩3分。無料駐車場は30台。炭酸泉は保温効果が高く、冷えのこたえる秋から冬の湯めぐりに特におすすめだ。周辺には無料の川湯「ガニ湯」や公衆浴場「御前湯」も点在し、長湯の湯めぐりを心ゆくまで楽しめる。
泉質
ナトリウム・カルシウム(・マグネシウム)-炭酸水素塩泉
温度
42℃ ~ 47℃
供給
源泉かけ流し
加温
加温なし
利用
宿泊 可/日帰り 可
入浴料
大人 500円/子供 300円
営業時間
月火水木金土日祝
11:00 - 17:00◯◯◯◯◯◯◯◯
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15. 湯の鶴温泉 湯宿 鶴水荘(熊本県 水俣市)

熊本県水俣市の中心部から湯出川をさかのぼった山あいに、湯の鶴温泉という小さな湯治場がある。約700年前、平家の落人が傷ついた鶴の湯浴みする姿を見て湯の存在を知ったと伝えられ、それが温泉地の名の由来になったという。1980年3月に国民保養温泉地に指定され、2022年10月には海沿いの湯の児温泉とあわせて「湯の児・湯の鶴温泉」として改めて指定されている。湯宿 鶴水荘は、昭和初期の面影を残すこの小さな温泉街の中心に建つ、全8室の湯宿である。 湯はアルカリ性単純温泉で、宿が示すpH値は8.5。無色透明で無味無臭ながら、湯に身を沈めるとすぐにわかるほど肌あたりがやわらかく、上がったあとに肌がつるりとする。湯の鶴温泉が「美肌の湯」と呼ばれるゆえんである。鶴水荘の6つの湯舟はいずれも天然温泉100%のかけ流しで、循環装置は使われていない。宿泊すれば24時間、好きなときに湯に浸かることができる。 浴場は一人用の露天「川ん湯」、貸切の露天「山ん湯」、3つの湯舟を備える「岩ん湯」、内湯の「石の湯」「陶の湯」など6か所。いずれも貸切で使える構成になっており、宿泊者は追加料金なしで巡ることができる。大浴場に人が集まる旅館とは違い、湯を独り占めできる時間が長いのがこの宿の性格である。食事は水俣や隣接する鹿児島県出水の旬菜を使った創作和料理で、客室は全室に冷暖房・冷蔵庫・ウォシュレットトイレ・Wi-Fiが備わる。 立ち寄り湯も可能だが、大浴場の入浴ではなく貸切風呂の貸し出しという形をとる。料金は1時間以内で2,000円または3,000円、浴室によって異なる。営業は10:00〜20:00で受付は19:00まで、定休日は不定休のため事前に電話(0966-68-0033)で確認しておきたい。宿泊は1泊2食付17,050円(税込)から。南九州自動車道の水俣ICから約15分、九州新幹線の新水俣駅からも車で約15分と、山間の秘湯としてはアクセスがよい。初夏には湯出川に蛍が舞い、川沿いを歩くだけでも過ごす価値のある季節になる。
泉質
アルカリ性単純温泉
供給
源泉かけ流し
pH値
pH 8.5
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 可/日帰り 可
入浴料
大人 2000円/子供 ---円
営業時間
月火水木金土日祝
10:00 - 20:00◯◯◯◯◯◯◯◯
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16. 吹上温泉 中島温泉旅館(鹿児島県 日置市)

鹿児島県日置市吹上町湯之浦。日本三大砂丘のひとつに数えられる吹上浜から車でわずか5分ほどの集落に、中島温泉旅館は建っている。この地に湧く吹上温泉は、旧称を伊作温泉といい、約500年前に農家の馬が発見したと言い伝えられてきた。なかでも当館の湯の来歴は際立っている。その昔、この湯は伊作島津家の当主・島津忠良、すなわち日新公の殿湯として使われていた。日新公は加世田征伐の際、家臣の鎌田小太郎の軍功に報いてこの温泉を与え、以来久しく「鎌田どんの湯」と呼ばれた。のちに中島家がこれを譲り受け、現在で四代を数える。維新前の伊作温泉が「地頭湯」「所湯」「打ち込み湯」と階級別に厳しく区別されていたなかで、当温泉は最上位の地頭湯に位置づけられていた。さらに西郷隆盛が明治3年、4年、7年にこの湯へ入浴したという記録が残り、小松帯刀も日記に伊作温泉を訪ねたことを書き残している。歴史の重みがそのまま湯船に沈んでいるような温泉である。 湯は硫黄泉で、低張性・アルカリ性・高温泉に分類される。pHは8.9、泉温は50.1度。特筆すべきは、源泉が旅館の敷地内に湧いているという点だ。公式サイトは「温泉は湧き出て3日で変化し、効能がなくなると言われています。つまり温泉において大切なことは、どれだけ源泉であるか」と説く。その言葉どおり、当館ではボイラーによる加温も加水も行わない。50度を超える高温の源泉を、そのまま浴槽へ注ぎ込むかけ流しである。適応症には神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、うちみ、冷え症、疲労回復といった一般適応症のほか、慢性皮膚病、慢性婦人病、切り傷、糖尿病などが挙げられている。敏感肌にも効くと評判で、西郷隆盛もその噂を聞きつけて訪れたと伝わる。 浴室は用途によって3つに分かれている。日帰り客も入れる大浴場は男女別に各1か所。古くから地元の人々を癒やしてきた湯で、日中は近隣の常連客で賑わう。宿泊者専用の貸切湯「西郷どんの湯」は、西郷が来遊したという言い伝えから石風呂を改装して命名されたもの。そして離れ「日新公の館」の利用者だけが使える「日新公の湯」は、内湯と露天を備えた広々とした造りで、チェックインからチェックアウトまで好きなときに入れる。宿そのものも独特だ。築70年を超える昭和レトロな本館を軸に、1日3組しか受け入れない。それは1組の客に「お寛ぎ」「お食事」「お布団」と3部屋を提供しているからで、宿の側が必要以上に部屋へ立ち入らないという方針の裏返しでもある。本館1階には開業当時の湯治宿の雰囲気をそのまま残した自炊専用客室が3室あり、自炊道具は無料で借りられる。昭和初期には、痛みを抱えて滞在した客が快復して置いていった杖が、倉庫に数百本も保管されていたという。 立ち寄り湯は朝6時から夜21時までと長く、大人380円、小学生150円、幼児80円という気軽さである。定休日は第1・3・5月曜日で、祝日にあたる場合は変更されることがある。駐車場は30台。アクセスは車が現実的で、鹿児島空港、JR鹿児島中央駅、九州自動車道の谷山ICのいずれからも約60分。公共交通機関ならJR伊集院駅から鹿児島交通バスで約40分、「伊作」バス停で降りてタクシーで5分ほどだ。周辺には見どころが多く、車で5分の吹上浜は日本の渚百選に選ばれた白砂と黒松の海岸、同じく5分の千本楠は樹齢800年を超える市指定天然記念物の大楠群、そして大汝牟遅神社は近年注目を集めるパワースポットである。焼酎好きなら車で10分の西酒造、20分の小正醸造も外せない。歴史の湯にじっくり浸かったあとは、南薩摩の風土を巡る一日にしたい。
泉質
硫黄泉
供給
源泉かけ流し
加温
加温なし
pH値
pH 8.9
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 可/日帰り 可
入浴料
大人 380円/子供 150円
営業時間
月火水木金土日祝
06:00 - 21:00◯◯◯◯◯◯◯◯
詳細ページを見る

予約前に確認しておきたい5点

貸切風呂は宿の設備のなかでも運用が細かく、公式サイトの表記だけでは読み取れないことがある。予約の前に次の5点を各宿の個票ページと公式情報で確かめておきたい。

利用が有料か無料か。 宿泊料金に含まれる宿と、1回あたりの料金がかかる宿がある。無料と明記されている宿でも、貸切露天と内湯で扱いが分かれることがある。

予約の要否と受付のタイミング。 湯田川温泉 九兵衛旅館と吉奈温泉 御宿 さか屋は予約不要と明記している。一方、濁河温泉 朝日荘のように混雑時だけ予約制に切り替える宿もある。

1回あたりの利用時間。 七釜温泉 湯宿 奥澤旅館は1回40分程度、船原温泉 船原館の立ち湯は1組45分が目安になる。連泊なら回数を分けて入るほうがゆとりを持てる。

支払い方法。 掲載16軒のうち、次の6軒はクレジットカードを扱っていない。山間部の宿が多く、現地に着いてからの現金調達は難しい。

  • 強首温泉 樅峰苑
  • 鬼首温泉 とどろき旅館
  • うぐいす谷温泉 竹の葉
  • 濁河温泉 朝日荘
  • 白川郷平瀬温泉 お宿 湯の里
  • 長湯温泉 大丸旅館

子どもの受け入れ条件。 家族での利用を考えるなら確認したい。湯田川温泉 九兵衛旅館は10歳(小学4年生)以上、強首温泉 樅峰苑は中学生以上に限って受け入れている。

日帰り入浴を受け付けていない5軒

掲載16軒のうち、次の5軒は日帰り入浴を受け付けていない。

  • 湯田川温泉 九兵衛旅館
  • 吉奈温泉 御宿 さか屋
  • 濁河温泉 朝日荘
  • 湯の峰温泉 旅館あづまや
  • 七釜温泉 湯宿 奥澤旅館

逆に言えば、この5軒の湯は泊まらなければ入れない。

混浴の大浴場がある3軒

貸切風呂とは別に、混浴の浴場を持つ宿が3軒ある。運用は宿ごとに正反対なので、事前に把握しておきたい。

  • 鬼首温泉 とどろき旅館——混浴大露天風呂「荒湯」は水着・バスタオル巻きでの入浴が禁止で、撮影も不可
  • 河内温泉 金谷旅館——名物の千人風呂は混浴だが、女性は湯浴み着やバスタオルを着用して入浴でき、専用の入口も設けられている
  • 滑川温泉 福島屋——混浴の内湯と混浴の岩露天風呂があり、岩露天風呂には女性専用時間が設けられている

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総まとめ|貸切風呂の宿はどう選ぶか

貸切風呂を目的にした宿選びは、「貸切があるか」ではなく「どういう貸切か」で決まる。

滞在中に何度も湯に入りたいなら、無料・予約不要の型を選びたい。湯田川温泉 九兵衛旅館は姉妹館の貸切風呂3か所も宿泊者が無料で使え、大浴場と合わせて計9か所の湯めぐりを案内している。吉奈温泉 御宿 さか屋の貸切露天2つは予約不要・無料で、宿泊者は6つの湯を24時間利用できる。

他人と浴室で顔を合わせたくないなら、浴場が貸切だけで構成された宿が確実だ。白川郷平瀬温泉 お宿 湯の里は貸切風呂2つのみで大浴場を持たない。七釜温泉 湯宿 奥澤旅館は内湯2つがいずれも貸切制で運用されている。湯の鶴温泉 湯宿 鶴水荘は貸切風呂6つを24時間開けており、いずれも天然温泉100パーセントのかけ流しだ。

湯そのものの個性で選ぶなら泉質と源泉温度を見たい。日景温泉は大浴場と貸切風呂で別の源泉を使い、貸切風呂用の源泉は約52.8℃と大浴場の38.4℃より高い。白川郷平瀬温泉 お宿 湯の里の源泉は93.2℃、湯の峰温泉 旅館あづまやは92.5℃で、いずれも高温の源泉を持つ。

移動の負担も判断材料になる。濁河温泉 朝日荘は御嶽山の標高約1,800mにあり、冬季の道路状況を含めて計画が要る。滑川温泉 福島屋は宿の手前に前川の崖沿いの狭路が続き、すれ違いと落石への注意が必要だ。逆に河内温泉 金谷旅館は伊豆急行線・蓮台寺駅から徒歩約4分で、車がなくても行ける。

各宿の泉質・pH・源泉温度・浴場構成・料金は個票ページにまとめてある。貸切の運用は宿の都合で変わることがあるため、予約時に直接確認するのが確実だ。

よくある質問(FAQ)

Q. 貸切風呂は追加料金がかかりますか。

宿によって異なる。掲載16軒のうち、次の8軒は貸切風呂を宿泊者が無料で使えると案内している。

  • 日景温泉
  • 湯田川温泉 九兵衛旅館
  • 鬼首温泉 とどろき旅館
  • 船原温泉 船原館
  • 吉奈温泉 御宿 さか屋
  • 濁河温泉 朝日荘
  • 湯の峰温泉 旅館あづまや
  • 湯の鶴温泉 湯宿 鶴水荘

一方、長湯温泉 大丸旅館の家族湯は1時間1,500円の時間貸しとなる。金額は改定されることがあるため、各宿の個票ページと公式情報で確認したい。

Q. 予約は必要ですか。

これも宿ごとに違う。湯田川温泉 九兵衛旅館と吉奈温泉 御宿 さか屋は予約不要と明記している。湯の峰温泉 旅館あづまやの無料の家族風呂2か所は先着順、鬼首温泉 とどろき旅館は入口の木札で空きを確認する方式だ。濁河温泉 朝日荘は空いていれば使えるが、混雑時のみ予約制に切り替わる。

Q. 日帰りでも貸切風呂に入れますか。

本記事は宿泊を前提に選んでいる。前掲の5軒は日帰り入浴そのものを受け付けていない。残る11軒は日帰り入浴を受け付けているが、貸切風呂が宿泊者専用に限られる宿もある。強首温泉 樅峰苑の貸切露天風呂2つと吹上温泉 中島温泉旅館の貸切湯「西郷どんの湯」は、いずれも宿泊者専用である。

Q. 貸切風呂も源泉かけ流しですか。

掲載16軒はいずれも源泉かけ流しの宿として登録している。湯の鶴温泉 湯宿 鶴水荘は6つの貸切風呂すべてが天然温泉100パーセントのかけ流しであると案内している。鬼首温泉 とどろき旅館は加水・加温・循環ろ過・入浴剤・塩素消毒のいずれも行っていない。浴槽ごとの扱いは各宿の個票ページに記載がある。

Q. 大浴場のない宿はどこですか。

白川郷平瀬温泉 お宿 湯の里は浴場が貸切風呂2つのみで、大浴場と露天風呂を持たない。七釜温泉 湯宿 奥澤旅館は内湯2つがすべて貸切制で、露天風呂とサウナもない。どちらも客室数が10室に満たない小さな宿である。

注意事項

  • 本記事に掲載している情報(入浴料金・営業時間・泉質データ・貸切風呂の運用等)は、リサーチ時点の情報をもとに作成しています。誤りや変更が生じている可能性もあります。最新の情報については、各施設の公式サイトや観光協会等でご確認ください。

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