栃木県は関東随一の温泉県として知られており、県内には約600もの源泉が湧き出しています。古来より受け継がれる湯治場から、歩いてしかたどり着けない秘境の温泉まで、多彩な泉質と個性豊かな温泉が点在しています。今回は、そんな栃木県の中でも特に秘湯の雰囲気を色濃く残す温泉を厳選してご紹介いたします。
1. 三斗小屋温泉 煙草屋旅館(那須町)
那須岳の山深くにある、歩いてしかたどり着けない真の秘湯です。最短コースでも約2時間の登山を要する標高1460mの一軒宿です。康治元年(1142年)に発見されたこの温泉は、江戸時代には那須七湯のひとつとして栄え、かつては賑わいを見せていましたが、今では煙草屋旅館と大黒屋の2軒のみが営業を続けています。
煙草屋旅館は、那須連山に囲まれた原始林の中に佇み、1999年まで日帰り入浴も受け付けていましたが、現在は宿泊者のみが楽しめる特別な場所となっています。内湯からの眺めは絶景で、露天風呂は一段高い場所にあり、周囲を遮るもののない開放的な造りが自慢です。
- 泉質:アルカリ性単純泉
- 源泉かけ流し
- 浴槽:内湯、露天風呂
- 源泉温度:50度
- アクセス:那須ロープウェイ茶臼岳9合目から徒歩約2時間
- 宿泊:可(山小屋形式)
- 営業期間:4月下旬〜11月下旬
2. 奥鬼怒温泉 加仁湯(日光市)
「関東最後の秘湯」と称される奥鬼怒温泉郷の中核を成す一軒宿です。女夫渕から専用送迎バスまたは徒歩約1時間30分でアクセスできます。日光国立公園内の手つかずの自然に囲まれ、5本の自家源泉を持つことで知られています。
各源泉はそれぞれ異なる泉質と個性を持ち、黄金の湯、奥鬼怒4号、岩の湯、崖の湯、たけの湯と名付けられています。特に「利き湯 ロマンの湯」では、5つの源泉を入り比べることができる全国でも珍しい温泉です。乳白色や青白色に変化するにごり湯は、季節や天候によって毎日違った表情を見せてくれます。
- 泉質:硫黄泉-ナトリウム・塩化物・炭酸水素塩温泉(硫化水素型)
- 源泉かけ流し(5本の源泉)
- 浴槽:内湯、露天風呂(複数)、利き湯
- pH:弱酸性
- 日帰り入浴:可(送迎付きプランのみ)
- 宿泊:可
3. 手白澤温泉(日光市)
奥鬼怒温泉郷の最奥部、標高1480mに位置する「日本で2番目に標高が高い露天風呂」を持つ温泉です。女夫渕から徒歩約2時間30分の道のりを経てたどり着ける、文字通りの秘境の湯です。全6室のみの小さな宿ですが、モダンな造りと洗練されたもてなしで人気が高く、予約は2ヶ月先まで埋まることが多いです。
硫化水素型の単純硫黄泉で、白い湯の花が舞う美肌の湯として知られています。男女別の露天風呂は眼前に燕巣山(標高2222m)を望む絶好のロケーションです。川上犬の看板犬「岳」が客を迎えてくれることでも有名です。
- 泉質:単純硫黄泉(硫化水素型)
- 源泉かけ流し
- 浴槽:内湯、露天風呂(男女別)
- 源泉温度:約40度
- 日帰り入浴:不可
- 宿泊:可(要予約)
- アクセス:女夫渕から徒歩約2時間30分
4. 奥鬼怒温泉 八丁の湯(日光市)
奥鬼怒温泉郷の中で最も歴史が古い温泉のひとつです。清らかで神秘的な空気に満ちた原始の森に囲まれ、8つの自家源泉を持ちます。100%自然湧出のかけ流しで、温泉本来の湯力が楽しめる天恵の秘湯です。
本館とログハウスの2つの宿泊棟があり、それぞれ異なる雰囲気を楽しめます。源泉は地上に湧出して空気に触れた瞬間から酸化が始まるため、生まれたての鮮度そのままの状態で各浴槽に引湯しています。
- 泉質:硫黄泉
- 源泉かけ流し(8本の源泉)
- 浴槽:露天風呂3箇所、内湯
- アクセス:女夫渕から徒歩約1時間30分または宿泊者専用送迎バス
- 日帰り入浴:可
- 宿泊:可
5. 北温泉旅館(那須町)
江戸安政元年(1854年)創業の那須湯本奥深い山間に位置する湯治宿です。映画「テルマエ・ロマエ」のロケ地としても知られ、歴史ある建物と5つの異なる湯船で構成される温泉が魅力です。最も古い建物は江戸時代に建てられたもので、明治、昭和と時代を重ねた3棟の客室棟があります。
天狗の湯、相の湯、河原の湯、芽の湯、泳ぎ湯の5つの湯があり、それぞれ趣が異なります。特に「天狗の湯」は巨大な天狗のお面が掲げられ、かつては山伏の修験場でもあったと伝えられる神秘的な雰囲気を醸し出しています。
- 泉質:単純温泉
- 源泉かけ流し
- 浴槽:内湯、露天風呂、混浴など5箇所
- 日帰り入浴:可(8:30〜17:30、冬期は火曜定休)
- 宿泊:可
- 料金:日帰り入浴大人700円
6. 塩原元湯温泉 大出館(那須塩原市)
塩原温泉発祥の地、奥塩原元湯温泉に位置する大正12年(1923年)創業の湯治宿です。1659年の山津波で多くの温泉宿が土砂に埋もれ、温泉の湧出も途絶えた中、現在営業を続ける貴重な3軒のうちの1つです。日本秘湯を守る会の会員宿でもあります。
原生林に囲まれた静寂な環境の中、8つの湯船を持ちます。源泉100%の天然温泉で、飲泉も可能な珍しい温泉です。硫黄泉特有の白いにごり湯で、湯治とやすらぎの時を提供しています。
- 泉質:硫黄泉
- 源泉かけ流し(飲泉可)
- 浴槽:8つの湯船(内湯、露天風呂、貸切風呂)
- 日帰り入浴:可
- 宿泊:可
- 料金:1泊2食付13,200円〜
7. 塩原温泉 元泉館(那須塩原市)
1200年程前に徳一大師によって発見されたと伝わる、塩原温泉発祥の地に佇む一軒宿です。原生林に囲まれた秘湯の雰囲気に満ちた静かな環境の中、乳白色や緑色など3本の硫黄泉(自家源泉)からのにごり湯をかけ流しで楽しめます。
塩原温泉の歴史を今に語り継ぐ古書「塩原之縁起」にも「名湯」と謳われた伝統の温泉で、毎年秋の「塩原温泉古式湯まつり」では当館の源泉が各祭壇に奉納されます。飲泉所も設けられ、体の内と外から温泉の効果を体感できます。
- 泉質:硫黄泉-ナトリウム・塩化物・炭酸水素塩温泉(硫化水素型)
- 源泉かけ流し(3本の自家源泉)
- 浴槽:内湯、露天風呂
- 飲泉:可
- 日帰り入浴:可
- 宿泊:可
8. 塩原温泉 渓雲閣(那須塩原市)
塩原温泉郷の中でも特に秘湯らしい雰囲気を持つ一軒宿です。山肌に沿った立地のため館内にエレベーターはありませんが、そのちょっとした不便さも含めて秘湯の味わいを演出しています。全室南向きで大自然の風景を楽しめる造りとなっています。
自慢のにごり湯は美肌効果で知られ、女性にも人気が高いです。貸切タイプの露天風呂が2つあり、プライベートな温泉体験を楽しめます。日本秘湯を守る会の会員宿として、伝統的な温泉文化を大切に守り続けています。
- 泉質:硫黄泉(にごり湯)
- 源泉かけ流し
- 浴槽:内湯、貸切露天風呂
- 日帰り入浴:可
- 宿泊:可
- 料金:1泊2食付15,400円〜
9. 湯西川温泉 本家伴久(日光市)
平家の流れを継承する湯西川温泉発祥の宿として、寛文6年(1666年)に創業した歴史ある老舗旅館です。現在25代を継承し、350年以上の歴史を誇ります。平家の末裔である「伴」家が営み、「伴」は「人」と「半(平)」に分かれ「平の人である」という意味の隠し文字とされています。
宿の名物は食事処へと続く「かずら橋」で、平家の落人が追手から逃れるために作ったとされます。800年以上溢れ続ける源泉かけ流しの「藤鞍の湯」は、湯西川温泉発祥の場所に作られた露天風呂で、清流と一体感を味わえる絶好のロケーションです。
- 泉質:単純温泉(メタケイ酸豊富な美肌の湯)
- 源泉かけ流し
- 浴槽:内湯、露天風呂、貸切露天風呂3箇所
- 特徴:かずら橋、囲炉裏会席料理
- 日帰り入浴:不可
- 宿泊:可
10. 弁天温泉旅館(那須町)※現在休業中
那須七湯のひとつで、弁財天のお告げにより明治17年(1884年)に再発見されたと伝わる温泉です。標高1200mの那須岳中腹、苦戸川上流の谷間に位置する一軒宿でした。現在の旅館の裏にある弁財天を祀る祠の奥の岩窟内から温泉が湧出していました。
那須温泉の「仕上げの湯」として知られ、褐色の浮遊物を有する無色無臭の単純泉で、肌にやさしい湯として親しまれていました。男女別の内湯のほか、混浴の5種類の露天風呂があり、樽乃湯や釜風呂など個性的な湯船が設けられていました。
- 泉質:単純泉(褐色浮遊物あり)
- 効能:胃腸病、脳神経病、リウマチ、疲労回復
- 特徴:那須温泉の湯ただれを治す「仕上げの湯」
- 現在:休業中
栃木県の秘湯を訪れる際の注意点
アクセス 多くの秘湯は公共交通機関でのアクセスが限られているため、事前の交通手段確認が重要です。奥鬼怒温泉郷や三斗小屋温泉などは登山装備が必要な場合もあります。
宿泊・日帰り入浴 秘湯の多くは小規模な温泉宿のため、事前予約は必須です。特に手白澤温泉など人気の宿は2ヶ月前からの予約が推奨されます。また、日帰り入浴を受け付けていない宿もあるため、事前確認が大切です。
季節・営業期間 山間部の秘湯は冬期休業する場合が多いです。三斗小屋温泉は11月下旬〜4月下旬まで休業するなど、営業期間の確認が必要です。
持参品 タオルなどのアメニティは有料または持参の場合が多いです。また、歩いてアクセスする温泉の場合は、適切な装備と準備が重要となります。
栃木県の秘湯は、それぞれが長い歴史と独自の魅力を持っています。現代の喧騒を離れ、自然と一体となって温泉を楽しむ贅沢な時間を過ごすことができるでしょう。
※情報はリサーチした時点での最新の情報ではありますが、誤りなどがある可能性もあり、最新の情報は公式サイトなどを確認ください。