高尾山は「江戸の奥座敷」として親しまれる一方、その本質は千三百年を超える信仰の山である。天平16年(744年)、聖武天皇の勅命を受けた行基菩薩が東国鎮護の祈願寺として開いたと伝わる高尾山薬王院を中心に、永和年間(1375年~1379年)には京都・醍醐寺から入った俊源大徳が飯縄権現を守護神として奉り、以来この山は飯縄信仰と修験道の道場として栄えてきた。天狗が飯縄大権現の眷属とされることから「天狗の棲む山」とも呼ばれ、琵琶滝・蛇滝という二つの滝行の場は今なお一般の参加者を受け入れている。京王高尾山温泉 極楽湯は、そうした山岳信仰の聖地の玄関口、高尾山口駅の改札を出てすぐの場所に、平成27年(2015年)に開業した比較的新しい施設だが、登拝と入浴をひとつの体験としてつなぐ役割を担っている。
泉質はアルカリ性単純温泉で、pH9.9という強アルカリ性を示す。源泉温度は26.2度とやや低めだが、毎分300リットルという豊富な湧出量を誇り、平成24年(2012年)10月から掘削を進めた末に地下約1,000メートルから掘り当てた自家源泉である。天然温泉を用いる露天岩風呂では加温のみを行い、加水も循環もしない源泉そのものの湯を提供しており、とろりと柔らかな浴感から「美肌の湯」として評判を集めている。微弱白色・澄明で、かすかな硫化水素臭が山の温泉らしい雰囲気を醸し出す。
浴場は多彩で、露天には温度の異なる「ぬる湯」「あつ湯」を選べる天然温泉露天岩風呂のほか、日本では珍しい人工炭酸泉を再現した露天炭酸石張り風呂がある。内湯にはマイクロバブルを採用した絹風呂、季節ごとに趣向を変える替り風呂、遠赤外線サウナ、座り湯、水風呂が揃い、登山で疲れた脚腰をじっくりとほぐせる構成になっている。湯上がりにはお食事処でとろろそばなどの軽食を楽しみ、うたた寝処や有料の貸座敷でくつろぐこともできる。
最大の魅力は、京王高尾線「高尾山口駅」の改札を出てすぐ隣という抜群のアクセスにある。登山靴のまま数十歩で入館できるため、汗を流した後にわざわざ移動する必要がない。営業時間は8時から22時30分(最終入館21時45分)まで年中無休、入浴料金は平日大人1,100円・土日祝日は1,300円(子供はそれぞれ550円・650円)。紅葉シーズンの土日は登山客と入浴客で大変混雑するため、早朝の入館や平日の利用がおすすめである。専用駐車場(約90台、3時間無料)もあるが、繁忙期は公共交通機関の利用が現実的な選択となる。