【秘湯】宮城県の知られざる温泉10選 - 東北の隠れた名湯を訪ねて

秘湯

宮城県は源泉数749か所を誇る温泉大国です。その中でも、奥深い山間や渓谷に佇む秘湯は、温泉好きなら一度は訪れたい特別な場所。今回は、野湯から一軒宿、歴史ある湯治場まで、宮城県の秘湯を10件ご紹介します。

1. 吹上温泉 峯雲閣(大崎市・鬼首温泉)

鳴子温泉郷の最奥、鬼首温泉に佇む一軒宿。最大の魅力は、天然の滝がそのまま露天風呂になっている「仙人風呂」だ。地獄谷から流れ込む温泉が滝となり、その滝壺が野趣あふれる湯船になっている。

この大自然が作り出した露天風呂は、季節によって水温が大きく変動する。5月下旬から10月下旬頃が入浴に適した温度となり、取材時は37度ほどの絶妙なぬる湯であったという記録がある。真夏には50度を超えることもあり、雪解けシーズンには5〜6度まで下がることもある完全に自然まかせの温泉だ。

通年入浴可能な混浴露天風呂も備え、山間の渓流を眺めながらの入浴が楽しめる。内湯は男女別で4〜5人サイズ。秘湯の一軒宿として、客室数は8室のみ。

  • 泉質:アルカリ性単純温泉
  • 源泉温度:82.5度
  • pH:8.5
  • 源泉かけ流し
  • 浴槽:内湯=2、露天=2(混浴1、滝壺1)
  • 日帰り入浴:可(10:00〜13:00、大人500円)
  • 宿泊:可(8室、要予約)
  • 営業期間:通年営業(滝壺露天は季節限定)

2. 中山平温泉 琢ひで(大崎市)

鳴子温泉郷の中でも、特異な泉質で知られる中山平温泉の名宿。300年の歴史を持つ「うなぎ湯」と呼ばれる極上の温泉は、化粧水のようにとろりとした肌触りが特徴だ。

美肌の湯の4大要素である「アルカリ性」「硫黄泉」「炭酸水素塩泉」「硫酸塩泉」を兼ね備えた贅沢な泉質。pH9.2という強アルカリ性のお湯は、全国でも屈指のぬるぬる感を誇る。

館内には最大8つの湯船があり、湯巡りが楽しめる。混浴露天風呂「鶴亀の湯」をはじめ、内湯や貸切風呂など、それぞれ趣の異なる浴槽で源泉かけ流しの名湯を堪能できる。客室は16室の平屋建てで、露天風呂付き客室も用意されている。

  • 泉質:含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩・硫酸塩泉
  • 源泉温度:67.9度
  • pH:9.2
  • 源泉かけ流し(加水・加温なし、塩素消毒なし)
  • 浴槽:内湯=2、露天=6(混浴露天含む)
  • 日帰り入浴:可(10:30〜14:00、1,000円)
  • 宿泊:可(16室)
  • 営業期間:通年営業

3. 峩々温泉(川崎町)

蔵王南面の山奥、標高約800mの秘境に佇む一軒宿。周囲を蔵王の山々に囲まれ、携帯電話の電波は「ほぼ圏外」という隔絶された環境が、かえって都会の喧騒を忘れさせてくれる。

「日本三大胃腸病の名湯」の一つに数えられ、明治初期から受け継がれる温泉は100%源泉かけ流しだ。飲泉も可能で、体の内と外から温泉の効能を得られる。特徴的なのは「かけ湯」という独自の入浴法。47度の「あつ湯」と40度前後の「ぬる湯」、そして露天風呂と、多彩な湯船で峩々温泉伝統の入浴を楽しめる。

木造平屋造りの客室はすべて床暖房完備で、厳冬期でも快適に過ごせる。周囲に建物はなく、時間がゆるやかに流れる「峩々時間」を堪能できる秘湯中の秘湯だ。

  • 泉質:ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉
  • 源泉温度:64.4度(浴槽内43.3度)
  • 100%源泉かけ流し
  • 浴槽:内湯=2(あつ湯・ぬる湯)、露天=1
  • 日帰り入浴:要確認
  • 宿泊:可
  • 営業期間:通年営業

4. 青根温泉 湯元不忘閣(川崎町)

蔵王連峰の花房山中腹、標高800mに広がる青根温泉の名宿。開湯460年以上の歴史を持ち、伊達家の保養所として初代仙台藩藩主・伊達政宗も湯治に訪れたという由緒ある温泉だ。

「日本秘湯を守る会」会員宿として、温泉本来の魅力を大切にしている。お風呂の佇まいは芸術品レベルとの評判で、歴史を感じさせる浴室で源泉かけ流しの名湯を楽しめる。

創業480余年という長い歴史を持ちながら、客室数14室の小規模な旅館として、きめ細やかなおもてなしを提供。6種類の湯殿(うち2つは貸切風呂)で、青根の湯を存分に堪能できる。

毎年2月には「青根温泉 雪あかり」というイベントが開催され、雪で作った2,000余りの小さな祠にロウソクを灯す幻想的な景色が広がる。

  • 泉質:単純温泉
  • 100%天然温泉
  • 源泉かけ流し
  • 浴槽:内湯・露天含め6種類(貸切風呂2)
  • 日帰り入浴:可
  • 宿泊:可(14室)
  • 営業期間:通年営業

5. 鎌先温泉 最上屋旅館(白石市)

600年以上の歴史を持つ鎌先温泉は、「奥羽の薬湯」「傷に鎌先」として知られる湯治場。その中心的存在が、寛政元年(1789年)創業の最上屋旅館だ。

現在の本館は大正時代の建築で、木造3階建ての風格ある純和風建築。宮大工など職人の手仕事で丁寧に手入れされてきた館内は、歴史の重みと温もりを感じさせる。

温泉は鉄分を多く含んだ食塩泉で、灰色がかった薄茶色の濁り湯が特徴。「傷に鎌先」の名の通り、切り傷や火傷、手術後の回復に効能があるとされる。決して豊富とは言えない湯量だが、加水も循環もせず、昔ながらの温泉のあり方にこだわり続けている。

今でも湯治客を受け入れており、簡素ながらも清潔な自炊客室が20余室用意されている。日本の温泉文化を今に残す貴重な宿だ。

  • 泉質:ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉
  • 源泉温度:36.1度
  • pH:7.1
  • 源泉かけ流し(加温あり、無濾過)
  • 浴槽:内湯=2、貸切風呂あり
  • 日帰り入浴:可(10:00〜16:00、大人500円)
  • 宿泊:可(一般客室・自炊客室あり)
  • 営業期間:通年営業

6. 小原温泉 岩風呂 かつらの湯(白石市)

白石川の渓流沿いに立つ市営の共同浴場。かつて土砂に埋もれて長い間使えなかった源泉を、2004年に復活させた温泉だ。

最大の特徴は、洞窟風呂のような雰囲気の浴室。駐車場から川沿いの遊歩道を5分ほど歩き、受付小屋で入浴料200円を支払うと、そこから先は別世界だ。暖簾をくぐると、岩を削って作られたワイルドな浴槽が現れる。

環境保全のため、シャンプーや石鹸の使用は禁止。お湯がそのまま川に流れるためだ。備え付けのシャワーで体を流してから入浴するスタイル。渓流のせせらぎを聞きながら、源泉かけ流しの岩風呂に浸かる贅沢な時間を、たった200円で楽しめる。

周辺には遊歩道や吊り橋もあり、湯上がりの渓流散策も心地よい。

  • 泉質:単純温泉(低張性弱アルカリ性高温泉)
  • 源泉名:目の湯
  • 源泉かけ流し
  • 浴槽:岩風呂(男女別各1)
  • 日帰り入浴:可(8:00〜18:00、大人200円、小中学生100円)
  • 宿泊:不可
  • 営業期間:通年営業(臨時休業あり)

7. 新湯温泉 くりこま荘(栗原市)

新湯温泉 くりこま荘
新湯温泉 くりこま荘

栗駒山の麓、標高600mのブナ林に囲まれた山あいに佇む秘湯の宿。1720年に開湯され、栗駒五湯の中でも「幻の湯」とされてきた新湯温泉を、くりこま荘によって甦らせた温泉だ。

源泉は栗駒山の裏掛コース登山口に位置し、昔から参拝登山者の疲れを癒したと知られる秘湯。ほのかな硫黄の香りを漂わせながら、300年近い時を超えて流れるお湯が、ひときわ体も心にもしみ渡る。

白濁した温泉はよく肌に馴染み、多くの温泉ファンの心をとらえる。貸切風呂からは季節折々の栗駒の風情を五感で感じられ、自然に包まれた癒しのひとときを過ごせる。

食事は岩魚料理が主となり、注文ごとに生け簀のイワナを調理するため、まさに新鮮揚げたての極上が味わえる。山菜や郷土の食材にこだわった素朴な郷土料理も好評だ。客室は全8室で、源泉掛け流しと日本古来の湯治文化にこだわる秘湯の宿だ。

  • 泉質:含硫黄泉(白濁)
  • 源泉かけ流し
  • 浴槽:大浴場、露天風呂、貸切風呂あり
  • 日帰り入浴:要確認
  • 宿泊:可(8室)
  • 営業期間:通年営業

8. 東鳴子温泉 旅館大沼(大崎市)

鳴子温泉郷の東鳴子温泉に位置し、120年人々を癒し続けてきた名湯の宿。「日本秘湯を守る会」会員宿として、温泉本来の魅力を守り続けている。

最大の特徴は、2本の異なる重曹泉を持つこと。自家源泉は「純重曹泉」という全国でも数少ない貴重な泉質で、ナトリウムイオンと炭酸水素イオンがともに85%以上を占める。pH7.0の中性で、肌に優しくなめらかな肌触りの湯だ。もう一つの共同源泉は透明で塩分を含む重曹泉で、柔らかさを持ちつつもキレのある入り心地が特徴。

館内には8つの個性あふれるお風呂があり、そのうち5つは貸切可能で4つは無料。一人でもゆっくり温泉を楽しめる。特に庭園貸切露天風呂「母里の湯」は、新緑を眺め、鳥のさえずりを聞きながら入浴できる極上の空間だ。

古代植物層のミネラルを含んだ湯は、身体を芯から温め、驚くほど肌をよみがえらせてくれる。メタケイ酸が270を超える「天女風呂」は、美容液のようなお湯として温泉ファンに愛されている。

  • 泉質:ナトリウム-炭酸水素塩泉(純重曹泉)、ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉
  • 源泉温度:約64.9度、約66.4度
  • pH:7.0〜7.4
  • 源泉かけ流し
  • 浴槽:内湯=7、貸切露天風呂=1(計8つの浴槽)
  • 日帰り入浴:現在休止中
  • 宿泊:可(本館10室、湯治館16室)
  • 営業期間:通年営業

9. 遠刈田温泉エリア(蔵王町)

蔵王連峰東麓の標高330mの松川河畔に湧く、400年前の開湯といわれる歴史ある温泉地。足腰の痛みによく効くといわれ、温泉街には共同浴場「神の湯」「壽の湯」があり、気軽に名湯を楽しめる。

泉質は硫酸塩泉で、やわらかい湯質は神経痛やリウマチ、婦人病などに効用があるとされる。源泉温度は68度と高温なため加水しているが、かけ流しで楽しめる。

遠刈田温泉の由来には、三階滝の大ガニとの戦いに敗れた不動滝の大ウナギの切られた尾が流れ着いたことから、足腰の病に効く温泉になったとの伝説が残る。

温泉街には、みやげ店やこけし工房が軒を連ね、浴衣姿の客が闊歩する風情ある景色が広がる。仙台市内から車で1時間ほどとアクセスも良く、日帰り温泉旅行にも最適だ。

  • 泉質:硫酸塩泉(ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉)
  • 源泉温度:68度
  • かけ流し(加水あり)
  • 共同浴場:神の湯、壽の湯
  • 日帰り入浴:可(共同浴場は大人250円、子供150円)
  • 宿泊:可(複数の旅館・ホテルあり)
  • 営業期間:通年営業

10. 川渡温泉エリア(大崎市)

鳴子温泉郷の一つで、「脚気川渡(かかとがわたり)」として古くから知られる温泉地。開湯は江戸時代初期の元和・寛永年間と伝わり、湯治場として栄えた歴史を持つ。

温泉街には複数の旅館が点在し、それぞれが自家源泉を持つ。泉質は単純泉や硫酸塩泉が中心で、肌に優しい湯が多い。共同浴場もあり、気軽に温泉を楽しめる環境が整っている。

鳴子温泉中心部からは少し離れているため、静かな環境で温泉を満喫できる。周辺には田園風景が広がり、のどかな雰囲気の中で湯治を楽しめる穴場的温泉地だ。「山ふところの宿 みやま」など、保養スタイルの滞在ができる宿も人気がある。

  • 泉質:単純泉、硫酸塩泉など
  • 源泉かけ流しの宿あり
  • 共同浴場あり
  • 日帰り入浴:宿により可
  • 宿泊:可(複数の旅館あり)
  • 営業期間:通年営業

おわりに

宮城県の秘湯は、それぞれが個性豊かな魅力を持っています。天然の滝壺温泉、化粧水のようなうなぎ湯、600年の歴史を持つ薬湯、200円で入れる洞窟風呂など、バラエティに富んだ温泉体験が待っています。

アクセスが不便な場所もありますが、その分、人混みを避けて静かに温泉を楽しめるのが秘湯の醍醐味。都会の喧騒を離れ、自然の中で心身ともにリフレッシュする温泉旅をぜひお楽しみください。

※情報はリサーチした時点での最新の情報ではありますが、誤りなどがある可能性もあり、最新の情報は公式サイトなどを確認ください。