富山県は北アルプスを擁する山岳地帯から富山湾に面する海岸部まで、変化に富んだ地形が特徴だ。そんな自然豊かな環境の中に、数多くの秘湯が点在している。ここでは、野湯から宿泊可能な秘境の一軒宿まで、富山県の魅力的な秘湯10件を紹介する。
1. みくりが池温泉(立山町)

標高2,410メートル、日本一高所に位置する天然温泉として知られるみくりが池温泉。立山黒部アルペンルートの室堂ターミナルから徒歩約15分、立山を望む絶景の中に佇む一軒宿だ。
源泉は地獄谷にあり、無加水・無加温の100パーセント源泉かけ流し。白く濁る硫黄の香りの湯が、登山やトレッキングで疲れた体を温かく癒してくれる。男女別の展望内湯があり、窓からは大日連山がよく見え、雲上の温泉を堪能できる。
食事は季節により献立が変わり、海の幸・山の幸が豊富な和食中心の会席料理が提供される。山小屋とは思えない豪華さだと評判だ。営業期間は4月中旬から11月下旬までで、冬季は休業する。
- 泉質:単純硫黄泉(硫化水素型)
- 源泉かけ流し
- 浴槽:内湯=2(男女別)
- 源泉温度:約60度
- 加水・加温なし
- 日帰り入浴:可(大人700円)
- 宿泊:可
- 営業期間:4月中旬~11月下旬
2. 高天原温泉(富山市)
北アルプスの最奥部、標高約2,100メートルに位置する高天原温泉は、「日本一遠い温泉」と呼ばれる究極の秘湯だ。どの登山口からも距離があり、登山に慣れた人でも片道1泊2日、一般的には3泊4日を要する。
温泉は温泉沢沿いに湧き出ており、混浴露天風呂と女性専用露天風呂、男女別露天風呂の3か所がある。白濁した硫黄泉で、自然に囲まれた野趣あふれる入浴が楽しめる。辿り着くまでの苦労を忘れさせる、至福のひとときを味わえる。
高天原山荘が管理しており、山荘から温泉までは徒歩約20分下る。宿泊者以外は日帰り入浴料300円が必要だ。営業期間は7月から9月末までと限られている。
- 泉質:単純硫黄泉(硫化水素型)
- 源泉かけ流し
- 浴槽:露天=3(混浴1、女性専用1、男女別1)
- 源泉温度:51.1度
- 日帰り入浴:可(300円、宿泊者無料)
- 宿泊:可(高天原山荘)
- 営業期間:7月~9月
3. 黒薙温泉(黒部市)
黒部峡谷の山奥に佇む黒薙温泉は、トロッコ電車でしか辿り着けない秘境の一軒宿だ。正保2年(1645年)に発見され、慶応4年(1868年)に加賀藩から開湯を許可されるまで、「隠れ湯」として利用されていた歴史を持つ。
宿の隣接地には毎分2,000リットルという豊富な湧出量を誇る源泉があり、宇奈月温泉郷全体の湯量をまかなっている。無色透明で柔らかな湯は、肌をつるつるにしてくれる美肌の湯として人気だ。
混浴の大露天風呂(28畳敷相当)と女性専用露天風呂「天女の湯」があり、黒部峡谷の野趣あふれる雄大な自然美を満喫できる。営業期間は5月上旬から11月下旬まで。客室にテレビはなく、日々の雑踏から離れてゆっくりと流れる時間を楽しめる。
- 泉質:弱アルカリ性単純泉
- 源泉かけ流し
- 浴槽:内湯=2、露天=2
- 源泉温度:90度以上
- 日帰り入浴:可(大人700円)
- 宿泊:可
- 営業期間:5月上旬~11月下旬
4. 大牧温泉(南砺市)
船でしか行けない秘境の一軒宿として知られる大牧温泉。庄川の渓谷沿いに位置し、宿に辿り着くまでの庄川遊覧船からは、四季折々の美しい景色を堪能できる。
露天風呂は屋外の3か所に分かれており、男性用は本館裏手の崖の上、原生林に包まれた湯船がある。女性用は館から奥へと進んだ山峡のパノラマが一望できる絶景が望める。時折、カモシカやタヌキが顔を見せることもあるという。
食事は富山の海の幸と山の幸を取り揃えた上質な和会席料理。素材の旬を活かし、丁寧に調理された四季折々の料理を楽しめる。Wi-Fi環境も館内全体で利用可能となり、利便性も向上している。
- 泉質:炭酸水素塩泉など
- 源泉かけ流し
- 浴槽:内湯=2、露天=3
- 日帰り入浴:可(要確認)
- 宿泊:可
- 営業期間:通年営業
5. 小川温泉元湯 ホテルおがわ(朝日町)
北アルプスの麓に佇み、1617年の開湯と伝わる歴史ある小川温泉元湯。「越中四名湯」の一つとして名高く、保温効果の高い炭酸水素塩泉が特徴だ。
宿の最大の魅力は、宿から徒歩7~8分の場所にある2つの野天風呂だ。湯の華が凝固してできた天然洞窟野天風呂(混浴)は、天然記念物にも指定されている。その傍らには女性専用野天風呂「蓮華の湯」があり、小川を臨む開放感抜群の入浴が楽しめる。
館内には男女別の露天岩風呂と、直径3メートルの檜桶露天風呂もあり、計5つの湯処で温泉三昧を満喫できる。野天風呂は4月中旬から11月末までの営業で、冬季は閉鎖される。
- 泉質:炭酸水素塩泉
- 源泉かけ流し(毎分400リットル)
- 浴槽:内湯=2、露天=2、野天=2
- 日帰り入浴:可(要確認)
- 宿泊:可
- 営業期間:通年営業(野天風呂は4月中旬~11月末)
6. 庄川湯谷温泉(砺波市)
小牧ダムのほとりにある庄川湯谷温泉は、温泉マニアの間で有名な秘湯だ。かつては旅館として営業していたが、現在は日帰り専門の無人温泉施設となっている。
最大の特徴は、地下に広がるコンクリート造りの浴室だ。「廃墟の底に沈む温泉」のような異空間が広がり、名物の「バズーカ湯口」からは大量の温泉が勢いよく噴き出す。シーソー型の湯口で、傾けた方に湯が勢いよく噴出される仕組みだ。
湯量が豊富で、時には階段まで水没することもあるほど。無色透明の湯はほのかに硫黄臭があり、ナトリウム・カルシウム-塩化物泉の源泉かけ流しだ。入浴料500円を料金箱に入れて利用する。
- 泉質:ナトリウム・カルシウム-塩化物泉
- 源泉かけ流し
- 浴槽:内湯=2(男女別)
- 源泉温度:41度
- 日帰り入浴:可(500円)
- 宿泊:不可
- 営業期間:9:00~17:00、木曜定休、冬季休業(12月末~3月中旬)
7. 鐘釣温泉(黒部市)
黒部峡谷鉄道のトロッコ電車で鐘釣駅下車、徒歩5分の場所にある鐘釣温泉。文政2年(1819年)開湯の黒部峡谷では最古の温泉で、黒部川沿いには源泉が多数存在する。
最大の魅力は、河原を掘ると温泉が湧き出てくることだ。石で囲って自分だけのオリジナル露天風呂(足湯)を作ることができる。対岸には夏でも溶けない黒部万年雪が見られ、野生のカモシカやニホンザルがひょっこり現れることもある。
鐘釣温泉旅館と鐘釣美山荘の2軒の宿泊施設があり、河原の露天風呂は鐘釣温泉旅館の管理下にあるが、16時までは一般観光客にも開放されている。利用可能なのは黒部峡谷鉄道の運行期間(5月~11月)のみだ。
- 泉質:単純泉
- 源泉かけ流し
- 浴槽:露天(河原)、洞窟岩風呂
- 源泉温度:42~43度
- 日帰り入浴:可(8:30~16:00)
- 宿泊:可
- 営業期間:5月~11月(トロッコ電車運行期間)
8. らいちょう温泉 雷鳥荘(立山町)
標高2,370メートル、雲上の温泉として知られる雷鳥荘。立山黒部アルペンルートの室堂ターミナルから徒歩約30分、雷鳥沢と地獄谷を見渡す高台に建つ。
自慢のらいちょう温泉は源泉かけ流しの濁り湯で、単純酸性泉。2階の展望浴室は展望抜群で、大日岳や地獄谷方面が一望できる。夕暮れ時には夕焼けを見ることもでき、神経痛や筋肉痛、関節痛、慢性皮膚炎などに効果があるとされている。
春のスキー、夏の高山植物、秋の紅葉、そして天然記念物のライチョウなど、シーズンを通して立山の自然を楽しめる。日帰り入浴も可能で、営業期間は4月中旬から11月下旬まで。
- 泉質:単純酸性泉
- 源泉かけ流し
- 浴槽:内湯=2(展望浴室)
- 日帰り入浴:可(1,000円、11:00~20:00)
- 宿泊:可(58室、定員300名)
- 営業期間:4月中旬~11月下旬
9. 北原荘(南砺市利賀村)
庄川峡の山々に抱かれ、自然豊かな山あいにひっそりと佇む秘湯の温泉宿。1985年(昭和60年)の創業で、長崎温泉の湯量をすべてまかなう加水なし源泉かけ流し温泉だ。
泉質はアルカリ性単純温泉で、女性に優しいお肌つるつるの「美肌の湯」として知られている。露天風呂からは四季折々の庄川峡の自然が楽しめ、夕暮れ時には幻想的なランプの灯りが美しい。
非日常の空間で心も身体も癒される山あいの温泉宿だ。富山の清流「庄川峡」の緑豊かな自然と、木の温もりを感じるやわらぎの湯が特徴となっている。
- 泉質:アルカリ性単純温泉
- 源泉かけ流し
- 浴槽:内湯、露天風呂
- 日帰り入浴:可(要確認)
- 宿泊:可
- 営業期間:金・土・日営業(17:00~20:00)
10. 宇奈月温泉(黒部市)
富山県随一の規模を誇る温泉郷で、黒部峡谷の玄関口に位置する。1923年の開湯以来、多くの文人墨客から愛されてきた歴史がある。
黒部川上流の黒薙温泉から引湯する無色透明の湯は、日本有数の透明度を誇り、肌にやさしい弱アルカリ性単純泉。源泉温度は90度以上と高く、体の芯から温まる「美肌の湯」として知られている。
温泉街の至る所に足湯が点在しており、ゆっくり休みながら情緒あふれる街並みを散策できる。黒部川沿いに建ち並ぶ旅館やホテルからは、四季折々の表情を見せる峡谷の山々を望むことができ、大自然と絶景を満喫できる温泉地だ。
- 泉質:弱アルカリ性単純泉
- 源泉:黒薙温泉より引湯
- 浴槽:各旅館により異なる
- 源泉温度:90度以上
- 日帰り入浴:可(総湯「湯めどころ宇奈月」など)
- 宿泊:可(多数の旅館・ホテル)
- 営業期間:通年営業
まとめ
富山県の秘湯は、標高2,000メートルを超える雲上の温泉から、黒部峡谷の奥深くに佇む一軒宿、船でしか行けない秘境の宿まで、多彩な個性を持っている。野湯から歴史ある温泉宿まで、それぞれに独自の魅力があり、訪れる人々を癒してくれる。
北アルプスの雄大な自然に囲まれた秘湯、庄川の渓谷美を楽しめる温泉、そして富山湾の海の幸と山の幸を味わえる宿など、温泉だけでなく周辺の自然や食事も楽しめるのが富山の秘湯の魅力だ。
なお、多くの秘湯は冬季休業や営業時間が限られているため、訪問前には必ず最新の営業情報を確認することをお勧めする。また、高所の温泉や登山を要する温泉は、天候や体調に十分注意して訪れてほしい。
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