温泉と地質の関係|岩石と断層で選ぶ秘湯25選
日本には27,932の源泉がある。湧出量は毎分約251万リットル、1日に換算すると約362万キロリットルにのぼる(環境省 令和4年度調査)。日本列島が世界有数の温泉大国である理由は、その特異な地質構造にある。
日本列島は、東北日本と北海道側の北米プレート、西南日本側のユーラシアプレートという2つの大陸プレートの上にまたがる。そこへ太平洋プレートとフィリピン海プレートが沈み込み、活発な火山活動と複雑な断層系を生んできた。プレートの動きは年に数センチメートルにすぎないが、数百万年という時間をかけて日本列島の地形を作り上げている。
温泉が湧く基本の仕組みはなぜ温泉は湧くの?地質学から見た温泉の神秘で解説している。本記事はその応用編として、プレート・断層・岩石タイプという3つの切り口から秘湯を選ぶ視点を紹介する。
紹介する25か所は、当サイトのデータベースに登録した泉質・pH・源泉温度の分析値をもとに選んだ。数値と地質背景をあわせて確認できる点が、一般的な温泉ガイドとの違いだ。
秘湯を選ぶ基準は、アクセスや雰囲気だけではない。地質学的な視点を加えると、評判とは違う軸で温泉を比較できる。以降ではまずプレートとフォッサマグナという大枠を説明し、次に温泉が生まれる仕組みを解説する。そのうえで、泉質と地質の対応表、岩石タイプ別の秘湯、地域別の秘湯、カルデラ・活断層と秘湯という順に紹介していく。
日本列島の地質構造と温泉の関係性
日本の温泉分布は、地下のプレート運動と密接に結びついている。ここではプレートの配置とフォッサマグナという2つの基本構造から、温泉の地質学的な背景を整理する。
日本列島を形作る4つのプレート
日本列島は4つのプレートが関わる、地球上でもまれな場所に位置する。東北日本と北海道は北米プレートの上にあり、そこへ太平洋プレートが沈み込む。西南日本はユーラシアプレートの上にあり、そこへフィリピン海プレートが沈み込む。沈み込みとは、密度の大きい海洋プレートが、大陸プレートの下に潜り込んでいく現象をいう。この2種類の沈み込みが同時に進行している点が、日本列島の地質を複雑にしている一因だ。
沈み込んだプレートは深さ約100〜150kmに達すると、含んでいた水分を放出する。この水が上部マントルの融点を下げ、マグマを生む。この現象はフラックス融解と呼ばれ、単純な摩擦熱だけが原因ではない。海洋プレートには、海水を取り込んだ含水鉱物が含まれており、沈み込みに伴う圧力と温度の上昇でその鉱物が脱水する。放出された水がマントル物質に加わり、融点を下げることで部分的に融解が進み、マグマが生まれる。含水鉱物の脱水反応こそが、マグマ生成の主因とされている。
沈み込みに伴う火山フロント(火山前線)は、南北に連なる帯を作る。鳴子温泉・秋保温泉は、太平洋プレートの沈み込みに伴う火山フロント上にある。箱根温泉・指宿温泉は、フィリピン海プレートの沈み込みに伴う火山活動域だ。プレートの境界線そのものより、この火山フロントの位置が温泉分布を左右する。
プレート境界と温泉分布の相関関係
プレートの沈み込みは、必ずしも境界線そのものに温泉を生むわけではない。マグマが生成される深さと、火山フロントの位置が、実際の温泉分布を決める要因になる。
例えば登別温泉は、プレート境界そのものではなく、倶多楽カルデラと登別火山に由来する火山性温泉である。地下で生まれた熱水は、断層や亀裂を通路として地表まで上昇する。通路となる断層の密度も、地域ごとの温泉の多さに影響している。
フォッサマグナ:日本を分断する地質の境界線
フォッサマグナは断層ではなく、地殻が落ち込んでできた地溝帯である。地溝帯とは、両側を断層に挟まれ、中央部が相対的に沈み込んだ帯状の地形をいう。西縁は糸魚川-静岡構造線で、東日本と西日本の地質を分ける境界として知られる。
この地溝帯は、日本海が拡大した約2000万〜1500万年前に主な開裂が起きたと考えられている。地殻が薄くマグマが上昇しやすいため、草津温泉や箱根温泉はこのフォッサマグナ地域に位置する。地殻が薄い地域では、マグマがより浅い深度で地表に達しやすくなる。標高1,800mの万座温泉(群馬県)も、フォッサマグナ地域に湧く火山性の硫黄泉だ。西縁の糸魚川-静岡構造線が走る地域は、2009年にユネスコ世界ジオパークに認定された糸魚川ジオパークとしても知られている。
草津温泉は強酸性泉としてpH2.1前後を示し、自然湧出量(自噴量)としては日本一とされ、毎分32,300リットル以上にのぼる。ただし総湧出量でみると別府温泉郷が上回る。
温泉形成メカニズムの科学
温泉は火山性と非火山性という、2つの異なる成因を持つ。それぞれの仕組みと、両者が重なり合う地域の特徴を見ていく。
火山性温泉の形成プロセス
火山性温泉は、次の順で形成される。プレートの沈み込みでマグマが生成され、地殻内を上昇する。マグマの熱は周囲の岩石を通じて地下水に伝わり、熱水の対流が起きる。加熱された水は密度が下がって上昇し、周囲の冷たい地下水が下降することで、循環する対流系ができあがる。高温の水は岩石から鉱物成分を溶かし出し、断層や亀裂を通って地表に湧出する。
火山ガス由来の二酸化硫黄や硫化水素を多く含む水は、酸性泉や硫黄泉になりやすい。温度・圧力・接触する岩石の種類によって、溶け出す成分は変わる。強酸性泉の具体例は、後述の「岩石タイプで選ぶ秘湯」で個別に紹介する。
非火山性温泉のメカニズム
非火山性温泉は、マグマの直接的な熱源を持たない。地下深部まで浸透した水は、地温勾配(深さ100mごとに約3℃上昇する)によって温められる。数千メートルの深さまで浸透した水は、この勾配だけでも高温になりうる。断層や亀裂は、この深部の熱水が地表まで上昇する通路になる。
代表例が有馬温泉(兵庫県)である。フィリピン海プレート起源のスラブ脱水流体(有馬型深部流体)が熱源で、太古の海水がそのまま閉じ込められたという説ではない。塩分濃度は海水の約1.5倍とされ、日帰り温泉施設「太閤の湯」では、その湯を日帰りで確かめられる。
混合型温泉の特徴
火山性と非火山性の境界域では、両方の熱源が重なって働く場合がある。マグマの熱が届く範囲の外側で、地温勾配や断層系による熱水上昇が並行して起きるケースだ。
鳴子温泉郷では、同一の温泉郷内に環境省分類10〜11種のうち7〜9種の泉質が確認される。狭い範囲に火山性・非火山性の複数の熱源と水みちが重なっている証拠だ。
こうした地域では、同じ温泉地の中でも源泉ごとに泉質や温度が異なりやすい。2011年の東日本大震災後には、茨城県内の温泉で湧出量や泉質の変化が観測記録として残っている。次章の対応表と、地域別ガイドで具体例を確認してほしい。
主要な泉質と地質の対応表
泉質は、温泉水が通る地質と深く関わる。環境省の療養泉分類(2014年改定)では、泉質は全10種類に整理されている。当サイトに登録した温泉の分析値を交えて主要な泉質を整理した。泉質の詳しい見分け方は泉質の見分け方と選び方も参考にしてほしい。
泉質 | 関連する地質 | 代表例 |
|---|
単純温泉 | さまざまな地質 | 箱根湯本温泉(塩化物泉も混在)、下呂温泉(かつて重曹泉と呼ばれたアルカリ性単純温泉) |
塩化物泉 | 海成堆積岩・深部の古い地下水 | 有馬温泉(含鉄-ナトリウム-塩化物強塩泉、金泉)、熱海温泉(源泉の6〜8割がナトリウム・カルシウム-塩化物泉) |
炭酸水素塩泉 | 火山性・非火山性の両方でみられる | 東鳴子温泉 旅館大沼(宮城県、ナトリウム-炭酸水素塩泉) |
硫酸塩泉 | 火山地域 | 別府温泉郷(明礬温泉が含硫黄-アルミニウム-硫酸塩泉の代表) |
二酸化炭素泉 | 断層帯・火山後期活動 | 長湯温泉(世界屈指の炭酸泉) |
含鉄泉 | 鉄分を含む岩石 | 酸ヶ湯温泉(青森県、硫黄泉との複合) |
酸性泉 | 活火山周辺 | 草津温泉(pH2.1前後)、玉川温泉(pH1.2、国内最強クラスの酸性度) |
硫黄泉 | 火山地域 | 登別温泉、鳴子温泉郷 |
放射能泉 | 花崗岩地域 | 三朝温泉(世界屈指のラドン含有量)、増富温泉(12,300マッヘ) |
この表のうち、東鳴子温泉・酸ヶ湯温泉・三朝温泉・増富温泉は、当サイトに個票を持つ温泉として次章以降で詳しく紹介する。塩化物泉の有馬温泉と熱海温泉のように、同じ泉質に分類されても内訳(金泉と銀泉、Na・Ca-塩化物泉の比率)は施設ごとに異なる。酸性泉の草津温泉と玉川温泉も、同じ酸性泉でありながらpHは2.1前後と1.2という差がある。表の代表例はあくまで一例で、実際の数値は源泉ごとに確認する必要がある。
岩石タイプで選ぶ秘湯
岩石の種類は、温泉の泉質や成分を左右する。花崗岩は放射能泉を、安山岩質の火山地域は酸性硫黄泉を生みやすい。同じ岩石タイプに分類される温泉でも、深部の流体経路や滞留時間の違いによって、実際のpHや温度は施設ごとに変わる。ここでは当サイト掲載の秘湯13か所を、関わる岩石・地質現象ごとに分けて紹介する。
花崗岩地域のラドン・放射能泉
花崗岩にはウランやトリウムなどの放射性元素が含まれる。その崩壊で生じるラドンが地下水に溶け込むと、放射能泉になる。以下の三朝温泉・増富ラジウム温泉・湯の山温泉は、鳥取・山梨・三重と離れた土地にありながら、いずれも花崗岩を由来とする点で共通する。
三朝温泉 旅館大橋(鳥取県)
花崗岩地域のラドン供給を受け、世界屈指のラドン含有量で知られる。泉質は含放射能-ナトリウム-塩化物泉、pH6.5・62℃。共同浴場の株湯は日本遺産の構成文化財に認定されている。
引用:三朝温泉 旅館大橋HP三朝温泉 旅館大橋は、昭和7年(1932年)に倉吉の大橋旅館の別館として三徳川のほとりに創業した。当時の三朝はまだ温泉街として確立されておらず、大半が農家という素朴な集落であった。宮大工の粋を尽くした木造3階建ての建築は、竹・桜・栂・檜など各部屋ごとに異なる銘木をあしらい、最上階には傘天井という独特の意匠が施されている。1997年には本館・離れ・西離れ・大広間・太鼓橋の5棟が国の登録有形文化財に指定され、建物そのものが文化的価値を持つ全国でも極めて稀有な温泉旅館として名を馳せている。
旅館大橋の最大の魅力は、自家源泉5ヶ所のうち3ヶ所が自噴泉という贅沢な湯の恵みにある。名物の「巌窟の湯」は天然の岩盤の隙間から温泉が湧き出す足元湧出の浴場で、下の湯・中の湯にはラジウム泉、上の湯には三朝温泉で唯一のトリウム泉が満ちている。このトリウム泉は昭和23年(1948年)に世界一の濃度と認定された。泉質は含放射能-ナトリウム-塩化物泉で、源泉温度62℃、pH6.5。三朝温泉のラジウムは世界屈指の含有量を誇り、微量放射線によるホルミシス効果で免疫力の向上や新陳代謝の促進が期待されている。
もう一つの浴場「せせらぎの湯」は檜風呂と露天風呂を備え、三徳川のせせらぎを耳にしながら入浴できる風情ある湯処である。巌窟の湯とせせらぎの湯は男女入替制で、宿泊すれば両方を堪能できる。客室は全20室の和室で、それぞれに異なる銘木が使われており、太鼓橋は外見では優美な曲線を描きながら内部は平坦という巧みな建築技法が用いられている。料理は山陰の海の幸・山の幸を活かした懐石料理が供される。
日帰り入浴は大人1,000円で15:00から21:00まで利用可能である。JR倉吉駅からはバスで約20分、宿泊者には無料送迎サービスもある(要予約)。三朝温泉街には公衆浴場「株湯」や河原の露天風呂「河原風呂」などの名所もあり、旅館大橋を拠点に温泉街散策を楽しむのもよい。世界遺産の三徳山三佛寺投入堂へは車で約15分と近く、温泉と歴史探訪を組み合わせた旅が可能である。
営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
|---|
| 16:00 - 21:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る 増富ラジウム温泉 不老閣(山梨県)
山梨県の花崗岩地域に湧く放射能泉の代表格で、pH6.3の含放射能泉である。ラドン含有量は12,300マッヘに達するとされ、三朝温泉と並ぶ花崗岩由来の放射能泉として知られる。
標高1,050mの山あいに湧く、日本屈指のラジウム含有量を誇る増富ラジウム温泉。国際基準を超える放射能含有量として知られ、古くから「万病の湯」として各地から湯治客が訪れてきた。源泉温度は20.1度と低い冷鉱泉だが、温泉利用指導者が常駐し、適切な入浴法を案内してくれる宿もある。
不老閣では、岩盤の割れ目から自然にラジウム泉が湧き出る岩風呂が名物で、岩の床から直接泡とともに温泉が湧き上がる光景は独特の趣がある。また、ラジウム蒸気を吸入する専用室も備えており、飲泉も可能。加温した浴槽との交互入浴が基本的な入浴法とされている。
営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
|---|
| 12:30 - 14:00 | ◯ | × | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る湯の山温泉 寿亭(三重県)
背後にそびえる御在所岳は、白亜紀後期・約8000万年前に貫入した領家帯花崗岩(鈴鹿花崗岩)からなる。泉質は単純温泉で、中央構造線ではなく鈴鹿山系の花崗岩帯に関連する温泉として位置づけられる。
湯の山温泉は養老2年(718年)、浄薫和尚が薬師如来のお告げにより発見したと伝えられる、1300年以上の歴史を持つ古湯である。鈴鹿山脈の主峰・御在所岳の東麓、三重県三重郡菰野町に位置し、傷ついた鹿が傷を癒したという伝説から「鹿の湯」の別名でも親しまれてきた。寿亭はその湯の山温泉郷の中にあって、明治44年(1911年)に創業した老舗旅館である。創業以来110年以上の歳月を重ね、文豪・志賀直哉が逗留して短編小説「菰野」を執筆するなど、多くの文人貴人を迎えてきた格式ある宿として知られている。
寿亭の湯は「湯の山温泉 表湯(表Ⅰ・Ⅱ混合)」を源泉とする単純温泉(低張性弱アルカリ性低温泉)である。エマナチオンを多量に含んだアルカリ性のラジウム泉で、無色透明の湯はナトリウムイオン、炭酸水素イオン、フッ素イオンなどを含有する。疲労回復、神経痛、外傷・皮膚病、婦人病、動脈硬化症などへの効能があり、「美人の湯」として美肌効果にも定評がある。肌にしっとりとなじむ柔らかな湯ざわりは、長湯しても湯あたりしにくく、幅広い年齢層に親しまれている。
寿亭の魅力は、多彩な浴場と歴史的建築が織りなす空間にある。露天風呂からは御在所岳と御在所ロープウェイの雄大な眺望が広がり、四季折々の山岳風景を楽しみながらの入浴は格別である。6つの貸切風呂は「林泉閣」の石造り風呂3室と「渓声閣」の檜風呂・信楽焼風呂など3室で構成され、それぞれ趣の異なる湯浴みを堪能できる。昭和4年(1929年)建築の別館「水雲閣」は国の登録有形文化財に指定されており、百年を超す巨木から切り出した梁や、現在では大変珍しいコルバーン方式の板ガラスなど、近代和風建築の粋を今に伝えている。
日帰り入浴は大人1,000円、子ども500円で、11:30から15:00まで利用可能である。会席料理付きの日帰りプラン(7,700円~)も用意されており、地産地消にこだわった創作和会席を味わうことができる。新名神高速道路菰野ICから車で約10分、近鉄湯の山温泉駅からは無料送迎(要予約)もあり、名古屋方面からの日帰り旅行にも便利な立地である。紅葉の名所・御在所岳のロープウェイや、菰野町の里山散策と組み合わせれば、充実した温泉旅が楽しめるだろう。
営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
|---|
| 11:30 - 15:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る火山性の強酸性硫黄泉
火山ガス由来の硫化水素や二酸化硫黄を含む水は、強い酸性を帯びやすい。安山岩質の火山地域に多くみられる泉質だ。以下の4軒は山形・青森・群馬・栃木と東日本各地に分布し、いずれも火山活動に由来する強酸性泉である。
蔵王温泉 おおみや旅館(山形県)
山形県蔵王の火山活動による強酸性泉で、蔵王温泉は源泉ごとに性質が異なり、おおみや旅館の源泉はpH1.9・53.3℃を記録する。
山形市の南東、標高約880メートルの高原に湯けむりを上げる蔵王温泉は、西暦110年頃に日本武尊の東征へ随行した吉備多賀由(きびのたがゆ)が発見したと伝わる、開湯1900年の歴史を誇る東北屈指の古湯である。当初は発見者の名にちなみ「多賀由温泉」と呼ばれ、それが転じて「高湯」、さらに霊峰蔵王の名を冠して「蔵王温泉」となった。おおみや旅館は、その温泉街の中心に位置する創業1000年以上とも伝わる老舗であり、蔵王の歴史そのものを見つめ続けてきた宿である。
蔵王の湯を語るうえで欠かせないのが、その強烈な酸性度である。おおみや旅館が引く近江屋2号源泉は、泉質が酸性・含硫黄-アルミニウム-硫酸塩・塩化物泉、pHはわずか1.9という全国でも有数の強酸性泉だ。自然湧出する53.3℃の源泉を加温・加水せず100%かけ流しで湯船に注ぎ、硫黄の香りが漂う乳白色の湯が肌を包む。強い殺菌力を持つこの湯は古くから「傷に効く」と言われ、きりきず・やけど・慢性皮膚病などへの効能で知られる。ぴりりと刺激的な肌ざわりの奥に、じんわりと芯まで温まる力を秘めた、蔵王ならではの名湯である。
浴場は、木の温もりに包まれた「玉子温泉」をはじめ、源泉風呂・泡風呂、そして開放感あふれる源泉露天風呂、さらに足湯まで揃う。何より特筆すべきは館内の佇まいで、全館畳敷きの床は素足で歩く心地よさに満ち、大正ロマンを感じさせるレトロな意匠と竹久夢二の版画が随所を彩る。エレベーターのない階段づくりの造りもまた、時が止まったかのような懐かしさを旅人に伝える。強酸性の湯と、時代を超えた宿の風情。この二つが響き合うところに、おおみや旅館ならではの魅力がある。
日帰り入浴は12:00〜14:00、大人880円で楽しめる。露天風呂は雪深い11月下旬から4月上旬まで冬期閉鎖となるため、露天を目当てにするなら新緑から紅葉の季節が狙い目だ。一方、冬は樹氷で名高い蔵王の白銀世界とセットで訪れる価値がある。アクセスは山形蔵王ICから車で約30分、JR山形駅からはバスで約45分。宿泊客には山形駅からの無料送迎バス(要予約)も用意される。強酸性の湯に身を浸し、レトロな畳廊下を歩けば、1900年の歳月が積み重ねてきた蔵王の湯の記憶が、静かに肌へと沁み込んでくるだろう。
泉質
酸性-含硫黄・(ナトリウム)-硫酸塩泉(硫化水素型)
営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
|---|
| 12:00 - 14:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る酸ヶ湯温泉(青森県)
八甲田山麓に湧く一軒宿で、pH1.8の強酸性、硫黄泉と含鉄泉の性質をあわせ持つ。総ヒバ造りの大浴場「ヒバ千人風呂」は混浴で知られる。
引用:酸ヶ湯温泉 HP営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
|---|
| 07:00 - 18:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る 万座温泉 日進館(群馬県)
標高1,800mに位置し、フォッサマグナ地域の火山性硫黄泉として湧く。泉質は酸性硫黄泉、pH2.5。
引用: 万座温泉 日進館 HP標高1,800メートルに位置する万座温泉日進館は、星に最も近い温泉宿として知られる。敷地内から源泉が自噴しており、毎分1,800リットル、日量540万リットルという圧倒的な湯量を誇る。
泉質は日本屈指の硫黄濃度を持つ酸性硫黄泉で、乳白色の濁り湯が特徴だ。温泉は自噴、白濁、高温、効能、かけ流しの五拍子揃った極上の温泉である。天然木造りにこだわった3つの湯処があり、特に展望露天風呂「極楽湯」は、万座の山々や満天の星空を眺めながら入浴できる絶景風呂として人気が高い。
大浴場「長寿の湯」では源泉100%の姥湯、大人数で入れる苦湯、打たせ湯が楽しめる滝湯など、6種類の浴槽が楽しめる。食事は朝夕ともバイキングスタイルで、「まごわやさしい」にこだわった和洋中40品以上のバランスメニューが提供される。
営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
|---|
| undefined - undefined | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る 奥那須温泉 大丸温泉旅館(栃木県)
那須火山帯に位置し、単純温泉・単純硫黄泉が72℃で湧く。那須連山の火山活動が、この高温の湧出を支えている。
那須連山の懐、標高約1,300メートルの奥那須に、大丸温泉旅館はひっそりと湯を湛えている。創業は200年以上前に遡り、藩政時代には黒羽藩主の大関氏が湯治に通ったと伝えられる名湯である。明治に入ると、日露戦争で名を馳せた乃木希典将軍夫妻がこの宿を愛し、館内には将軍ゆかりの写真や手紙が今も大切に残されている。那須ロープウェイの山麓に位置し、那須連峰への登山客や、俗世を離れて湯に浸かりたい湯治客を、二世紀にわたって迎え続けてきた。
この宿を唯一無二たらしめているのが、山肌を流れ下る温泉の川そのものを湯船にした大野天風呂「川の湯」である。複数の自家源泉から湧く39〜72℃の湯が渓流となって流れ、それを約100メートルにわたって三段にせき止めることで、5つの野天風呂が生まれた。下流から「もみじの湯」「白樺の湯」「あじさいの湯」「あざみの湯」、そして最上流の女性専用「山ゆりの湯」と続く。湯は無色透明でクセのない柔らかな単純温泉。加水も加温も循環もない、掛け流しどころか川そのものという究極のかけ流しである。
「川の湯」は、日本古来の混浴の作法を創業以来守り続ける希少な湯でもある。とはいえバスタオルや湯浴み着を着用するスタイルなので、混浴に不慣れな人でも構えずに楽しめる。料金には湯浴み着とフェイスタオルが含まれ、手ぶらで秘湯情緒に飛び込める配慮がうれしい。川の湯のほかにも、男女別の内湯、女性専用露天、家族風呂、そして湯を口にできる飲泉所を備える。貸切の内湯には単純硫黄泉という別の源泉が引かれており、性質の異なる二つの湯を一軒で味わえるのも大丸の贅沢だ。
日帰り入浴は大人1,300円、子供1,000円で、受付は11:30から14:30まで、入浴は15:00まで。湯浴み着とタオルが付くため、思い立って立ち寄っても安心である。宿泊なら1泊2食17,600円からで、宿泊者専用の貸切風呂「相の湯」を24時間無料で使える。アクセスは東北自動車道の那須ICから那須高原有料道路経由で車約30分、JR那須塩原駅からはバスで約60〜70分。標高が高く冬季は路面が凍結するため、雪道の装備は忘れずに。新緑と紅葉のころがとりわけ美しく、那須ロープウェイや那須岳登山と組み合わせれば、奥那須の自然を丸ごと堪能できる一日になるだろう。
営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
|---|
| 11:30 - 15:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る非火山性・深部熱水由来の温泉
マグマの熱を伴わずに、地下深部の熱水循環だけで湧く温泉もある。プレートの沈み込みに伴う流体や、断層系の熱水上昇が主な熱源になる。和歌山と富山という、火山地帯からは離れた地域の2軒を紹介する。
川湯温泉 冨士屋(和歌山県)
紀伊半島に湧く非火山性の高温泉で、源泉温度は70℃に達する。泉質はナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉。マグマの直接的な熱源を持たない地域でも、深部の地下水循環がこれほどの高温を生み出す例である。
川湯温泉は、熊野本宮大社の南西を流れる大塔川の河原を掘れば、どこでも湯が湧き出すという全国でも珍しい温泉地である。冨士屋はその川湯温泉で最も長い歴史を持つ旅館で、江戸時代の創業とされる。熊野三山を目指す参詣者が中辺路を歩いた時代から、この川辺の湯は旅の疲れを癒やす場であり続けてきた。現在も日本秘湯を守る会の会員宿として、世界遺産・熊野古道をたどる人々を迎えている。
湯は無色透明のナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉で、和歌山県温泉協会は液性を中性と記載している。源泉温度については情報が分かれており、宿の公式サイトが「地下8メートルから湧き上がる70度の源泉」と説明するのに対し、和歌山県温泉協会と日本秘湯を守る会はいずれも62度としている。なお「単純温泉73度」という数字を見かけることがあるが、これは河原一帯に湧く川湯温泉の源泉を指した説明であり、冨士屋の分析値ではない。いずれの値にせよそのままでは熱すぎるため加水して適温に整えているが、循環ろ過は行わず、館内すべての浴槽が源泉かけ流しである。
浴場は内湯2、露天3の計5か所。紀州特産の槇を用いた槇風呂、大理石風呂、そして大塔川に面した野趣あふれる露天風呂と、趣の異なる湯船を巡ることができる。チェックイン後に予約する貸切露天風呂もあり、家族連れや二人旅でも気兼ねなく湯を楽しめる。客室は全31室で、うち3室には専用の露天風呂が付く。部屋はいずれも大塔川に向いており、川面から湯煙が立ちのぼる光景や、山あいの澄んだ夜空を眺めながら過ごせる。
最大の見どころは、12月から2月末にかけて宿の目の前の河原に出現する幅約50メートルの大露天風呂「仙人風呂」である。冬にしか現れないこの巨大な湯船は水着着用で無料開放され、宿泊者は宿から歩いてそのまま向かうことができる。ただし冨士屋自体は日帰り入浴を受け付けておらず、館内の湯を味わうには宿泊が必要となる。宿泊料金は1室2名利用で1名あたり16,500円から27,500円(1泊朝夕食付)が目安。アクセスは阪和自動車道 南紀田辺ICから国道311号経由で約90分、公共交通機関ならJR紀伊田辺駅から龍神バスで約2時間、「川湯温泉」バス停下車すぐである。熊野本宮大社まで車で5分ほどなので、参拝と組み合わせた一泊が組みやすい。
詳細ページを見る黒薙温泉(富山県)
黒部峡谷・飛騨帯に位置する単純温泉で、pH8のアルカリ性を示す。トロッコ電車の運行期間(概ね5〜11月下旬)にあわせた季節営業で、冬季は営業を休止する。
引用: 黒部・宇奈月温泉観光局 HP黒部峡谷の山奥に佇む黒薙温泉は、トロッコ電車でしか辿り着けない秘境の一軒宿だ。正保2年(1645年)に発見され、慶応4年(1868年)に加賀藩から開湯を許可されるまで、「隠れ湯」として利用されていた歴史を持つ。
宿の隣接地には毎分2,000リットルという豊富な湧出量を誇る源泉があり、宇奈月温泉郷全体の湯量をまかなっている。無色透明で柔らかな湯は、肌をつるつるにしてくれる美肌の湯として人気だ。
混浴の大露天風呂(28畳敷相当)と女性専用露天風呂「天女の湯」があり、黒部峡谷の野趣あふれる雄大な自然美を満喫できる。営業期間は5月上旬から11月下旬まで。客室にテレビはなく、日々の雑踏から離れてゆっくりと流れる時間を楽しめる。
営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
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| 09:00 - 16:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る 炭酸水素塩泉・二酸化炭素泉の宝庫
炭酸水素イオンや二酸化炭素を多く含む泉質は、断層帯や火山活動の後期段階に多くみられる。宮城と大分、東北と九州という離れた地域に、この泉質の代表例がある。
東鳴子温泉 旅館大沼(宮城県)
鳴子温泉郷を構成する一地区で、ナトリウム-炭酸水素塩泉、ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉が湧く。pH7.2で、郷内の泉質の多様性を示す一例である。
泉質
ナトリウム-炭酸水素塩泉
ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉
営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
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| 11:00 - 14:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る長湯温泉 大丸旅館(大分県)
世界屈指の炭酸泉として知られ、炭酸水素塩泉の代表例でもある。泉質はナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩泉、46.7℃。
引用: 長湯温泉 大丸旅館 HP長湯温泉は奈良時代に編まれた『豊後国風土記』にもその名が見える古湯であり、芹川沿いにおよそ十数軒の宿が源泉かけ流しを守り続ける温泉地である。その最古参として大正6年(1917年)に暖簾を掲げたのが大丸旅館だ。与謝野鉄幹・晶子夫妻をはじめ、野口雨情、田山花袋、大仏次郎といった文人墨客がこの宿に逗留し、湯と料理を愛でた。玄関脇には文学碑が立ち、百年を超える湯治宿の風格を今に伝えている。
長湯温泉は「含鉄炭酸泉としては世界屈指」と評され、昭和8年(1933年)には九州帝国大学の研究者が稀有な炭酸泉として世界に紹介した。大丸旅館が誇る自家源泉「テイの湯」は、三代目女将が自ら掘り当てた一本で、泉質はマグネシウム・ナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩泉。溶存物質総量3.745グラム、湧出量は毎分450リットルにおよぶ。源泉温度46.7℃をそのまま浴槽へ注ぐ源泉かけ流しで、加水をしないため湯は茶褐色に濁り、口に含めば炭酸のかすかな刺激と鉄の風味が広がる。館内には飲泉用の茶碗が用意され、古くから胃腸に効く「飲む温泉」として親しまれてきた。
湯船は総ひのき造りの大浴場「テイの湯」が中心で、内湯に露天風呂が付く。さらに清流・芹川を眺めながら湯浴みできる貸切の家族風呂を3室備え、家族連れやカップルでも人目を気にせず炭酸泉を堪能できる。大丸旅館はまた、建築家・藤森照信氏の設計で全国的に知られる外湯「ラムネ温泉館」の運営元でもあり、高濃度の炭酸が肌に細かな気泡をまとわせる名物湯へも足を延ばせる。文人ゆかりの宿らしく、館内には長湯温泉にまつわる美術品を集めた一角も設けられている。
日帰り入浴は大人500円、3歳から小学生までは300円で、11時から17時まで利用できる。貸切の家族湯は1時間1,500円。宿泊は1泊2食付で14,000円台からと湯治宿らしい手頃さで、芹川に面した客室でくつろげる。アクセスは大分自動車道湯布院ICから車で約40分、JR豊後竹田駅からはバスで約50分「長湯」下車徒歩3分。無料駐車場は30台。炭酸泉は保温効果が高く、冷えのこたえる秋から冬の湯めぐりに特におすすめだ。周辺には無料の川湯「ガニ湯」や公衆浴場「御前湯」も点在し、長湯の湯めぐりを心ゆくまで楽しめる。
泉質
ナトリウム・カルシウム(・マグネシウム)-炭酸水素塩泉
営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
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| 11:00 - 17:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る 火山性の硫黄泉・硫酸塩泉
硫黄成分を含む泉質は、火山ガスの影響を強く受けた地域に集中する。大分と鹿児島、九州南部の火山地帯に湧く2軒を紹介する。
明礬温泉 鍋山の湯(大分県)
別府八湯のひとつで、含硫黄の硫酸塩泉地帯にある日帰り・野湯である。源泉温度は97℃に達する。
別府八湯の最高所に位置する明礬温泉から、さらに鍋山の山中へと分け入った先に、鍋山の湯(なべやまのゆ)はある。鶴の湯・蛇の湯と並ぶ別府三大秘湯のひとつであり、硫黄の噴煙が絶えず立ちのぼる荒涼とした山肌に抱かれた野湯だ。特定の管理者を持たず、古くから地元有志の手によって守り継がれてきた無料の共同湯である。
泉質は自然湧出の硫黄泉で、やや白濁した泥湯として知られる。湯底にはうっすらと泥が沈殿し、硫黄臭とともに酸性の刺激をほのかに感じさせる。源泉は約97℃と非常に高温で、湯船は上段と下段の2つに分かれる。源泉が直接流れ込む上段は熱く、下段へ移るほど入りやすい湯加減になる。加温も加水も消毒も行わない、大地から湧く湯そのままの一湯である。
浴場は石を並べただけの素朴な岩風呂が2つ並ぶのみで、脱衣場などの設備はない。合わせて5〜6人ほどが浸かれる広さで、混浴のため女性は湯浴み着があると安心だ。眼下に山並みを望み、噴気孔から白い蒸気が立ちのぼる光景は、地球の息づかいそのもののような非日常感に満ちている。
駐車スペースから山道を10分あまり歩いて到達する立地は、別府三大秘湯のなかでも到達難度が高い。無料で開放されているが、97℃近い源泉は火傷の危険があり、湯もみや水での調整、足元の確認を怠らないことが肝心だ。雨天後はぬかるみやすく、明るい時間帯の入浴が望ましい。ゴミの持ち帰りなどマナーを守り、この稀有な野湯を次の世代へつないでいきたい。
詳細ページを見る霧島湯之谷温泉 湯之谷山荘(鹿児島県)
霧島火山群の活動に由来する単純硫黄泉が湧く。pH5.3で、九州南部の火山フロントに連なる一軒である。
引用:霧島湯之谷温泉 湯之谷山荘HP霧島温泉郷の中でも特に自然に囲まれた場所に位置する一軒宿。原生林に囲まれた静寂の中、豊富な湯量を誇る源泉かけ流しの温泉を楽しめる。
露天風呂は森の中にあり、四季折々の自然を感じながら入浴できる。泉質は単純硫黄泉(硫化水素型)で、pH5.3の弱酸性。湯の花が浮遊する乳白色のにごり湯である。湯量が豊富なため、常に新鮮なお湯が注がれている。
内湯も広々としており、大きな窓から霧島の山々を望める。秘湯の雰囲気を持ちながら、設備は整っており、快適に過ごせる。
営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
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| 10:00 - 14:00 | ◯ | ◯ | × | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る ここまでの13か所は、4つの切り口で選んだ。花崗岩、安山岩質の火山、非火山性の深部熱水、そして炭酸水素塩泉・硫黄泉を生む成因である。同じ切り口で自分の行きたい地域を絞り込むと、次の章の地域別ガイドと合わせて秘湯選びの幅が広がる。
地域別・地質構造別の秘湯ガイド
同じ泉質でも、地域ごとに地質の背景は異なる。前章の岩石タイプ別の視点に、地理的なまとまりを重ねると、また違った秘湯の選び方が見えてくる。ここでは5地域に分けて、それぞれの地質構造と秘湯を紹介する。
東北地方:火山フロントに沿った秘湯
東北地方は太平洋プレートの沈み込みに伴う火山フロントが南北に連なり、奥羽山脈沿いに活火山と休火山が分布する。それに伴い豊富な温泉資源を持つ。この章では宮城県と秋田県の6か所を紹介する。
中山平温泉 琢ひで(宮城県)
鳴子温泉郷を構成する地区のひとつ。郷内には環境省分類が定める10〜11種のうち7〜9種の泉質が集まるとされ、地質学的にも珍しい。中山平温泉は含硫黄のナトリウム-炭酸水素塩・硫酸塩泉、pH9.2である。
引用: 中山平温泉 琢ひで HP鳴子温泉郷の中でも、特異な泉質で知られる中山平温泉の名宿。300年の歴史を持つ「うなぎ湯」と呼ばれる極上の温泉は、化粧水のようにとろりとした肌触りが特徴だ。
美肌の湯の4大要素である「アルカリ性」「硫黄泉」「炭酸水素塩泉」「硫酸塩泉」を兼ね備えた贅沢な泉質。pH9.2という強アルカリ性のお湯は、全国でも屈指のぬるぬる感を誇る。
館内には最大8つの湯船があり、湯巡りが楽しめる。混浴露天風呂「鶴亀の湯」をはじめ、内湯や貸切風呂など、それぞれ趣の異なる浴槽で源泉かけ流しの名湯を堪能できる。客室は16室の平屋建てで、露天風呂付き客室も用意されている。
泉質
含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩・硫酸塩泉(硫化水素型)
営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
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| 10:30 - 14:00 | × | × | × | × | × | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る 鬼首温泉 とどろき旅館(宮城県)
同じく鳴子温泉郷の一地区で、間欠泉で知られる鬼首地区に位置する。泉質は単純温泉、75℃。鳴子温泉郷観光協会も、鬼首を郷内の構成地区として案内している。
宮城県北西部、栗駒国定公園に抱かれた鬼首(おにこうべ)温泉郷は、間欠泉や地熱発電所を擁する地熱の里である。その一角、荒雄岳の南西麓を流れる荒雄川の左岸に、杉木立に囲まれてひっそりと建つのが轟(とどろき)温泉の一軒宿・とどろき旅館である。轟温泉には古湯と新湯があり、古湯は元和年間(1615〜1624年)ごろ、新湯は近世末期に見出されたと伝わる。約400年におよぶ湯の歴史を、いま受け継いでいるのはこの宿ただ一軒だ。眼下には鳴子ダム湖(荒雄湖)へ注ぐ川の流れがあり、下流は鮎釣りの名所として知られる。
湯は自家源泉「新とどろき3号」から引く単純温泉で、正式には低張性弱アルカリ性高温泉。pH7.8、源泉温度は約75℃と高く、これを加水も加温もせず、循環ろ過も入浴剤も塩素消毒も用いずに浴槽へ落とす100パーセントの源泉かけ流しである。公式には無色透明・無味無臭と説明されるが、実際に浸かるとメタケイ酸を200mg/L以上含む湯らしいすべすべとした肌触りがあり、石膏系のほのかな温泉臭と細かな湯の華に気づく。浴槽温度は42〜43℃に均衡し、湯口から注がれた分がそのまま縁からあふれ続けるため、どの位置でも湯の鮮度が変わらない。単純温泉と聞いて薄い湯を想像すると裏切られる、鳴子温泉郷の実力派である。
風呂は3種類。男女別の内湯は大人3人ほどの控えめな造りだが、この宿の主役は庭園を眺める混浴大露天風呂「荒湯」だ。15〜20人がゆったり収まる広さで、中央の岩と塀が男女のエリアを緩く分ける。手入れの行き届いた庭の緑と山肌を望みながらの湯浴みは、鬼首でも屈指の心地よさである。ただし水着やバスタオルを巻いての入浴、そして撮影はいずれも禁止で、目隠しもないため女性には勇気が要るという声もある。その点を補うのが、無料で使える貸切露天風呂「木もれびの湯」だ。2〜3人には十分な広さで、入口の木札で空きを確認して使う仕組みになっている。混浴に抵抗があるなら、まずこちらを目当てに訪ねるとよい。
日帰り入浴は大人600円・子供400円(2026年4月改定)。ただし入館受付は10時から14時までと短く、浴室清掃で受け入れを止める日もあるため、電話(0229-86-2311)で確認してから向かうのが確実である。宿泊は当面の間4室限定で1泊2食付13,900円から。山菜・きのこ・川魚といった地元産の食材に大崎市産ササニシキが添えられ、4月から5月中旬にかけては最大7種の山菜が膳に並ぶ。全室Wi-Fi対応だが支払いは現金のみで、クレジットカードは使えない。車なら東北自動車道 古川ICから国道47号・108号経由で50〜60分、公共交通なら鳴子温泉駅から市営バス鬼首線で約20分だがバスは1日数便のみ、送迎もないので時刻表の確認は必須だ。宿から車5分の鬼首かんけつ泉(12月〜3月下旬は冬季休園)、車20分の鳴子峡と組み合わせれば、地熱の里を一日で味わい尽くせる。
営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
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| 10:00 - 14:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る玉川温泉(秋田県)
pH1.2という国内最高クラスの酸性泉で、北投石という希少鉱物を産する。北投石は台湾の北投と玉川でしか産出しない鉱物として知られる。冬季は休業し、姉妹施設の新玉川温泉が営業を引き継ぐ。泉質は塩化物泉・二酸化炭素泉・含鉄泉。
玉川温泉日本一の強酸性泉として知られる玉川温泉。pH1.05という強烈な酸性度を誇り、単一の湧出口からの湧出量は毎分9,000リットルと日本一を誇る。
「大噴(おおぶけ)」と呼ばれる源泉からは、98度の熱湯が轟音とともに噴き出し、その様子はまさに圧巻。世界でも珍しい塩酸を主成分とした泉質で、ラジウムを含有している。
大浴場には源泉100%浴槽や源泉50%浴槽、弱酸性浴槽など、体調に合わせて選べる多彩な浴槽を備える。また、天然の岩盤浴も有名で、地熱を利用した温泉療法を体験できる。
冬季は本館が閉鎖されるため、通年営業の新玉川温泉の利用がおすすめ。
営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
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| 10:00 - 15:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る 十和田大湯温泉 岡部荘(秋田県)
ナトリウム-塩化物泉が55℃で湧く、大湯温泉街の一軒である。玉川温泉と同じ秋田県内にありながら、泉質は対照的な塩化物泉である。
秋田県鹿角市、十和田湖から南へ車で30分ほど下った大湯川のほとりに十和田大湯温泉はある。鎌倉時代の発見と伝えられる古湯で、湯治場として長く土地の人に親しまれてきた。周辺には国の特別史跡・大湯環状列石が広がり、縄文の遺構と温泉が同居する独特の風景をつくっている。岡部荘はこの温泉地で昭和30年(1955年)に創業した木造の和風宿で、日本秘湯を守る会の会員宿でもある。
岡部荘を特徴づけるのは、敷地内に湧く5本の自家源泉である。湧出量は合わせて毎分約150リットル。源泉ごとに温度が異なり、およそ40℃のぬる湯から67℃の熱湯まで幅がある。この宿はそれを機械で調整するのではなく、湯口でぬる湯と熱湯を混ぜ合わせて適温に整えるという珍しい方法をとる。加水も加温も循環もしないため、浴槽に注がれるのは湧き出したままのナトリウム-塩化物泉である。無色透明の湯からはわずかに硫黄の香りが立ち、塩分を含む湯は湯上がりの保温に優れる。切り傷ややけど、皮膚病によく効くと古くから語り継がれてきた。
浴場は内湯2、露天風呂3の計5か所。大正期の石風呂の趣をそのまま残す大正風呂は、自然湧出の湯をたたえた宿の象徴である。大湯川に面した渓流露天風呂では、せせらぎを聞きながら湯に浸かることができる。男女入替制の庭園露天風呂に加え、ヒバの香る貸切露天風呂も有料・予約制で用意されており、家族連れや二人旅でも人目を気にせず湯を楽しめる。客室は15室と小ぶりで、きりたんぽ鍋をはじめとする鹿角の郷土料理が食卓に並ぶ。
訪ねるなら、紅葉の十和田湖と組み合わせられる10月中旬から下旬が最も華やかである。冬は雪に沈む静かな湯宿となり、湯めぐりそのものを目的にする客が多い。注意したいのは日帰り利用で、入浴のみの受け入れは現在休止中である。日帰りで湯に入りたい場合は、7日前までの予約が必要な日帰り会席プラン(5,500円〜)を利用することになる。アクセスは東北自動車道十和田ICから国道103号で約15分、JR花輪線十和田南駅からは事前予約で送迎にも対応している。
営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
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| 10:00 - 16:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る乳頭温泉 鶴の湯(秋田県)
十和田八幡平の山中に湧く乳頭温泉郷の一軒。硫黄泉、ナトリウム・カルシウム-塩化物泉、炭酸水素塩泉という複数の源泉を持ち、pH7.4。宿泊予約サイトを介さない宿で、当サイトの個票では泉質と湯使いを確認できる。
乳頭温泉(参考:乳頭温泉 鶴の湯HP)十和田八幡平国立公園内、乳頭山の麓に位置する乳頭温泉郷。その中で最も古い歴史を持つのが鶴の湯温泉である。
元禄14年(1701年)開湯、秋田藩主の湯治場としても利用された由緒ある温泉宿。鶴が傷を癒したという伝説からその名がついたとされる。警護の武士が詰めた茅葺き屋根の長屋「本陣」が今も残り、江戸時代にタイムスリップしたような風情が漂う。
半径50m以内に4種類の泉質が異なる源泉が湧くという珍しい温泉地で、白湯、黒湯、中の湯、滝の湯を楽しめる。混浴露天風呂は乳白色の硫黄泉で、四季折々の自然を眺めながら入浴できる。
食事は山の芋鍋や岩魚の塩焼きなど、地元の食材を使った素朴な郷土料理が味わえる。
泉質
硫黄泉
ナトリウム・カルシウム-塩化物泉
炭酸水素塩泉
営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
|---|
| 10:00 - 15:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る 乳頭温泉 妙乃湯(秋田県)
同じ乳頭温泉郷にありながら、泉質はカルシウム・マグネシウム-硫酸塩泉と含鉄泉でpH2.9。鶴の湯とは酸性度も成分も異なる。狭い範囲に異なる源泉が並ぶ、東北の火山フロントらしい例だ。
乳頭温泉 妙乃湯 - 画像 5営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
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| 10:30 - 21:00 | 10:30-15:00 | 10:30-15:00 | 10:30-15:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る 東北地方の秘湯は、鳴子温泉郷のように狭い範囲で泉質が入り組む例と、玉川温泉のようにひとつの成分が際立つ例の両方をあわせ持つ。いずれも太平洋プレートの沈み込みが生んだ火山フロントの延長線上にある。
中部地方:複雑な地質が生み出す多様な秘湯
中部地方はフォッサマグナを挟み、東西日本の地質が接する地域である。日本アルプスの隆起と火山活動が、多様な温泉をもたらしてきた。谷川岳周辺の谷川温泉・土合温泉は花崗岩・変成岩地帯の単純温泉で、JR上越線でアクセスできる。一方、黒部峡谷の欅平温泉(猿飛山荘・名剣温泉)は飛騨変成帯にあり、黒部峡谷鉄道のトロッコ電車が運行する期間にだけ訪れられる。石川県の白山手取川ジオパークは2023年にユネスコ世界ジオパークに認定されており、この地域の地質的な価値を示している。この章では長野県の1軒を紹介する。
白骨温泉 泡の湯(長野県)
乗鞍岳東麓、飛騨山脈側に位置する。乳白色の湯は、石灰岩層を通過したためではない。温泉水自身の炭酸カルシウムが地表で沈殿してできる石灰華によるものだ。噴湯丘と球状石灰石は国の特別天然記念物に指定されている。泉質は含硫黄のカルシウム・マグネシウム-炭酸水素塩泉、pH6.3。糸魚川-静岡構造線の西側にあり、フォッサマグナの地域外に位置する点も特徴だ。
白骨温泉 泡の湯 - 画像 1泉質
含硫黄-カルシウム(・マグネシウム)-炭酸水素塩泉(硫化水素型)
営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
|---|
| 10:30 - 14:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る 中部地方は東西日本の地質境界にあたるため、同じ県内でもフォッサマグナの内と外で温泉の性格が変わる。白骨温泉のように境界の外側に位置する例もあれば、万座温泉のように内側の火山性温泉もある。
関西・中国地方:古い地質と非火山性温泉
関西から中国地方は火山活動が比較的少なく、花崗岩などの古い岩体が広く分布する。非火山性の深部熱水に由来する温泉が中心になる。兵庫県の湯村温泉は、花崗岩の割れ目である湯村断層から98℃の高温泉が湧く。共同浴場の薬師湯がある。この章では兵庫県と岡山県の2か所を紹介する。
湯村温泉 荒湯(兵庫県)
湯村断層から98℃の高温泉が湧く源泉地で、泉質はナトリウム-炭酸水素塩・塩化物・硫酸塩泉、pH7.6。非火山性でありながら高温という、この地域の性格をそのまま示す。日帰りの源泉地なので宿泊はできない。
湯村温泉の荒湯は、嘉祥元年(848年)に天台宗の高僧・慈覚大師円仁によって発見されたと伝えられる、1,170年以上の歴史を誇る名湯である。兵庫県美方郡新温泉町の山間に位置するこの源泉は、掘削によるものではなく大地から自然に湧き出す自噴泉であり、源泉温度98℃という日本屈指の高温を誇る。湯村温泉全体では60もの源泉を有し、総湧出量は毎分約2,300リットルに達する。荒湯単体でも毎分470リットルもの豊富な湯量を誇り、その圧倒的な湯量と高温は訪れる者を驚嘆させる。
泉質はナトリウム-炭酸水素塩・塩化物・硫酸塩泉(低張性・弱アルカリ性高温泉)で、pH7.58の無色透明な湯である。特筆すべきはメタケイ酸の含有量で、192.5mgという高い数値は「美人の湯」としての評価を裏付けるものである。メタケイ酸は肌の新陳代謝を促進し、しっとりとした肌触りをもたらす成分として知られている。適応症としては筋肉痛、神経痛、関節痛、冷え性、慢性皮膚病、動脈硬化症など多岐にわたり、古来より湯治場として多くの人々に親しまれてきた歴史がある。
荒湯の最大の魅力は、98℃の源泉熱を利用した「湯がき体験」である。源泉の湧出口に設けられた湯壺に、生卵や山菜、竹の子などを入れて茹でることができ、観光客にとって忘れがたい体験となっている。特に荒湯で作る温泉卵は絶品で、硫黄の香りがほのかに漂う独特の風味が楽しめる。また、春来川沿いには全長約20メートルにわたる天然かけ流しの足湯が無料で開放されており、川のせせらぎを聴きながら源泉100%の足湯に浸かることができる。足湯の底には玉砂利が敷かれ、足裏のツボを心地よく刺激してくれる。
温泉街はNHKドラマ「夢千代日記」の舞台として全国的に知られ、吉永小百合が演じた夢千代の像が町のシンボルとして佇んでいる。冬季には余った温泉水が春来川に流れ込み、川面から白い湯煙が立ち上る幻想的な光景が広がる。特に早朝や夕暮れ時の湯煙は格別で、温泉街全体が神秘的な雰囲気に包まれる。訪問のベストシーズンは、松葉ガニが解禁となる11月から3月にかけてで、新鮮な日本海の幸と名湯を同時に堪能できる。夏場は但馬牛や地元野菜を使った料理も魅力的で、四季を通じて訪れる価値のある温泉地である。
営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
|---|
| 00:00 - 24:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る湯原温泉 元禄旅籠 油屋(岡山県)
中国地方の花崗岩地域に湧くアルカリ性単純温泉で、pH9。川底から湧く砂湯でも知られ、24時間無料で入浴できる「西の横綱」として案内されている。
湯原温泉 元禄旅籠 油屋は、元禄元年(1688年)に創業した岡山県真庭市の老舗旅館である。かつて湯原は山陰道と大山・倉吉を結ぶ街道の宿場町として栄え、多くの旅人が行き交う要衝であった。油屋の名は、夜ごと行灯の油を絶やさず灯し、旅人に道中の灯火を提供し続けたことに由来する。330年以上の歳月を経た今もなお、旅人をもてなす精神は脈々と受け継がれている。湯原温泉自体の歴史はさらに古く、弥生時代中期にたたら製鉄に従事する人々の湯治場として利用されていたとする説もあり、全国露天風呂番付で「西の横綱」に格付けされた砂湯を擁する由緒ある温泉地である。
油屋の湯は低張性アルカリ性高温泉、すなわちアルカリ性単純温泉に分類される。pH9以上の高いアルカリ性を示し、石鹸を使わずとも肌がぬるぬるとする独特の触感が特徴である。この滑らかな湯触りは美肌効果の証であり、入浴後は肌がしっとりと潤う。食湯館の温泉は地下の源泉をすべての浴槽に直接かけ流しで供給しており、湧き出たばかりの新鮮な湯を存分に楽しむことができる。
営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
|---|
| 12:00 - 16:00 | ◯ | ◯ | ◯ | × | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る関西・中国地方の秘湯は、火山活動よりも深部熱水と古い岩体に由来するものが目立つ。花崗岩地域のラドン泉と、断層帯からの高温湧出という2つの成因が、この地域の温泉の骨格になっている。
四国地方:付加体地質と特異な秘湯
四国地方は南海トラフの沈み込みで形成された付加体が主体で、中央構造線という日本最大級の断層系が走る。足摺岬周辺では、中新世、およそ1200万〜1500万年前に四万十層群へ貫入した花崗岩・斑れい岩がみられる。そこに含まれるウラン起源のラドンが、放射能泉をもたらしている。この章では徳島県と愛媛県の2軒を紹介する。
ホテル祖谷温泉(徳島県)
四国山地の深い峡谷に湧く単純硫黄泉で、pH9.1・38℃。祖谷川沿いの深い谷が、この温泉の景観を形作っている。
引用: ホテル祖谷温泉 HPホテル祖谷温泉は、北海道のニセコ薬師温泉、青森県の谷地温泉とともに日本三大秘湯の一つに数えられる祖谷温泉の一軒宿である。徳島県三好市の祖谷渓は、和歌山県の北山峡、奈良県の大台ヶ原とともに日本三大秘境とされる深山幽谷の地で、平家の落人伝説が残る神秘的な渓谷である。昭和40年(1965年)に温泉が掘削され、運営会社の祖谷渓温泉観光株式会社が昭和43年(1968年)に設立、昭和47年(1972年)にホテルとして開業した。日本秘湯を守る会の四国唯一の加盟宿であり、50年以上にわたり秘境の一軒宿としてその歴史を刻んできた。
祖谷温泉の泉質はアルカリ性単純硫黄温泉で、pH9.1の強いアルカリ性を誇る。源泉温度は約38〜39℃と体温に近いぬるめの湯であり、四国全体でも道後温泉と祖谷温泉の2箇所しかない源泉かけ流しの温泉として極めて貴重な存在である。ナトリウム、カルシウム、硫黄分などを含むアルカリ成分が古い角質をやさしく溶かし、入浴後は肌がすべすべになる「美肌の湯」として名高い。湯にはとろりとしたぬめりがあり、肌にまとわりつく細かい泡と、浴槽に浮かぶ白い湯の花が天然温泉の証である。
最大の見どころは、傾斜角42度の断崖をケーブルカーで約5分かけて170メートル下降した谷底に広がる露天風呂である。2023年春に新車両が導入されたケーブルカーに乗り、眼下に広がる祖谷渓の絶景を眺めながら谷底へと降りていく体験は唯一無二のものだ。谷底の露天風呂「渓谷の湯」と「せせらぎの湯」は男女日替わりで利用でき、翡翠色の祖谷川のせせらぎと深い森の緑に包まれながら源泉かけ流しの湯に浸かる贅沢を味わえる。館内には2021年にリニューアルされた展望風呂「雲遊天空の湯〜SORANOYU」もあり、祖谷の山々を一望するインフィニティ風呂として新たな魅力を加えている。
宿泊は全17室で1泊2食付き20,130円から。祖谷そば、山菜、川魚、阿波牛・阿波ポーク・阿波尾鶏など地元食材を活かした祖谷の郷土料理が供される。日帰り入浴は露天風呂(ケーブルカー込み)が大人2,000円、展望風呂のみが大人700円で毎週水曜定休。アクセスは徳島自動車道井川池田ICから車で約40分、JR大歩危駅からは送迎バス(1日1便・要予約)で約30分。秋の紅葉シーズンは祖谷渓が燃えるような赤と黄に染まり、特に人気が高い。周辺にはかずら橋や小便小僧、大歩危峡の遊覧船など見どころも多く、四国の秘境を満喫する旅の拠点として申し分ない。
営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
|---|
| 07:30 - 17:00 | ◯ | ◯ | × | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る 道後温泉 ふなや(愛媛県)
松山市南部を走る中央構造線の破砕帯付近の花崗岩から湧く、非火山性のアルカリ性単純温泉。pH9.1・46.8℃。本館とは別に、椿の湯という共同浴場もある。
道後温泉随一の老舗旅館として、約400年の歴史を誇る純和風旅館である。寛永年間(1627年頃)に「鮒屋旅館」として創業し、夏目漱石、正岡子規ら文豪をはじめ、皇族方も宿泊された格式高い宿として知られる。道後温泉本館から徒歩圏内に位置し、敷地内には約1,500坪の自然庭園「詠風庭(えいふうてい)」が広がる。小川と苔むした石組み、四季折々の樹木が織りなす景色は、館内の廊下を歩くたび視界に飛び込んでくる名園である。
泉質は道後温泉のアルカリ性単純温泉で、源泉温度46.8℃、pH9.1の高アルカリ性。湯使いは100%源泉で、加水を一切行わない贅沢な使い方は道後の旅館の中でも屈指である。無色透明でなめらかな肌触りの湯は古来「美人の湯」と称えられ、神経痛、皮膚病、リウマチ、痛風、慢性消化器病、貧血症などに効能があるとされる。大浴場は檜造りの「檜湯」と伊予青石を用いた「御影湯」の2か所があり、いずれも露天風呂とサウナを備える。朝夕で男女が入れ替わるため、宿泊者は両方の湯を堪能できる。日帰り入浴は1,800円(入湯料1,650円+入湯税150円)で11:30〜22:00まで利用可能。庭園内の無料足湯も12:00〜20:30に開放されている。道後温泉駅から徒歩3分、松山空港からリムジンバスで約40分。
営業時間
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| 11:30 - 22:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る四国地方の秘湯は、中央構造線という大断層と、南海トラフの沈み込みが積み上げた付加体という2つの構造に支えられている。道後温泉は前者の破砕帯に、足摺岬周辺の放射能泉は後者に貫入した花崗岩に由来する。
九州地方:活発な火山活動がもたらす温泉
九州地方はフィリピン海プレートの沈み込みに伴う火山活動が活発で、別府-島原地溝帯(全長約200km)沿いに温泉が集中する。別府温泉郷は環境省分類10種のうち7種の泉質を持つ。雲仙温泉はこの地溝帯の西端に位置する酸性硫黄泉の温泉地で、周辺の島原半島ジオパークは2009年にユネスコ世界ジオパークへ認定された。国内最大級の八丁原地熱発電所(大分県九重町、出力合計11万kW)も、この地域の地熱資源の豊富さを示す。鉄輪温泉の蒸し湯、筋湯温泉、小浜温泉の海上露天風呂、指宿の砂むし温泉、成川温泉なども、この地域を代表する浴場だ。この章では熊本県の1軒を紹介する。
黒川温泉 山の宿 新明館(熊本県)
阿蘇4火砕流がつくった台地の上に位置するが、湧出そのものに関わるのは隣接する九重火山群の活動とされる。泉質はナトリウム-塩化物・硫酸塩泉、pH6.8・80.3℃。黒川温泉郷には奥黒川エリアと呼ばれる地区もある。
熊本県阿蘇郡南小国町、田の原川のせせらぎが響く黒川温泉郷の中心に、ひときわ深い歴史を湛える一軒の宿がある。明治41年(1908年)創業、「山の宿 新明館」。黒川温泉の黎明期から100年以上にわたって湯守りを続けてきた老舗中の老舗である。1986年に黒川温泉を全国区へと押し上げた「入湯手形」制度を考案し、温泉地全体を「ひとつの宿」として演出するという革新的な発想で温泉郷の再生を導いた三代目館主・後藤哲也氏(2018年逝去)が育んだ宿として、その名は今もなお全国の温泉ファンの胸に深く刻まれている。
新明館の真髄は、何と言っても全長約30メートルに及ぶ手掘りの洞窟風呂「穴湯」にある。三代目館主が24歳の時、ノミと鎚を手に岩盤に向かい合い、ひと振り、またひと振りと削り続けて約3年半(一説には足掛け10年とも)の歳月をかけて掘り抜いたという。岩肌から湧き立つ蒸気がランプの光に煙る洞窟の奥は、進むにつれて道が分岐し、二つの湯舟が薄明かりの中に姿を現す。さらに、田の原川のほとりに広がる「岩戸風呂」である。黒川温泉で最初に造られた露天風呂と伝わるこの湯船は、ツツジが彩る山肌に溶け込むよう岩を削って設えられ、川音と鳥の声が体を包む。
営業時間
| 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
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| 08:30 - 21:00 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
詳細ページを見る九州地方の秘湯は、火山フロントと地溝帯、カルデラという3つの構造が重なる点が特徴だ。黒川温泉のように、台地を作った噴火と実際の熱源となる火山が異なる例もある。
東北・中部・関西中国・四国・九州の5地域を通じて、地質構造の違いがそのまま泉質の違いに表れている。次章では、地域をまたいで秘湯に共通するカルデラと活断層という構造を掘り下げる。
カルデラ・活断層と秘湯
大規模な陥没地形であるカルデラと、活断層。この2つの構造も、秘湯の分布を理解するうえで欠かせない。
カルデラと秘湯
カルデラは、火山噴火に伴って地下のマグマだまりが収縮し、その上の地表が円形やだ円形に大きく陥没してできる地形である。阿蘇カルデラ(熊本県)は東西18km・南北25kmの楕円形で、市街地・国道・鉄道を抱えるカルデラとしては世界最大級とされる。国内では屈斜路カルデラ(北海道、長径26km・短径20km)が最大で、世界最大のカルデラはインドネシアのトバカルデラである。
黒川温泉は、この阿蘇の火砕流台地の上に位置しながら、湧出には隣接する九重火山群の活動が関わる。カルデラの内部と外縁部とで、温泉の熱源が異なる点が特徴だ。
活断層と温泉の密接な関係
活断層とは、最近の地質時代に活動し、将来も活動する可能性がある断層をいう。地下深部への通路となるため、多くの温泉が断層沿いに分布する。糸魚川-静岡構造線沿いの諏訪盆地は、中央構造線とも交差する国内で唯一の地点で、プルアパート盆地と呼ばれる陥没構造に温泉が湧く。
道後温泉は中央構造線の破砕帯付近の花崗岩から湧く。一方の下呂温泉は濃飛流紋岩と下呂断層帯に由来し、中央構造線とは別の系統だ。山梨県の石和温泉は、甲府盆地のプレート境界帯に由来する深層熱水と考えられている。
地震と温泉の関係にも注意が必要だ。有馬温泉ではプレート由来の深部流体が1994年ごろから急増したとする研究がある。翌1995年の阪神淡路大震災の引き金になった可能性が指摘されている。湧出量の増加は震災の結果ではなく、前触れだったとされる点が重要だ。道後温泉では1946年の南海地震後、井戸水位の上昇が記録された。当時は山崩れで源泉が一時埋没し、復旧までに約3か月を要したという。由布院温泉の近くでは、1995年に九重山(硫黄山)が水蒸気噴火した。
カルデラも活断層も、地下深部と地表をつなぐ通路という点では共通している。前章で紹介した岩石タイプ別・地域別の秘湯の多くも、突き詰めればこのどちらか、あるいは両方の構造に支えられている。
まとめ
日本の温泉は、4つのプレートが交わる特異な地質構造の上に成り立つ。火山性・非火山性という2つの成因、花崗岩や堆積岩といった岩石の違い、そして断層やカルデラという構造が、泉質と分布を決めている。同じ都道府県内でも、フォッサマグナの内と外、火山フロントの上とその外側とで、温泉の性格は大きく変わる。
ここで紹介した25か所は、いずれも当サイトのデータベースに登録した泉質・pH・源泉温度の分析値をもとに選んだ。青森県から鹿児島県まで、19県にまたがる。花崗岩地域なら放射能泉、火山フロント沿いなら強酸性の硫黄泉というように、岩石と地質構造を手がかりにすると、次の一湯が見つけやすくなる。
参考資料