静岡県の秘湯10選——伊豆から南アルプスの源流へ

静岡県の伊豆半島は、日本でも指折りの温泉密集地である。半島そのものが、かつて南方の海に浮かんでいた火山島が、フィリピン海プレートに乗って本州へ衝突してできた特異な土地だ。火山活動と、いく筋も走る断層。この二つの恵みが、狭い半島の各所に多彩な湯を湧かせてきた。修善寺や湯ヶ島のある中伊豆から、下田を擁する南伊豆、駿河湾へ落ち込む西伊豆まで、泉質も景観も一様ではない。

伊豆はまた、文学の舞台でもある。川端康成は湯ヶ島温泉の湯本館に長く逗留し、この地で得た記憶が『伊豆の踊子』へと結実した。旅する踊子の一行が湯に浸かった湯ヶ野温泉の福田家も、小説にその名を刻む。いずれも日本秘湯を守る会に名を連ねる宿だ。

半島を離れると、県中部の山深くにも湯は湧く。安倍川の源流域には梅ヶ島温泉が、大井川の上流には寸又峡温泉と南アルプス赤石温泉があり、いずれも三千メートル級の峰が連なる南アルプスの懐に抱かれている。海辺の温泉とは対照的な、山峡の秘湯である。

静岡の湯は、伊豆半島と南アルプス山麓という、成り立ちの異なる二つの舞台にまたがる。今回は、そのなかから特に個性際立つ10か所を厳選した。中伊豆から南下し、西伊豆の海辺を経て、安倍川・大井川の源流へと遡る順に紹介する。


1. 修善寺温泉 新井旅館(静岡県伊豆市)

修善寺温泉 新井旅館は、明治5年(1872年)に創業した伊豆・修善寺を代表する老舗旅館である。弘法大師ゆかりの修禅寺や、川中に湧く独鈷の湯にほど近い温泉街の中心に位置し、修善寺川のせせらぎとともに150年余りの歳月を刻んできた。敷地内に点在する木造建築15棟は1998年に国の登録有形文化財となり、館全体が保存されている。大正から昭和にかけては芥川龍之介が逗留し、岡本綺堂は代表作『修禅寺物語』をこの宿で書き上げた。日本画の巨匠・安田靫彦をはじめ、多くの文人・画家が集った文化の宿としての歴史を持つ。 湯は伊豆に多いアルカリ性単純温泉で、pHは8.5。無色透明でやわらかな肌触りが特徴の、癖のない優しい湯である。ただし新井旅館の湯使いには正確な理解が必要で、公式の浴場案内は全ての浴場で循環ろ過を併用していることを明記している。源泉かけ流しとして楽しめるのは一部の浴槽に限られ、高温の源泉を適温に保つため季節によっては加水も行われる。いわゆる「100%源泉かけ流し」を掲げる宿ではなく、文化財建築と温泉文化を静かに味わう宿として捉えるのがふさわしい。 新井旅館の象徴が、総檜造りの大浴場「天平大浴堂」である。歴史画家・安田靫彦の設計により昭和9年(1934年)に完成したもので、奈良天平期の様式を思わせる格天井と檜の香りに包まれる空間は見応えがある。窓の外の池を泳ぐ鯉を眺めながら湯に浸かる趣向も、この宿ならではの美意識を伝える。ほかに木漏れ日の差す野天風呂や、静かに寛げる貸切風呂を備える。宿泊者向けには文化財建築をめぐるガイドツアー(500円)も用意され、建築と美術に親しみながら滞在できる。 日帰り入浴は大人2,500円(税別)、11:30〜14:00の利用が目安だが、時期により実施されないこともあるため事前確認が望ましい。宿泊は1泊2食付きで1名あたりおよそ35,000円からで、季節の会席料理が供される。アクセスは伊豆箱根鉄道修善寺駅からバスで約10分、またはタクシーで約7分。温泉組合の規定により旅館の送迎はないため、路線バスかタクシーを利用する。新緑や紅葉の季節はとりわけ美しく、竹林の小径や修禅寺など修善寺温泉の風情ある散策と合わせて訪れたい。
泉質
アルカリ性単純温泉
供給
一部かけ流し
pH値
pH 8.5
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 可/日帰り 可
入浴料
大人 2500円/子供 ---円
営業時間
月火水木金土日祝
11:30 - 14:0011:30 - 14:0011:30 - 14:0011:30 - 14:0011:30 - 14:0011:30 - 14:0011:30 - 14:0011:30 - 14:0011:30 - 14:00
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2. 湯ヶ島温泉 湯本館(静岡県伊豆市)

伊豆半島の中央、天城山の北麓を流れる狩野川のほとりに湯ヶ島温泉はある。その渓流沿いに、時が止まったように静かに佇むのが「川端の宿」湯本館である。この宿の名を不朽のものにしたのは、若き日の川端康成だ。大正11年(1922年)、二十代前半の川端はこの宿の四畳半に籠もり、伊豆を旅した学生時代の体験をもとに名作『伊豆の踊子』を書き上げた。彼が滞在した部屋は今も「川端の間」として当時のまま残され、文学ファンが全国から足を運ぶ。 湯本館の湯は、カルシウム・ナトリウム-硫酸塩泉である。源泉温度は約45℃と入浴に程よく、無色透明でやわらかな肌ざわりが心地よい。加水も加温もしない源泉かけ流しで供され、硫酸塩泉ならではの落ち着いた湯あたりが体の芯までじんわりと温める。派手さはないが、山あいの秘湯らしい滋味に満ちた湯である。 浴場は、男女入替制の大浴場に加え、入替制の露天風呂と貸切露天風呂を備える。とりわけ露天風呂は狩野川の川面すれすれに設えられ、せせらぎと木々の緑に包まれながら湯に身を沈める時間は格別だ。木造の館内には昭和の面影が色濃く残り、廊下を歩くだけで往時の文人たちの気配が漂う。夕餉には天城の山の幸や川の恵みを生かした料理が供され、静かな一夜を彩る。 日帰り入浴は12:00から14:30まで、大人1,000円・子供500円で楽しめ、貸切風呂は30分1,000円で利用できる。宿泊は1泊2食付でおおむね18,850円から。アクセスは東名沼津ICから車で約50分、あるいは伊豆箱根鉄道修善寺駅からバスで約35分と、伊豆の玄関口からも訪れやすい。新緑の頃、そして紅葉に染まる秋、狩野川の四季とともに文豪ゆかりの湯を味わいたい一軒である。
泉質
カルシウム-硫酸塩泉
供給
源泉かけ流し
加温
加温なし
利用
宿泊 可/日帰り 可
入浴料
大人 1000円/子供 500円
営業時間
月火水木金土日祝
12:00 - 14:3012:00 - 14:3012:00 - 14:3012:00 - 14:3012:00 - 14:3012:00 - 14:3012:00 - 14:3012:00 - 14:3012:00 - 14:30
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3. 湯ヶ野温泉 福田家(静岡県賀茂郡河津町)

伊豆・天城山の南麓、河津川のせせらぎに沿って静かに佇む湯ヶ野温泉。その中心にあって明治12年(1879年)から旅人を迎え続けてきたのが福田家である。この宿の名を不朽のものとしたのは、一人の若き文学者だった。一高生だった川端康成は、大正の初め、天城峠を越えて旅芸人の一座と出会い、この福田家に投宿した。橋のたもとから聞こえてくる踊子の太鼓の音、湯けむりの向こうに見えた無邪気な姿――その体験が、のちの名作『伊豆の踊子』へと結実する。川端が泊まった河津川を望む二階の一室は「踊子の間」として今も大切に遺され、宿は文学の聖地として全国の読者を惹きつけてやまない。 福田家の湯は、カルシウム・ナトリウム-硫酸塩泉である。源泉温度は約59℃と高く、pHは8前後の弱アルカリ性を示す。加水も加温も循環も消毒も行わない完全な源泉かけ流しで、無色透明のやわらかな湯にはほんのりと温泉の香りが漂う。硫酸塩泉らしく神経痛や筋肉痛、疲労回復などに効くとされ、肌をすべらかに包み込む湯ざわりは、湯治宿として愛されてきた歴史を物語る。派手さはないが、山あいの一軒宿が守り続けてきた本物の温泉である。 福田家最大の名物は、創業当時からほとんど姿を変えていないという榧(かや)材づくりの内湯「榧風呂」だ。木の温もりに満ちた小体な浴室には常に源泉が注がれ、川端が浸かったであろう湯を今も体感できる。ほかに河津川のせせらぎを聞きながら湯浴みできる露天風呂や岩風呂を備え、夜19時以降は浴場を無料で貸切にできるのも嬉しい心づかいである。夕餉には伊豆の海と山の幸が並び、木造の宿ならではのぬくもりに包まれて過ごす一夜は、まさに物語の世界に迷い込んだかのようだ。 日帰り入浴は大人990円・子供550円で、10:30〜15:00に利用できる(事前の問い合わせが望ましい)。宿泊は1泊2食付でおよそ12,750円からと、格式ある文学の宿としては手が届きやすい。アクセスは伊豆急行・河津駅から東海バスで約14分、「湯ヶ野」バス停下車徒歩3分。車なら東名高速・沼津ICから天城越え経由で約1時間30分で、宿と町営の無料駐車場が利用できる。河津桜の名所としても名高い河津の里を訪ね、『伊豆の踊子』の一節を胸に、時の止まったような湯宿でひとときを過ごしてみたい。
泉質
硫酸塩泉
供給
源泉かけ流し
加温
加温なし
pH値
pH 8.3
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 可/日帰り 可
入浴料
大人 990円/子供 550円
営業時間
24時間営業
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4. 観音温泉(静岡県下田市)

伊豆半島の南端に近い下田の山あい、横川の谷あいに湧くのが観音温泉である。その名の由来は開発工事にさかのぼる。掘削のさなか、地中から高さ五寸ほどの小さな観音像が姿を現し、これを浅草寺で開眼したうえで施設の入口に祀った。湧き出る湯を慈愛の心で人々に施したいという願いを込めて「観音温泉」と名付けられたと伝わる。都会の喧噪から離れた奥下田の秘湯として、静かな人気を集めてきた一軒である。 観音温泉最大の魅力は、その源泉の質にある。泉質はアルカリ性単純温泉。地下およそ600メートルから汲み上げられる湯はpH9.5前後という強アルカリ性で、名水と呼べるほどの超軟水である。源泉温度は42.6℃、湧出量は毎分約250リットルと豊富で、加温も加水も加えない自家源泉かけ流しを貫く。無色透明でとろりとした肌ざわりは「美肌の湯」と称され、飲泉が許可された数少ない温泉として、館内では源泉をそのまま口にすることもできる。ペットボトル入りの飲料水として全国に流通するほど、その水質は高く評価されている。 宿泊棟は本館をはじめ、正運館、離れの産土亭、ピグマリオンなどに分かれ、それぞれに趣を異にする。宿泊者だけが利用できる大浴場「観音乃湯ガラティア」では、内湯や露天を含む11の湯処を、16:00から翌朝8:30まで思う存分に湯めぐりできる。強アルカリの湯にゆっくりと身を沈めれば、肌がなめらかに包まれていくのを実感できるだろう。夕食には地の素材を生かした料理が供され、山あいの静けさとともに滞在を彩る。 日帰りで訪れるなら、敷地内の日帰り施設「観音プリンシプル」が便利である。内湯(高温・低温)、露天風呂、バイブラバス、サウナ、足湯がそろい、平日は大人1,300円・子供700円、土日祝は大人1,500円・子供800円で利用できる。営業は平日11:00〜16:00、土日祝11:00〜17:00。アクセスは伊豆急下田駅からタクシーで約25分、事前連絡で送迎バスも運行する。強アルカリの名湯をじっくり味わう、伊豆奥下田ならではの湯浴みを楽しみたい。
泉質
アルカリ性単純温泉
供給
源泉かけ流し
加温
加温なし
pH値
pH 9.5
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 可/日帰り 可
入浴料
大人 1300円/子供 700円
営業時間
月火水木金土日祝
休業休業休業休業休業休業休業休業
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5. 桜田温泉 山芳園(静岡県賀茂郡松崎町)

西伊豆・松崎町の中心部から下田方面へ少し入った桜田の里に、田んぼと山あいに抱かれるようにして一軒宿・山芳園が佇む。なまこ壁の街並みで知られる松崎の、海岸線から車でわずか五分ほどの内陸に位置しながら、ここには潮風とは異なる山里の静けさが流れている。宿の始まりは昭和五十五年(一九八〇年)、この地でみかんを育てていた農家が自らの手で源泉を掘り当てたことにさかのぼる。やがて旅館へと姿を変え、平成七年に全十室へと改築された今も、素朴な家業の温もりを残したまま「日本秘湯を守る会」の一員として湯守を続けている。 山芳園の湯は、カルシウム・ナトリウム-硫酸塩泉である。地中から湧き上がる源泉は約七十三度と高温で、pHは八・四前後のアルカリ性。毎分六百リットルを超える豊富な湧出量を背景に、加水も加温も循環も消毒も一切行わない、混じりけのない源泉かけ流しを実現している。湯はほぼ無色透明で、鼻を近づけるとかすかに硫黄の香りが立ちのぼる。切り傷ややけど、慢性皮膚病に効くとされ、肌をなめらかに整える「傷を癒やす湯・美肌の湯」として湯治客に語り継がれてきた。玄関脇には保健所の許可を得た飲泉処が設けられ、その滋味を口に含んで確かめることもできる。 浴場の主役は、奥行十メートル・広さ二十帖にもおよぶ貸切の大露天風呂である。宿泊者は空いていれば何度でも独り占めでき、深さ一メートルの湯に肩まで沈めば、山あいの空と季節の緑が湯面に映り込む。ほかにも男女別の檜の内湯、貸切家族風呂があり、客室に露天風呂を備えた部屋も三室用意されている。夕餉には地の海の幸・山の幸が並び、わずか十室という規模ゆえの行き届いたもてなしが、都会の喧噪を忘れさせてくれる。 山芳園は日帰り入浴を行わず、この極上のかけ流しは宿泊者だけに許された贅沢である。一泊二食付でおおむね一万八千七百円から、チェックインは十五時から、定休は火曜・水曜が目安となる。アクセスは沼津方面から伊豆縦貫道などを経て国道百三十六号を松崎へ向かい車で約九十分、公共交通なら伊豆急下田駅から東海バスで「桜田」下車、徒歩三分と分かりやすい。松崎の田んぼの花畑が彩る春や、堂ヶ島の夕景が美しい季節に合わせて、静かな山里の一軒宿へ湯浴みの旅に出かけたい。
泉質
硫酸塩泉
供給
源泉かけ流し
加温
加温なし
pH値
pH 8.4
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 可/日帰り 不可
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6. 大澤温泉 野天風呂 山の家(静岡県賀茂郡松崎町)

西伊豆・松崎町の山あいを流れる池代川のほとりに、大澤温泉 野天風呂 山の家はひっそりと佇む。源泉の歴史はおよそ250年前の江戸中期にまで遡り、川沿いに立ちのぼる湯けむりが発見の端緒になったと伝えられる。開湯当初から「化粧の湯」「美人の湯」と呼ばれ、湯治客に親しまれてきた。素泊まり自炊の宿「大沢荘 山の家」を併設し、天然鮎が泳ぐ渓流やホタル、カジカガエルが息づく素朴な山里の風景が、いまも変わらず訪れる人を迎える。 山の家の湯は、カルシウム・ナトリウム-硫酸塩泉である。pHは8.4前後の弱アルカリ性、源泉温度は約46.7℃の高温泉で、無色透明ながら肌をやわらかく包み込む。最大の特徴は、岩盤を削り出した浴槽の底そのものから毎分約230リットルもの湯が「ゴボッ」と音を立てて自噴する足元湧出であることだ。一度も空気に触れず、加水も加温も一切行わない鮮度そのままの源泉が、全国の温泉ファンの心をとらえてやまない。 浴場は男女別の野天風呂を中心に、1組50分制の貸切風呂を備える。飾り気のない木造の湯屋は築80年以上を数え、渓流を望む休憩室とともに、失われつつある湯治場の空気を色濃く残している。洗い場の蛇口からも惜しみなく温泉が流れ落ちるほど湯量は豊富で、その贅沢さこそがこの一軒の真骨頂といえる。湯は熱めで、湯上がりには肌がしっとりと滑らかになる。 日帰り入浴は大人600円・小人300円、野天と貸切の両方を利用しても900円という良心的な料金で、9時から21時まで楽しめる。定休日は毎月第2水曜日のみ。春は桜、初夏はホタルと鮎、夏は森林浴と、四季折々の渓谷美が湯浴みに彩りを添える。松崎町のなまこ壁の町並みや堂ヶ島、西伊豆の海岸線とあわせて訪ねれば、素朴で滋味深い伊豆の秘湯を存分に味わえるだろう。
泉質
カルシウム-硫酸塩泉
ナトリウム-硫酸塩泉
湧出
足元湧出
供給
源泉かけ流し
加温
加温なし
pH値
pH 8.4
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 可/日帰り 可
入浴料
大人 600円/子供 300円
営業時間
月火水木金土日祝
09:00 - 21:0009:00 - 21:0009:00 - 21:0009:00 - 21:0009:00 - 21:0009:00 - 21:0009:00 - 21:0009:00 - 21:0009:00 - 21:00
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7. 沢田公園露天風呂(静岡県賀茂郡西伊豆町)

沢田公園露天風呂は、静岡県西伊豆町仁科の沢田公園内、駿河湾に突き出す断崖の上に設けられた町営の公衆露天風呂である。三四郎島を望む海岸の岩場を活かした立地で、男女それぞれ4〜5人ほどが入れる小さな岩風呂が、崖のふちから海へと開けている。宿泊施設を持たない立寄り専用の共同浴場でありながら、その眺望の良さから伊豆有数の絶景露天風呂として知られ、遠方からも湯浴み客が訪れる。 泉質はナトリウム・カルシウム硫酸塩泉で、西伊豆町役場や観光協会の一次情報で確認されている。関節痛や慢性消化器病などへの効能が案内されている。一方で、源泉かけ流しか循環かといった湯の使い方については、町役場や観光協会など公式の一次情報に明記がなく、本稿では断定を避ける。pHは8.8とする資料が複数見られるが、源泉温度の公式値は公表されていない。訪問時に湯口の様子や施設の掲示を確認するのがよいだろう。 この露天風呂の真価は、なんといっても駿河湾を一望する開放感にある。眼下では遊覧船や漁船が行き交い、正面には水平線が大きく広がる。とりわけ夕刻、茜色に染まった空と海のあいだへ太陽が沈んでいく光景は圧巻で、多くの来訪者がこの時間帯を目当てに足を運ぶ。洗い場や内湯はなく、断崖の岩風呂に身を沈めて景色に浸る、素朴で潔い湯浴みが持ち味である。 料金は協力金制で、大人600円(西伊豆町民は400円)、小人200円と手頃だ。営業時間は季節で変わり、日の長い6〜8月は夜20時まで、3〜5月・9月は19時まで、10〜2月は18時までで、最終受付は終了の30分前。定休日は水曜日で、断崖上という立地ゆえ荒天時や清掃時には臨時休業となる。石鹸・シャンプーは使用できないため、湯上がりのケアは宿や自宅で。無料駐車場から階段を上った先の絶景を、夕景の時間に合わせて訪ねたい一湯である。
泉質
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩泉
pH値
pH 8.8
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 不可/日帰り 可
入浴料
大人 600円/子供 200円
営業時間
月火水木金土日祝
09:00 - 19:0009:00 - 19:0009:00 - 19:00休業09:00 - 19:0009:00 - 19:0009:00 - 19:0009:00 - 19:0009:00 - 19:00
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8. 梅ヶ島温泉 湯の宿いちかわ(静岡県静岡市葵区)

静岡市葵区の最奥、安倍川源流部に湧く梅ヶ島温泉は、約1700年前の応神天皇の頃に開湯したと伝わる古湯である。金山の採掘とともに栄え、武田信玄の隠し湯、徳川家康の秘湯としても語り継がれてきた。江戸時代には湯治場として名を高め、良純親王の病が癒えたという逸話も残る。その梅ヶ島温泉郷にあって、湯の宿いちかわは昭和42年(1967年)に創業した家族経営の一軒宿として、静かな山あいの湯を守り続けている。 自慢の湯はアルカリ単純硫黄泉で、pHは約9.4という高アルカリ性を示す。源泉温度は約40度と低めのため、約2キロ上流の源泉から丁寧に引き湯し、加水せず加温のみで適温に整えた源泉かけ流しである。ほのかな硫黄の香りと、肌にまとわりつくようなローション状のなめらかな湯ざわりが身上で、古くから「美人の湯」と称えられてきた。打撲や捻挫、疲労回復、リウマチ、婦人病など幅広い効能が伝えられ、湯上がりの肌のしっとり感は多くの湯客を魅了している。 浴場は男女別の内湯と露天風呂からなる。露天風呂は梅ヶ島温泉でも数軒しか持たない貴重な設えで、軒下から山の緑や渓流のせせらぎを感じながら湯に浸かることができる。浴槽は決して大きくはないが、その分だけ静かで落ち着いた湯浴みが叶う。宿では女将たちが腕をふるう自然派創作会席が供され、地元で採れた山の幸をふんだんに使った料理が評判を呼び、じゃらんアワード2024「泊まってよかった宿」を受賞している。 日帰り入浴は1時間600円で楽しめるが、団体の貸切などで利用できないこともあるため、事前に電話で確認しておくと安心である。宿泊は1泊2食付き11,500円からと山の宿らしい手頃さも魅力だ。アクセスは新東名新静岡ICから車で約50分、JR静岡駅からはしずてつジャストラインの梅ヶ島温泉行きバスで向かえる。新緑や紅葉の季節はもちろん、周辺には安倍の大滝や日本の滝百選の三段の滝など見どころも多く、秘湯めぐりと自然散策を組み合わせて訪れたい。
泉質
単純硫黄泉
温度
38℃ ~ 40℃
供給
源泉かけ流し
加温
加温あり
pH値
pH 9.4
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 可/日帰り 可
入浴料
大人 600円/子供 ---円
営業時間
月火水木金土日祝
10:00 - 15:0010:00 - 15:0010:00 - 15:0010:00 - 15:0010:00 - 15:0010:00 - 15:0010:00 - 15:0010:00 - 15:0010:00 - 15:00
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9. 南アルプス赤石温泉 白樺荘(静岡県静岡市葵区)

南アルプス赤石温泉 白樺荘は、静岡市葵区田代の山深い井川地区、畑薙第一ダムの手前に佇む静岡市営の温泉宿である。前身の旧白樺荘は、昭和32年(1957年)に畑薙ダム建設の飯場として建てられ、昭和41年(1966年)に温泉付きの山小屋として生まれ変わった。長く南アルプス登山者の憩いの場として親しまれてきたが、施設の老朽化に伴い、平成21年(2009年)7月、現在の場所に統合・新築されて再出発した。南アルプス赤石岳の名を冠するこの湯は、今も登山基地としての役割を担い続けている。 湯は単純硫黄泉。pH9.3というアルカリ性の湯は、肌をなでるようになめらかで、いわゆる「美人の湯」の趣がある。源泉温度は38.2℃とやや低く、低張性で微かに濁り、弱い硫化水素の香りをまとう。源泉の温度を補うため、平成23年度からは地元の間伐材を活かした木質バイオマスボイラーで加温されており、山あいの資源を循環させる持続可能な温泉づくりが行われている点も特徴的だ。神経痛や関節痛、皮膚病などへの効能がうたわれる。 最大の魅力は、山々を望む露天風呂である。湯に身を沈めれば、正面には茶臼岳や上河内岳といった南アルプス南部の名峰が連なり、四季折々に表情を変える。大浴場と多目的浴室も備え、登山で疲れた身体をゆっくりと解きほぐせる。館内では食事も提供され、日帰り入浴は中学生以上600円、小学生200円と、市営らしい良心的な料金で利用できる。 訪れるなら、山が輝く初夏から紅葉の秋がベストシーズンだ。畑薙方面へ向かう登山客にとっては、入山前後の貴重な入浴・宿泊拠点となる。宿泊は2人部屋・4人部屋を用意し、要予約。営業は4〜11月が10時〜18時、12〜3月が10時〜17時で、火曜定休。井川以奥は狭く曲がりくねった山岳道路が続くため、車での訪問は時間に余裕を持ち、公共交通の場合はバスの便数が限られる点に注意したい。
泉質
単純硫黄泉
温度
38℃ ~ 42℃
加温
加温あり
pH値
pH 9.3
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 可/日帰り 可
入浴料
大人 600円/子供 200円
営業時間
月火水木金土日祝
10:00 - 18:0010:00 - 18:00休業10:00 - 18:0010:00 - 18:0010:00 - 18:0010:00 - 18:0010:00 - 18:0010:00 - 18:00
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10. 寸又峡温泉 翠紅苑(静岡県榛原郡川根本町)

寸又峡温泉は、南アルプスの懐深く、大井川の支流・寸又川が刻んだ標高約550mの渓谷に湧く山あいの温泉である。その歴史は比較的新しく、昭和32年(1957年)に地元の望月恒一氏が源泉を掘り当て、翌昭和33年に温泉として認定されたのが始まりだ。翠紅苑は、この寸又峡温泉が開かれた当時から営業を続ける、地域で最も古い歴史をもつ温泉旅館である。大正浪漫の趣を今に伝える館内には、主人が集めた美術品や古道具が随所に飾られ、訪れる者を懐かしくも落ち着いた空気で包み込む。 寸又峡温泉は古くから「美女づくりの湯」と称され、とろりとした独特の肌ざわりで知られる。泉質は単純硫黄泉、源泉温度は約43℃、pHは9.18のアルカリ性で、かすかな硫黄の香りをまとう。約4km上流の源泉から引湯し、大浴場では温泉資源の保護と衛生管理のため加温・循環ろ過と塩素消毒を施している。一方、特別室には源泉かけ流しのプライベート家族風呂が備えられ、新鮮な湯を独り占めできる贅沢も用意されている。肌をなめらかに整えるやわらかな湯は、神経痛や筋肉痛、冷え症、慢性皮膚病、疲労回復などに効くとされる。 浴場は内湯と露天風呂に加え、バリアフリー対応を含む貸切家族風呂を備える。夕食には奥大井の山海の幸をふんだんに使った会席料理が並び、寸又峡名物の猪鍋や地元静岡の地酒とともに味わえる。館の周囲には名勝「夢の吊り橋」へと続く寸又峡プロムナードの遊歩道が延び、エメラルドグリーンの湖面に架かる吊り橋は多くの旅行者を惹きつけている。 寸又峡は秋の紅葉が特に美しく、例年11月中旬から下旬にかけて渓谷が錦に染まる。日帰り入浴は大人600円で11時30分から20時まで利用できるが、混雑時には受け付けられない場合があるため、宿泊とあわせて楽しむのがおすすめだ。アクセスは大井川鐵道 千頭駅からバスで約40分。山深い立地ゆえ公共交通の便数は限られるため、事前に時刻を確認して訪れたい。
泉質
単純硫黄泉
温度
40℃ ~ 43℃
供給
一部かけ流し
加温
加温あり
pH値
pH 9.2
pH
0714
酸性中性アルカリ性
利用
宿泊 可/日帰り 可
入浴料
大人 600円/子供 ---円
営業時間
月火水木金土日祝
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総まとめ——静岡の湯を巡る前に知っておきたいこと

静岡の秘湯は、中伊豆・南伊豆・西伊豆・安倍川と大井川の源流という4つのエリアに分けると計画を立てやすい。伊豆半島は鉄道とバスで回れる区間があるが、源流部の山峡はレンタカーが前提になる。移動の性格が大きく異なる点を、まず押さえておきたい。

【中伊豆】 修善寺温泉の新井旅館は、明治5年(1872年)創業の宿である。大正から昭和にかけて建てられた木造建築15棟が、国の登録有形文化財に指定されている。湯は源泉を生かした浴槽と循環を併用しており、館全体が源泉かけ流しというわけではない。この点は誤解のないよう押さえておきたい。伊豆箱根鉄道駿豆線の修善寺駅からバスで向かうのが基本だ。同じ中伊豆の湯ヶ島温泉には、川端康成ゆかりの湯本館がある。作家が逗留した部屋が今も残り、日本秘湯を守る会の一軒として湯治の趣を伝える。宿泊が中心のため、日帰り入浴の可否は事前に確認したい。

【南伊豆】 河津町の湯ヶ野温泉にある福田家は、『伊豆の踊子』の舞台として知られる河津川沿いの宿だ。春には河津桜で賑わう一帯にあり、こちらも日本秘湯を守る会に加盟している。下田市の観音温泉は、高アルカリ性の自家源泉を持つ美肌の湯として名高い。pHの高い湯は肌当たりがなめらかで、飲泉やボトル水でも知られる。山あいに宿泊棟が点在する滞在型の温泉である。

【西伊豆】 松崎町には、源泉かけ流しの秘湯が二つある。桜田温泉の山芳園と、那賀川沿いに建つ大澤温泉 野天風呂 山の家だ。いずれも観光地の喧騒から離れた立地で、湯そのものを目当てに訪れる宿である。同じ西伊豆でも、西伊豆町の沢田公園露天風呂は性格が異なる。駿河湾の断崖上に設けられた町営の公衆露天で、宿泊はなく立寄り入浴のみを受け付ける。男女別の浴槽から相模灘ならぬ駿河湾を一望でき、夕日の名所としても知られる。ただし湯づかいの詳細は公式に明示がないため、源泉かけ流しかどうかの断定は避けたい。

【安倍川・大井川の源流と南アルプス】 梅ヶ島温泉の湯の宿いちかわは、安倍川の最上流部に湧く山あいの宿である。静岡市街から北へ車で1時間ほど遡った渓谷にあり、アルカリ性の柔らかな湯が特徴だ。大井川水系に移ると、静岡市葵区の奥、畑薙ダムに近い南アルプス赤石温泉 白樺荘がある。茶臼岳や赤石岳への登山口に位置し、南アルプスを歩く人の拠点として親しまれてきた。市街から遠く、公共交通の便は限られるため、車での訪問が現実的だ。寸又峡温泉の翠紅苑は、「夢の吊り橋」で知られる寸又峡の玄関口に建つ。大井川鐵道の千頭駅からバスでアクセスできる。ただし大浴場は循環と塩素消毒を併用しているため、湯づかいそのものよりも、山峡の景観や散策とあわせて楽しむ湯と考えたい。

エリアをまたいで移動する場合、伊豆半島と南アルプス山麓は同じ静岡県ながら車で数時間離れている。二泊三日以上でエリアを絞って計画するのが現実的だ。いずれの施設も、日帰り入浴の受付可否や営業時間・料金、冬季の道路状況などは変わりうる。訪問前に各施設の公式サイトや観光協会で最新の情報を確認しておきたい。

秘湯に限らず、静岡県で泊まれる温泉宿を広く探すなら、伊豆と南アルプス南麓の9軒を整理した静岡県の温泉ガイドが入り口になる。

https://www.tan-ken.com/ja/blog/7vt46isoazaw

静岡だけでなく日本各地の秘湯を広く見渡すなら、日本三大秘湯と秘湯20選が入り口になる。

https://www.tan-ken.com/ja/blog/j5hf5xrd1sp

「名湯」と呼ばれる条件そのものを知りたい場合は、名湯の条件とはで泉質・湧出量・歴史の観点から整理している。

https://www.tan-ken.com/ja/blog/7i6xy39a_ck

今回の10か所を選ぶ基準にした秘湯度の評価方法は、Tankenが定義する温泉の評価方法にまとめている。

https://www.tan-ken.com/ja/blog/lqg95cwm69g

よくある質問(FAQ)

Q. 静岡県の秘湯で源泉かけ流しの宿はどこですか。

松崎町の桜田温泉 山芳園と大澤温泉 野天風呂 山の家は源泉かけ流しの宿である。一方、修善寺温泉 新井旅館は源泉浴槽と循環を併用し、寸又峡温泉 翠紅苑の大浴場は循環と塩素消毒を併用している。湯づかいは施設ごとに異なるため、各個票ページで確認したい。

Q. 日帰り入浴だけで利用できる温泉はありますか。

西伊豆町の沢田公園露天風呂は宿泊施設を持たない町営の公衆露天で、日帰り入浴のみを受け付ける。ほかの9施設は宿泊が中心の旅館のため、日帰り入浴の可否や受付時間は施設ごとに事前確認したい。

Q. 車がなくても行ける温泉はありますか。

修善寺温泉・湯ヶ島温泉・湯ヶ野温泉は鉄道駅からバスでアクセスできる。寸又峡温泉も大井川鐡道の千頭駅からバスで向かえる。一方、梅ヶ島温泉と南アルプス赤石温泉は公共交通の便が限られ、車での訪問が現実的だ。

Q. 美肌の湯として知られる温泉はどこですか。

下田市の観音温泉は高アルカリ性の自家源泉を持ち、美肌の湯として名高い。pHの高い湯は肌当たりがなめらかで、飲泉やボトル水でも知られる。

Q. 『伊豆の踊子』にゆかりのある温泉はどこですか。

湯ヶ島温泉の湯本館は川端康成が長く逗留した宿で、湯ヶ野温泉の福田家は小説の舞台として名を刻む。いずれも日本秘湯を守る会に加盟する宿である。

※本記事に掲載している情報(入浴料金・営業時間・泉質データ等)は、リサーチ時点の情報をもとに作成しています。誤りや変更が生じている可能性もあります。最新の情報については、各施設の公式サイトや観光協会等でご確認ください。

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