栃木県の秘湯——那須・塩原・奥日光、火山が育てた湯治の郷へ
栃木県は、関東でも屈指の温泉県である。県内に湧く源泉は数百を数え、その多くは県北を貫く火山の連なりが生み出したものだ。那須岳を中心とする那須火山帯、男体山や日光白根山からなる日光火山群、そして箒川がえぐる塩原のカルデラ地形。地下に伏せた熱源が、山あいのあちこちに硫黄泉や単純泉を噴き上げてきた。海のない内陸県でありながら、これほど多彩な湯が集まるのは、この火山の恵みゆえである。
湯が湧けば、人は湯治に通う。那須には古くから「那須七湯」と呼ばれる湯治場が開け、塩原は千二百年前に発見されたと伝わる発祥の湯を今に残す。奥日光の湯元や、女夫渕の奥に隠れた奥鬼怒、平家の落人伝説を継ぐ湯西川。いずれも交通の便が良いとはいえない土地に、源泉かけ流しの一軒宿が守られてきた。日本秘湯を守る会に名を連ねる宿も多く、栃木は「泊まって湯に浸かる」文化が色濃く残る県だ。
秘湯の真価は、日帰りでは味わい尽くせない。歩いてしかたどり着けない山中の湯、夜のしじまに硫黄が香る露天、朝湯の澄んだ空気——その多くは宿泊してこそ開く扉である。そこで本稿では、実際に泊まれる一軒宿を主役に据え、栃木の秘湯を厳選して紹介する。あわせて、道すがら立ち寄れる名湯も末尾に添えた。
紹介は、那須連山のふところから始め、塩原の渓谷をたどり、奥日光・奥鬼怒・湯西川の深山へと分け入る順に進める。
1. 奥那須温泉 大丸温泉旅館(栃木県那須町)
2. 板室温泉 大黒屋(栃木県那須塩原市)
3. 北温泉旅館(栃木県那須町)

4. 三斗小屋温泉(栃木県那須塩原市)

5. 塩原元湯温泉 秘湯の宿 元泉館(栃木県那須塩原市)
6. 奥塩原新湯温泉 渓雲閣(栃木県那須塩原市)
7. 奥日光湯元温泉 湯の湖荘(栃木県日光市)
8. 日光澤温泉(栃木県日光市)
9. 上屋敷 平の高房(栃木県日光市)
10. 那須湯本温泉 鹿の湯(栃木県那須町・日帰り入浴)

11. 奥塩原新湯温泉 寺の湯(栃木県那須塩原市・日帰り入浴)

総まとめ——栃木の秘湯を巡る前に知っておきたいこと
栃木の秘湯は、大きく那須・塩原・奥日光の三つのエリアに分けて考えると計画が立てやすい。いずれも県北の山間部にあり、エリア間の移動には車が現実的だ。宿の多くは小規模な一軒宿で、宿泊が前提のため、事前予約は欠かせない。
【那須】 那須岳の山ふところには、性格の異なる秘湯が点在する。奥那須温泉の大丸温泉旅館は、川そのものが湯船になる「川の湯」で知られ、那須連山への登山口にも近い。板室温泉の大黒屋は日本秘湯を守る会の一軒で、静けさを旨とする滞在型の宿だ。北温泉旅館は江戸期の建物と天狗の湯で名高く、映画のロケ地としても知られる。そして三斗小屋温泉は、車道が通じず、茶臼岳側から徒歩でしかたどり着けない山中の湯である。訪れるには登山の装備と時間、そして山小屋泊の心づもりが必要で、営業期間も限られる。冬季や悪天時は入山そのものが難しいため、計画は慎重に。
【塩原】 箒川沿いの塩原温泉郷は、奥まった元湯・新湯地区に秘湯の趣が濃い。塩原元湯温泉の元泉館は、自家源泉のにごり湯と飲泉で知られる湯治宿。奥塩原新湯温泉の渓雲閣も、白濁の硫黄泉を守る一軒だ。同じ新湯地区には、共同湯として親しまれる寺の湯があり、こちらは日帰りの立ち寄り湯。硫黄の香り立つ野趣あふれる湯で、宿の湯めぐりとあわせて楽しみたい。塩原はアクセスが比較的よく、栃木の秘湯入門としても向く。
【奥日光・奥鬼怒・湯西川】 日光の西奥には、標高の高い山の湯が控える。奥日光湯元温泉の湯の湖荘は、湯ノ湖畔に建ち、乳白色の硫黄泉を引く。奥鬼怒温泉郷の最奥、鬼怒川源流に佇む日光澤温泉は、山小屋の趣を残す秘湯で、女夫渕から歩いて向かう区間がある。平家伝説の里・湯西川温泉の上屋敷 平の高房は、渓谷沿いに湯を張る静かな宿だ。いずれも山深く、冬季は積雪や道路状況の確認が欠かせない。
【日帰りで立ち寄る二湯】 泊まりが基本の栃木の秘湯だが、道中で湯に触れたいなら、那須湯本の鹿の湯と、奥塩原新湯の寺の湯が名高い。鹿の湯は那須温泉発祥とされる白濁の名湯で、湯温別の浴槽をめぐる作法が今も守られている。いずれも共同湯ゆえ、営業時間や湯づかいは宿とは異なる点に留意したい。
エリアをまたいで移動する場合、那須と奥日光は同じ県内でも車で数時間離れている。二泊三日以上でエリアを絞って計画するのが現実的だ。日帰り入浴の受付可否や営業時間・料金、冬季の道路や登山道の状況は変わりうるため、訪問前に各施設の公式サイトや観光協会で最新の情報を確認しておきたい。
よくある質問
Q. 栃木の秘湯は日帰り入浴できますか。 宿によって異なります。塩原の元泉館や渓雲閣など日帰り入浴を受け付ける宿もありますが、宿泊者専用の時間帯を設ける宿や、日帰りを行わない宿もあります。確実に湯に触れたい場合は、那須湯本の鹿の湯や奥塩原新湯の寺の湯といった共同湯・立ち寄り湯が入りやすい選択肢です。いずれも受付可否や時間は変わりうるため、事前確認をおすすめします。
Q. 車がなくても行けますか。 那須湯本や塩原温泉郷は路線バスでのアクセスがあり、比較的訪れやすいエリアです。一方、奥鬼怒の日光澤温泉や三斗小屋温泉は、女夫渕や登山口から徒歩で向かう区間があり、公共交通だけで完結しません。奥日光や湯西川も本数の限られたバスが基本となるため、山側の秘湯は車を前提に計画するのが現実的です。
Q. 冬でも入れますか。 塩原や那須湯本など標高の低いエリアは通年営業の宿が中心ですが、三斗小屋温泉のように山中の湯は営業期間が限られ、冬季は入山自体が難しくなります。奥日光・奥鬼怒など標高の高い一軒宿は積雪や道路の状況に大きく左右されるため、冬に訪れる際は各施設と道路情報を必ず確認してください。
Q. 予約は必要ですか。 秘湯の一軒宿は客室数が少なく、宿泊は事前予約が基本です。特に人気の宿や週末・紅葉期は早めに埋まります。歩いてたどり着く山中の宿では、到着時刻や装備についても宿の案内に従ってください。
Q. 泊まれる秘湯で、比較的アクセスしやすいのはどこですか。 車での訪問を前提とするなら、那須の大丸温泉旅館・板室温泉 大黒屋、塩原の元泉館・渓雲閣あたりが比較的向かいやすく、秘湯の趣も十分に味わえます。まず一泊してみたいという方の入口としておすすめです。
※本記事に掲載している情報(入浴料金・営業時間・泉質データ・アクセス等)は、リサーチ時点の情報をもとに作成しています。誤りや変更が生じている可能性もあります。最新の情報については、各施設の公式サイトや観光協会等でご確認ください。
















