火山の恩恵を受けた温泉王国・鹿児島。源泉数は全国2位を誇り、霧島連山をはじめとする山々に囲まれたこの地には、人里離れた静かな秘湯が数多く存在する。今回は、自然湧出する野湯から、歴史ある一軒宿まで、鹿児島県が誇る秘湯10選を紹介する。
1. 霧島温泉 目の湯(霧島市)
霧島温泉最古の岩風呂として知られる野湯。県道1号線沿いの丸尾自然探勝路入口から、わずか徒歩1分ほどで到着できる。岩のくぼみに自然に温泉が溜まり、1〜2人が入れる大きさの天然の湯船となっている。古来より目に良い温泉として親しまれてきたことから「目の湯」の名がついたとされる。
温泉の色は無色透明で、香りや味もほとんどないが、岩の底から自然湧出している。季節や気候によって湯温が35℃〜60℃と大きく変化するため、入浴適温の時期を選ぶ必要がある。一般的に冬場はぬるめになる傾向がある。
目の湯のすぐ横には白濁した川が流れており、これが「川の湯」と呼ばれる。上流の霧島ホテル付近の噴気帯を通る温泉が流れ込んでおり、場所によって湯温が異なる。泥が豊富で、天然の泥パックも楽しめる。
- 泉質:自噴泉(詳細不明)
- 源泉かけ流し
- 浴槽:露天のみ
- 源泉温度:35℃〜60℃(季節変動あり)
- 日帰り入浴:可(無料)
- 宿泊:不可
- 営業期間:通年(ただし入浴適温は季節により異なる)
2. 霧島新燃荘(霧島市)
新燃岳の麓、標高920mの山間に佇む霧島温泉郷最奥の秘湯宿。海抜920mという九州最高地点にある温泉で、携帯電話の電波も届かない静寂に包まれた環境だ。2011年の新燃岳噴火で一時休業したが、翌年に営業を再開。九州温泉道の認定施設でもある。
最大の特徴は、強烈な硫黄臭を放つ白濁した単純硫黄泉。内湯の壁を伝って湯が流れ落ち、壁面には真っ白な湯の花が厚く付着している。露天風呂は混浴で、白濁しているため透明度が低く、女性でも比較的入りやすい。アトピーや水虫などの皮膚病に効くという評判も高い。
入浴は30分以内という制限があるため、長湯はできないが、その分泉質の濃さを物語っている。宿泊すれば、何度でも入浴でき、ゆっくりと温泉を堪能できる。
- 泉質:単純硫黄泉
- 源泉かけ流し
- 浴槽:内湯=2、露天=1(混浴)
- 源泉温度:62.7度
- 加水あり・加温なし・循環消毒なし
- 日帰り入浴:可(600円)
- 宿泊:可
- 営業期間:火曜定休(祝日の場合は翌日)
3. 竹林の湯(霧島市)
国道223号線沿い、鹿児島空港から車でわずか10分という好立地にありながら、奇跡的な秘湯として温泉愛好家の間で高く評価される野湯。塩浸温泉龍馬公園近くの竹林を下ること約3分で、別世界のような光景が広がる。
源泉は約50℃で湧出し、赤茶色に染まった岩肌を流れ落ちる間に適温となり、天然の岩のくぼみを利用した湯船に溜まる。湯船は上下2層に分かれており、上段は熱め、下段はぬるめと、好みに応じて入浴できる。
温泉成分が作り出した造形美は圧巻で、まるで芸術作品のよう。無色透明から黄色に濁った湯は、軽い炭酸味と鉄味がある。管理者不在の野湯だが、定期的に整備されており、脱衣用の板張りや椅子も設置されている。
隣を流れる川は澄んでいて、小魚も泳ぐ清流。夏場は川に入って熱冷交互浴も楽しめる。
- 泉質:含鉄泉系(推定)
- 源泉かけ流し
- 浴槽:野湯(2段)
- 源泉温度:約50度
- 日帰り入浴:可(無料)
- 宿泊:不可
- 営業期間:通年(24時間)
4. 妙見温泉 おりはし旅館(霧島市)
明治12年(1879年)創業、妙見温泉の歴史とともに歩んできた老舗旅館。日本秘湯を守る会の会員宿で、妙見温泉で最も古い歴史を持つ。鹿児島空港から車でわずか15分という好アクセスながら、約1万坪の広大な敷地に佇む静寂の宿だ。
大正2年建築の本館は、幾度かの災難を乗り越えた趣のある純和風建築。露天風呂付きの離れ客室が12室あり、時を忘れてゆっくりとくつろげる。
温泉は自家源泉を使用。特に有名なのが別館「山水荘」にある「キズ湯」で、妙見温泉の中でも当館にだけ自噴している33℃のぬる湯。泥で黄色く濁った独特のお湯で、湯の花が舞う。その他、露天風呂は透明な湯で、それぞれ異なる浴感が楽しめる。
斎藤茂吉をはじめ多くの文人墨客に愛され、大正から昭和初期には「鹿児島の奥座敷」として栄えた。
- 泉質:単純温泉(炭酸水素塩泉系)
- 源泉かけ流し
- 浴槽:内湯=2、露天=複数、貸切風呂あり
- 源泉温度:キズ湯33度、その他の湯は適温
- 日帰り入浴:可(キズ湯・竹の湯500円、露天風呂1,200円)
- 宿泊:可
- 営業期間:通年営業
5. 栗野岳温泉 南洲館(湧水町)
栗野岳の中腹、標高1,000mを超える場所に佇む一軒宿。明治9年に西郷隆盛が湯治に訪れたことから「南洲館」と命名された。日本秘湯を守る会の会員宿でもある。
最大の特徴は、3種類の異なる泉質を楽しめること。「桜湯」は酸性単純硫黄泉(pH2.8)で、白濁した優しい浴感。「竹の湯」は酸性・含鉄(II・III)-アンモニア-硫酸塩泉(pH2.2)で、鹿児島本土で最も酸性度が強い。灰色に濁り、強烈なアンモニア臭が特徴。湯船の底には硫黄を含んだ泥が沈殿しており、泥パックも楽しめる。「蒸し風呂」は天然の蒸気を利用したサウナで、高温室と低温室の2つがある。
名物は温泉の蒸気で蒸し上げる「蒸し鶏」。丸ごと一羽の鶏が温泉成分を吸って絶品の味わいになる。事前予約が必要だが、ぜひ試したい一品だ。
- 泉質:桜湯=酸性単純硫黄泉(pH2.8)、竹の湯=酸性・含鉄-アンモニア-硫酸塩泉(pH2.2)、蒸し風呂=ラジウム泉
- 源泉かけ流し(塩素消毒なし)
- 浴槽:内湯=3カ所(桜湯・竹の湯・蒸し風呂)
- 源泉温度:桜湯61度、竹の湯60度前後
- 加水あり・加温なし
- 日帰り入浴:可(1湯300円、2湯550円、3湯700円)
- 宿泊:可
- 営業期間:通年営業(現在は当面の間休業中の情報あり、要確認)
6. 吹上温泉 湖畔の宿 みどり荘(日置市)
みどり池の湖畔に佇む、昭和7年創業の秘湯宿。日本秘湯を守る会の会員で、斎藤茂吉が定宿とし「神の湯」と称えた名湯。明治初期には西郷隆盛も訪れたと伝えられる。全8室の静かな宿で、入口の正門は武家屋敷の門を移築したもの。
温泉は自家源泉と共同源泉の2本を使用。自家源泉は敷地内の地下70mから自然湧出する無色透明のお湯で、たまご臭のするヌルスベした浴感が特徴。露天風呂で使用される。共同源泉は黒っぽい透明な湯で、内湯と貸切風呂で使用。白と黒、色の違う硫黄泉が楽しめるのがみどり荘ならではの魅力だ。
みどり池の周りには遊歩道があり、季節ごとに桜や紅葉が楽しめる。露天風呂は男女別で、池の周囲に点在している。自然に囲まれた静寂の中、ゆったりとした時間が流れる。
- 泉質:自家源泉=単純硫黄泉(59.6度、pH9.0)、共同源泉=単純硫黄泉(36.4度、pH9.0)
- 源泉かけ流し(加水加温循環消毒なし)
- 浴槽:内湯=男女各1、露天=男女各1、貸切風呂=2
- 日帰り入浴:可(大浴場500円、家族湯700円前後)
- 宿泊:可
- 営業期間:通年営業(日帰り入浴は平日10:00〜19:30、土日祝前日10:00〜15:00)
7. 霧島温泉 川の湯(霧島市)
目の湯の横を流れる川全体が温泉になっている野湯。上流の霧島ホテル付近の噴気帯を通る硫黄泉と、旅行人山荘の源泉施設からのオーバーフローが合流して流れ込んでいる。
川は白濁しており、場所によって湯温が異なる。目の湯横の橋付近は比較的ぬるめで夏には適温、上流に遡るほど温かくなる。春や秋は橋から数十m遡った辺りが適温、冬季はさらに上流へ進むとよい。外気温や雨の後などで湯温が変わるため、その日のベストポイントを探す楽しみもある。
川の深さは数十cmほどで、流れがよどんだ湯溜まりや小さな滝壺など、天然の湯船を随所に見つけられる。透明度が低いため、混浴でも比較的入りやすい。アクセスも良く、温泉街から浴衣姿で散歩しながら来ることもできる、ビギナー向けの野湯だ。
- 泉質:硫黄泉
- 源泉かけ流し
- 浴槽:野湯(川全体)
- 源泉温度:場所により異なる(25℃〜45℃程度)
- 日帰り入浴:可(無料)
- 宿泊:不可
- 営業期間:通年(24時間)
8. 塩浸温泉(霧島市)
坂本龍馬とお龍が新婚旅行で訪れたことで知られる歴史ある温泉。現在は「塩浸温泉龍馬公園」として整備されており、足湯や資料館がある。竹林の湯へのアクセス拠点としても知られる。
温泉は単純温泉で、無色透明。龍馬とお龍は1866年にこの地を訪れ、傷を癒したと伝えられる。公園内には当時の建物を再現した施設もあり、歴史ロマンを感じながら温泉を楽しめる。
足湯は無料で利用でき、国道223号線沿いという好立地で気軽に立ち寄れる。周辺には竹林が広がり、静かな雰囲気が漂う。
- 泉質:単純温泉
- 浴槽:足湯、資料館に展示
- 日帰り入浴:可(足湯無料)
- 宿泊:不可
- 営業期間:通年営業
9. 妙見・安楽温泉郷の野湯群(霧島市)
天降川沿いに広がる妙見・安楽温泉郷には、いくつかの野湯が点在している。旅館文化が盛んな一方で、人の手が入らないありのままの温泉を味わえる野湯も、温泉好きの人々の間で人気だ。
国道223号線沿いの竹林を下りると温泉に辿り着く。入口には誰が設置したのか不明の門がある。温泉の下を流れる川は清流で、野湯の周辺は自然豊かな環境に包まれている。
あるがままの温泉ゆえに、どのように対峙して楽しむかは浸かる人次第。日常の中でささやかな冒険気分を味わえるのも、野湯の魅力のひとつだ。
- 泉質:含鉄泉系、炭酸水素塩泉系など(場所により異なる)
- 源泉かけ流し
- 浴槽:野湯
- 日帰り入浴:可(無料)
- 宿泊:不可
- 営業期間:通年(24時間)
10. 霧島湯之谷温泉 湯之谷山荘(霧島市)
霧島温泉郷の中でも特に自然に囲まれた場所に位置する一軒宿。原生林に囲まれた静寂の中、豊富な湯量を誇る源泉かけ流しの温泉を楽しめる。
露天風呂は森の中にあり、四季折々の自然を感じながら入浴できる。泉質は単純温泉で、無色透明のやわらかい湯。湯量が豊富なため、常に新鮮なお湯が注がれている。
内湯も広々としており、大きな窓から霧島の山々を望める。秘湯の雰囲気を持ちながら、設備は整っており、快適に過ごせる。
- 泉質:単純温泉
- 源泉かけ流し
- 浴槽:内湯=男女各1、露天=男女各1
- 源泉温度:50度前後
- 日帰り入浴:可
- 宿泊:可
- 営業期間:通年営業
鹿児島の秘湯を訪れる際の注意点
野湯について
野湯は管理者不在の自然の温泉です。以下の点に注意してください。
- 自己責任での利用となります
- 脱衣所や施設はほとんどありません
- 水着やバスタオルの着用をおすすめします
- ゴミは必ず持ち帰りましょう
- 周囲の自然環境を守りましょう
- 天候や季節によって湯温が大きく変わります
- 増水時は危険ですので、入浴を控えてください
アクセスについて
- 多くの秘湯は山間部にあり、道が狭い場所も多いです
- レンタカーの利用をおすすめします
- カーナビの設定は目的地周辺の施設を指定するとよいでしょう
- 冬季は路面凍結に注意してください
持ち物
- タオル(複数枚)
- 着替え
- 飲料水
- 虫除けスプレー(夏季)
- 懐中電灯(野湯の場合)
鹿児島の秘湯は、火山の恵みが生み出した自然の宝物。野湯の原始的な魅力から、歴史ある一軒宿の風情まで、多様な温泉体験ができる。日常の喧騒から離れ、静寂に包まれた温泉で心身ともにリフレッシュする贅沢を、ぜひ体験してほしい。
※情報はリサーチした時点での最新の情報ではありますが、誤りなどがある可能性もあり、最新の情報は公式サイトなどを確認ください。