静岡県の温泉は、伊豆半島と南アルプス南麓という、成り立ちのまったく違う2つの山域に分かれている。太平洋に突き出した伊豆半島には一軒宿クラスの小さな湯が数多く点在する。安倍川や大井川をさかのぼった南アルプスの谷筋には、道の細さがそのまま静けさに直結するような山あいの湯が待っている。
ここでは、宿泊可否・泉質・源泉かけ流しの別までデータで確認できた宿9軒を、伊豆エリアと南アルプス南麓エリアの順に並べた。施設ごとの数値は、見出し直下の個票ページに集約してある。県内では合計18件の温泉個票を公開している。より到達が難しい名湯10湯は別記事「静岡県の秘湯10選」にまとめた。本記事とは掲載施設をできるだけ重複させていない。
この記事でわかること
- 伊豆半島と南アルプス南麓で、温泉の性格がなぜこれほど違うのか
- 修善寺・湯ヶ島・梅ヶ島・寸又峡という主要な温泉地の特徴
- 泊まれる温泉宿9軒と、泉質データを載せた個票ページの入口
- 熱海・伊東など、本サイトに個票が無い大規模温泉地との違い
静岡に温泉が多い理由——衝突した半島と、深く巡る山の水
静岡県の温泉は、大きく2つの成り立ちに分かれる。
一つは伊豆半島側の湯である。伊豆半島は、かつて本州とは別の海底火山群島としてフィリピン海プレートの上を北上した地塊である。数十万年前に本州へ衝突して現在の姿になったとされる。県内でも有数の火山地帯として知られ、この地質を背景に半島各所の谷筋に小規模な源泉が数多く分布している。本記事で取り上げる河内温泉 金谷旅館の源泉は49.8℃・pH7.7の低張性の単純温泉である。伊豆半島の付け根に湧く伊豆畑毛温泉 誠山はpH8.7のアルカリ性単純温泉である。いずれも硫黄分を含まない無色透明の柔らかい湯だ。
もう一つは、安倍川や大井川をさかのぼった南アルプス南麓の谷に湧く湯である。梅ヶ島温泉や寸又峡温泉、接岨峡温泉がこれにあたる。伊豆のような火山性ではなく、地下深くを長い時間をかけて巡った水が湧き出すタイプの湯とされる。ただし同じ南アルプス南麓でも泉質は一様ではない。梅ヶ島温泉 おもいでの宿 湯の島館はpH9.2、寸又峡温泉 光山荘はpH9.1で、いずれも強いアルカリ性の単純硫黄泉である。一方、接岨峡温泉 たぶの家は硫黄分を含まないナトリウム-炭酸水素塩泉で、pH8.4、21℃という低温の源泉を加温して供給している。
同じ静岡県内で、pH7.6〜8.7で硫黄分を含まない伊豆側の湯と、pH9台の南アルプス側の湯が両方選べる。南アルプス側でも梅ヶ島温泉・寸又峡温泉は硫黄泉、接岨峡温泉は非硫黄泉と、同じ地域内で泉質が分かれるのも面白い。
静岡の主要な温泉地——修善寺・湯ヶ島・梅ヶ島・寸又峡
修善寺温泉(伊豆市)
弘法大師ゆかりの修禅寺と、川中に湧く独鈷の湯を中心に発展した温泉地。竹林の小径など散策路が整い、明治期創業の宿が今も営業を続けている。伊豆半島観光の起点として、初めて静岡の温泉を訪ねるならまず名前が挙がる土地である。
湯ヶ島温泉(伊豆市)
狩野川沿いに広がる、天城山麓の温泉地。川端康成の『伊豆の踊子』の舞台としても知られ、修善寺から天城峠へ向かう道筋にある。カルシウム-硫酸塩泉の宿が点在し、渓流沿いの静かな時間が流れる。
吉奈温泉・船原温泉・河内温泉(伊豆市・下田市)
船原温泉と河内温泉はそれぞれ一軒宿の温泉地で、伊豆半島の中でも比較的知られていない湯どころにあたる。吉奈温泉は天城連山の北麓を流れる吉奈川のほとりに広がる小さな温泉地で、御宿 さか屋はその中心に建つ老舗宿である。船原温泉は修善寺から土肥へ抜ける国道136号沿いに、河内温泉は下田市街から少し内陸に入った里山にそれぞれ湧く。共通するのは、観光地としての規模より湯そのものを目当てに通う客が多いという点である。
梅ヶ島温泉(静岡市葵区)
安倍川をひたすら遡った終点近く、南アルプス南端の山峡に湧く温泉郷。開湯およそ1700年と伝わり、武田信玄の隠し湯としても語り継がれてきた。単純硫黄泉のアルカリ性が高く、美肌の湯として知られる。
寸又峡温泉・接岨峡温泉(川根本町)
南アルプスの谷に沿った温泉地。寸又峡温泉は「夢のつり橋」で知られる観光地でもあり、大井川本線の終点・千頭駅から大鉄バス寸又峡線で約40分。接岨峡温泉はさらに山深く、千頭から大井川鐵道井川線に乗り継いだ接岨峡温泉駅から徒歩約8分で着く。大井川本線は台風被害により一部区間が不通で、区間によっては代行バスへの乗り継ぎが必要になる。いずれも公共交通の便数が少なく、訪問前に大井川鐵道公式サイトで運行状況を確認したい。
伊豆畑毛温泉(田方郡函南町)
伊豆半島の付け根、函南町に湧くアルカリ性単純温泉。伊豆の玄関口にあたる立地で、東京方面からのアクセスが比較的よい。
伊豆半島にはこのほか、熱海・伊東・稲取・伊豆長岡・熱川という、伊豆を代表する大規模な温泉地もある。熱海温泉は源泉総数が500を超え、総湧出量は毎分約20,000リットルに迫る。平均源泉温度は約63℃で、9割が42℃以上の高温泉である(熱海市公式サイトによる)。ただし、これらの温泉地の宿は本サイトには現時点で個票の登録がなく、本記事でも個別には取り上げていない。
掲載した9軒の選び方
観光施設としての規模ではなく、湯のデータで選んだ。条件は3つある。
- 宿泊できること(日帰り専用の浴場は本記事には含めていない)
- 泉質・源泉かけ流しの別・加水加温の有無が、施設ごとの個票ページで確認できること
- 静岡の秘湯記事(後述)に既に掲載している宿とできるだけ重複させないこと
結果として、9軒のうち7軒が源泉かけ流し(加温を含む)である。修善寺温泉 新井旅館は一部の浴槽のみかけ流しで、全浴場で循環ろ過を併用し季節によっては加水も行う。接岨峡温泉 たぶの家は21℃の源泉を加温して供給しており、かけ流しか循環かの詳細は公表されていない。pHは吉奈温泉 御宿 さか屋の7.6から梅ヶ島温泉 おもいでの宿 湯の島館の9.2まで幅がある。湯ヶ島温泉 湯本館はpHが未登録のため対象外とした。
1. 河内温泉 金谷旅館(静岡県下田市)
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 09:00 - 22:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
2. 吉奈温泉 御宿 さか屋(静岡県伊豆市)
3. 湯ヶ島温泉 湯本館(静岡県伊豆市)
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 12:00 - 14:30 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
4. 修善寺温泉 新井旅館(静岡県伊豆市)
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 11:30 - 14:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
5. 船原温泉 船原館(静岡県伊豆市)
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 12:00 - 15:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
6. 伊豆畑毛温泉 誠山(静岡県田方郡函南町)
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 09:00 - 20:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
7. 梅ヶ島温泉 おもいでの宿 湯の島館(静岡県静岡市葵区)
8. 接岨峡温泉 たぶの家(静岡県榛原郡川根本町)
9. 寸又峡温泉 光山荘(静岡県榛原郡川根本町)
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 14:00 - 17:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
もっと山深い湯へ——静岡の秘湯を巡る
本記事は「泊まれること」と「秘湯記事との重複を抑えること」を条件にした。そのため、南アルプス最奥の一軒宿や、下田・南伊豆の隠れた名湯の多くは別記事に譲った。静岡の秘湯10選では、修善寺温泉 新井旅館や湯ヶ島温泉 湯本館を含む、より到達しにくい湯を取り上げている。観音温泉、沢田公園露天風呂、南アルプス赤石温泉 白樺荘などである。
隣県の湯へ
静岡県は神奈川・山梨・長野の3県と接している。伊豆半島から箱根を越えれば神奈川県、南アルプス南麓からさらに北へ向かえば山梨県・長野県の山域が続く。県境をまたいで動くなら、隣県のガイドも参考にしたい。
【秘湯】神奈川県の秘湯・名湯 8選 — 箱根の古湯から丹沢の美人湯まで、知られざる名泉を巡る
【秘湯】山梨県の秘湯10選|南アルプスの秘境から信玄の隠し湯まで
総まとめ——静岡の湯めぐりの組み立て方
伊豆半島と南アルプス南麓は距離が離れており、一度の旅で両方を回ろうとすると移動だけで日が暮れる。エリアを一つに絞りたい。
【伊豆南部・下田】 伊豆急下田駅が起点になる。河内温泉 金谷旅館は駅から約10分の立地で、伊豆急行線・蓮台寺駅からは徒歩でも着ける。下田の海と幕末史跡めぐりと組み合わせやすい。
【伊豆中央・修善寺〜湯ヶ島】 伊豆箱根鉄道の修善寺駅が起点。修善寺温泉 新井旅館は駅からバスかタクシーで約10分。湯ヶ島温泉 湯本館・吉奈温泉 御宿 さか屋・船原温泉 船原館はいずれも修善寺からさらに山側に入る。宿同士の移動は車での移動が基本になる。
【伊豆の玄関口・函南】 伊豆畑毛温泉 誠山は、伊豆の付け根にあたる函南町にあり、東京方面からのアクセスが比較的よい。伊豆を周遊する前後の一泊にも向く。
【静岡市奥地・梅ヶ島】 新東名の新静岡ICから県道27号・29号(安倍街道)を安倍川沿いに北上して約50分。JR静岡駅からバスも出ているが便数が限られるため、時刻表の確認が欠かせない。
【南アルプス南麓・寸又峡〜接岨峡】 大井川鐵道の千頭駅がアクセスの起点になる。ただし本線の一部区間が不通のため、鉄道で向かう場合は家山駅でのバス乗り継ぎが必要になる。寸又峡温泉 光山荘へは千頭駅から大鉄バス寸又峡線で約40分。接岨峡温泉 たぶの家へは千頭から井川線に乗り継いだ接岨峡温泉駅から徒歩約8分。いずれも公共交通の便数が少なく、訪問前に大井川鐵道公式サイトで運行状況を確認したい。
季節については、山間部の露天風呂は晩秋から冬にかけて湯気が立ち、最も気持ちよい。ただし南アルプス南麓側の道路は冬季の凍結に備えたい。伊豆側は年間を通じて比較的穏やかな気候で、海と温泉を組み合わせた旅にも向く。
料金・営業時間・日帰り入浴の受付可否は変わりうるため、各宿の個票ページと公式情報で最新の状態を確認してほしい。
よくある質問(FAQ)
Q. 掲載した9軒は日帰り入浴もできますか。
宿によって異なる。河内温泉 金谷旅館、伊豆畑毛温泉 誠山などは日帰り入浴を受け付けている。一方、吉奈温泉 御宿 さか屋と接岨峡温泉 たぶの家は宿泊者専用で、日帰り入浴を行っていない。接岨峡エリアで日帰り入浴をしたい場合は、町営の接岨峡温泉会館が利用できる。受付時間と休止日は変わるため、各個票ページと公式情報で確認したい。
Q. 車がなくても行けますか。
伊豆南部・中央部は公共交通で入りやすい。伊豆急下田駅、伊豆箱根鉄道の修善寺駅がそれぞれの玄関口になる。河内温泉 金谷旅館は最寄り駅から徒歩でも着ける立地だ。一方、梅ヶ島温泉はバスの便数が少ない。寸又峡温泉・接岨峡温泉は大井川鐵道で入れるものの、本線の一部区間が不通で乗り継ぎが必要なうえ便数も限られる。いずれも事前に運行情報を確認したい。
Q. 源泉かけ流しの宿はどれですか。
9軒のうち7軒が源泉かけ流し(加温を含む)である。修善寺温泉 新井旅館は一部の浴槽のみかけ流しで、全浴場で循環ろ過を併用し季節によっては加水も行う。接岨峡温泉 たぶの家は源泉を加温して供給しており、かけ流しか循環かの詳細は公表されていない。浴槽ごとに湯づかいが違う宿もあるので、詳細は各個票ページの記載を見てほしい。
Q. 熱海温泉・伊東温泉の宿は載っていますか。
本記事の9軒には含めていない。掲載は、泉質・pH・源泉かけ流しの別まで個票ページで確認できた宿に絞った。熱海・伊東・稲取・伊豆長岡・熱川といった大規模温泉地の宿は、本サイトに現時点で個票登録がない。
Q. 静岡の温泉はいつが狙い目ですか。
露天風呂の湯気が立つ晩秋から冬が、湯そのものを味わうには向く。南アルプス南麓の山間部は道路の凍結に備えたい。伊豆側は年間を通じて比較的穏やかで、海沿いの散策と組み合わせやすい。
注意事項
- 本記事に掲載している情報(入浴料金・営業時間・泉質データ・営業期間等)は、リサーチ時点の情報をもとに作成しています。誤りや変更が生じている可能性もあります。最新の情報については、各施設の公式サイトや観光協会等でご確認ください。









