岩手県には、豊かな自然に囲まれた数多くの秘湯が点在しています。八幡平をはじめとする山間部には、野湯から歴史ある宿泊可能な秘湯まで、多様な温泉が存在します。今回は、特に秘湯としての価値が高い10カ所をご紹介いたします。
1. 藤七温泉 彩雲荘(岩手県八幡平市)
標高1,400mに位置する東北地方最高所の温泉として知られる藤七温泉です。八幡平の雄大な山並みを背景に、一軒宿「彩雲荘」が佇んでいます。昭和5年に発見され、昭和6年に開業した歴史を持つ温泉で、現在は日本秘湯を守る会の会員宿となっています。
宿の周辺には5つの混浴露天風呂と1つの女性専用露天風呂、さらに宿泊者専用の露天風呂が点在し、まさに野天風呂の宝庫といえます。特に有名なのは、乳白色の硫黄泉が湧き出る混浴露天風呂で、湯船の底から自然湧出する温泉は格別です。女性も湯浴み着を着用して入浴でき、大型バスタオルの販売もあります。
春には雪の壁を眺めながらの入浴が楽しめ、夏は涼しい高原の風、秋には紅葉に映える乳白色の湯が美しいです。湯床から湧く泥でパックをすることもでき、美肌効果も期待できます。
- 泉質:単純硫黄温泉(硫化水素型)
- 源泉かけ流し
- 浴槽:内湯=3、露天=6
- 源泉温度:87.0度
- 加水・加温なし
- 日帰り入浴:可(大人650円)
- 宿泊:可
- 営業期間:4月下旬~10月下旬
2. 国見温泉 石塚旅館(岩手県雫石町)

秋田駒ヶ岳の中腹、標高850mに位置する国見温泉は、全国でも珍しいエメラルドグリーンの温泉で有名です。江戸時代から「薬師の湯」と呼ばれ、南部藩お抱えの湯治場として利用されてきた歴史を持ちます。
石塚旅館は日本秘湯を守る会の会員宿で、山深い森林に囲まれたひっそりとしたたたずまいが秘湯らしさを演出しています。温泉の色は美しいエメラルドグリーンで、天候や日照によりレモン色、濃緑色などに変化します。この独特の色は、温泉に含まれる炭酸カルシウムと硫黄の微粒子がレイリー散乱で青く発色し、多硫化イオンの黄色が混ざることによるものとされています。
湯船には大量の湯の花が舞い、飲泉も可能ですが、その味は非常に個性的で知られています。効能が高く、地元の人々にとって大きな自慢の温泉となっています。
現在は雪害の影響で一部営業となっており、2025年春以降の営業について公式サイトでの確認が必要です。
- 泉質:硫黄泉(硫化水素型)
- 源泉かけ流し
- 浴槽:内湯=2、露天=2
- 効能:慢性消化器病、慢性婦人病、糖尿病、肝臓病、神経痛、リウマチなど
- 日帰り入浴:要確認
- 宿泊:要確認
- 営業期間:5月中旬~11月初旬(要確認)
3. 鉛温泉 藤三旅館(岩手県花巻市)
約600年前に開湯した歴史ある温泉で、宮沢賢治の童話「なめとこ山の熊」にも登場する唯一の温泉宿として知られています。藤三旅館は1841年(天保12年)創業の老舗で、「新日本百名湯」「日本温泉遺産」「日本百名湯」に選定されている名湯です。
最大の特徴は、深さ約125cmの「白猿の湯」で、立ったまま入浴する珍しいスタイルの温泉として有名です。湯船の底から温泉が自噴し、水深による湯圧が体を芯から温めます。2024年には宮沢賢治をテーマにした「なめとこ山サウナ」も新設されました。
館内には4つの浴場があり、すべて源泉100%かけ流しです。シャワーから出る湯まで源泉を使用するという徹底ぶりで、「源泉100%」の真髄を味わうことができます。総ケヤキ造りの本館は歴史の風格に満ち、「千と千尋の神隠し」の湯屋を彷彿とさせる雰囲気を醸し出しています。
- 泉質:単純温泉・アルカリ性単純高温泉
- 源泉かけ流し
- 浴槽:内湯=3、露天=2
- 源泉温度:約57度
- 加水・加温・循環なし
- 日帰り入浴:可(大人700円)
- 宿泊:可
- 営業期間:通年営業
4. 夏油温泉 元湯夏油(岩手県北上市)
標高650mの山懐深くに位置する夏油温泉は、約850年前の開湯とされる歴史ある温泉地です。江戸時代の温泉番付では東の大関と記された名湯で、現在も「全国名湯百選」の一つとなっています。
元湯夏油では、夏油川沿いに点在する7つの露天風呂を楽しむことができます。それぞれの浴槽の底や横から温泉が湧き出す足元湧出泉で、「大湯」「疝気の湯」「真湯」「滝の湯」「女(目)の湯」など、それぞれ異なる温度と泉質を持ちます。特に「大湯」は湯治客に人気が高く、野天風呂からは360度の迫力ある景色を望むことができます。
露天風呂群への通りの両側には湯治棟や売店、食堂が並び、さながら街並みのような光景を形成しています。混浴が基本ですが、女性専用時間も細かく設定されているため女性も安心して利用できます。冬季は豪雪のため休業となる期間限定の秘湯です。
- 泉質:ナトリウム・カルシウム塩化物・硫酸塩泉
- 源泉かけ流し
- 浴槽:内湯=2、露天=7
- 源泉温度:約48~65度
- 加水・加温なし
- 日帰り入浴:可(大人700円)
- 宿泊:可
- 営業期間:5月上旬~11月上旬
5. 松川温泉 峡雲荘(岩手県八幡平市)
八幡平の原生林に囲まれた標高850mに位置する松川温泉です。開湯250年以上の歴史を持ち、十和田八幡平国立公園内に位置する秘境温泉として知られています。冬期は雪深く、四輪駆動のボンネットバスが代走することでも有名です。
峡雲荘は日本秘湯を守る会の会員宿で、古民家風の造りが特徴的です。源泉は無色透明ですが、空気に触れることで美しい乳白色に変化します。混浴露天風呂と女性専用露天風呂からは、四季折々の大自然の景色を堪能でき、特に紅葉の季節は格別の美しさを誇ります。
地熱を利用した暖房システムにより、冬でも館内は心地よい温もりに包まれます。夕食には地元の短角牛やホロホロ鳥、清流で育つ川魚などを使った料理が並び、特に名物の「ホロホロ鳥鍋」は宿泊客に好評です。
- 泉質:単純硫化水素泉
- 源泉かけ流し
- 浴槽:内湯=2、露天=2
- 源泉温度:約70度
- 温度調整のため加水あり
- 日帰り入浴:要確認
- 宿泊:可
- 営業期間:通年営業
6. 網張温泉 仙女の湯(岩手県雫石町)
岩手山の麓、標高750mに位置する網張温泉は、8世紀に発見された「岩手最古の湯」といわれる温泉地です。特に有名なのが、滝を眺めながら入浴できる混浴野天風呂「仙女の湯」で、宮沢賢治も浸かったとされる歴史ある湯です。
「仙女の湯」は休暇村岩手網張温泉から徒歩約5分、森の中を抜けて湯ノ沢の谷に続く階段を降りた場所にあります。昭和40年代にスタッフが偶然発見した滝のロケーションに、人力で造られた手作りの岩風呂が設けられています。
男女別の脱衣小屋を出ると一つの湯船があり、男女混浴となります。湯船の向こうに流れる「亀滝」の音が響き、滝を間近に眺めながら浸かることができる野趣あふれる露天風呂です。湯浴み着のレンタルもあるため、女性も安心して利用できます。
冬季は雪に埋もれるため閉鎖となり、5月上旬から11月上旬までの期間限定営業となります。
- 泉質:単純温泉・硫黄泉(硫化水素型)
- 源泉かけ流し
- 浴槽:露天=1(混浴)
- 効能:アトピー性皮膚炎、末梢神経障害、尋常性乾癬など
- 日帰り入浴:可(大人500円)
- 宿泊:休暇村岩手網張温泉
- 営業期間:5月上旬~11月上旬
7. 金田一温泉(岩手県二戸市)
岩手県北部の二戸市にある静かな温泉地で、「座敷わらし」伝説で有名な温泉地として全国的に知られています。特に「緑風荘」は座敷わらしに出会える宿として人気を集めていますが、温泉地全体としても魅力的な秘湯の雰囲気を持ちます。
2022年にオープンした「カダルテラス金田一」は温泉街に新しい活気をもたらし、日帰り入浴やサウナ、カフェなどの充実した施設を提供しています。また、「侍の湯おぼない」は料理や温泉だけでなく、若女将のおもてなしに感動する宿として評価が高いです。
静かな山あいの温泉地で、都市部の喧騒を離れてゆっくりと過ごすことができます。
- 泉質:単純温泉・塩化物泉
- 源泉かけ流し
- 浴槽:各宿により異なります
- 日帰り入浴:可(施設により異なります)
- 宿泊:可
- 営業期間:通年営業
8. 一関温泉郷 須川温泉(岩手県一関市)
岩手県、秋田県、宮城県の県境に位置する須川温泉は、栗駒山の北側山腹、標高1125mという高所に湧く温泉です。一関温泉郷の中でも特に秘湯らしい雰囲気を持つ温泉として知られています。
硫化水素を含んだ強酸性の酸性泉は、豊富な湯量と雄大な眺望が魅力です。千人風呂や天然蒸し風呂など、特色ある浴槽で楽しむことができます。高山植物に囲まれた環境で、登山者にも人気の温泉地です。
周辺には複数の宿泊施設があり、それぞれが独自の源泉を持っています。日帰り入浴も可能で、湯めぐりを楽しむこともできます。
- 泉質:酸性泉
- 源泉かけ流し
- 浴槽:各施設により異なります
- 効能:皮膚病、リウマチ、神経痛など
- 日帰り入浴:可
- 宿泊:可
- 営業期間:通年営業
9. 八幡平温泉郷 新安比温泉(岩手県八幡平市)
岩手と秋田の両県にまたがる八幡平一帯に点在する温泉の総称である八幡平温泉郷です。その中でも新安比温泉は比較的知られていない秘湯の一つです。
なだらかなシルエットが特徴の八幡平周辺では、春は登山、夏はトレッキング、冬はスキーと一年を通してアクティブに遊ぶことができます。温泉はそうした活動の疲れを癒す最適な場所として親しまれています。
標高の高い場所に位置するため、景色も抜群で、特に夜空の美しさは格別です。温泉に浸かりながら満天の星空を眺める体験は忘れがたい思い出となります。
- 泉質:単純温泉・硫黄泉
- 源泉かけ流し
- 浴槽:各施設により異なります
- 日帰り入浴:可
- 宿泊:可
- 営業期間:通年営業
10. 鶯宿温泉 長栄館(岩手県雫石町)
雫石町に湧出する鶯宿温泉は、その昔、一羽のウグイスが温泉で傷ついた足を癒していたことから名付けられたという美しい由来を持つ温泉です。温泉街には複数の宿がある中で、長栄館は100%源泉かけ流しの天然温泉を楽しむことができる宿として知られています。
温泉街には「うぐいす湯の里公園」があり、無料で足湯を楽しむこともできます。比較的アクセスしやすい場所にありながら、静かな山間の温泉地の雰囲気を味わうことができる秘湯です。
四季を通じて異なる表情を見せる自然環境の中で、ゆっくりとした時間を過ごすことができます。特に秋の紅葉シーズンは美しく、多くの温泉愛好家が訪れます。
- 泉質:単純温泉
- 源泉かけ流し
- 浴槽:内湯・露天風呂
- 効能:神経痛、リウマチ、筋肉痛、肩こり、腰痛など
- 日帰り入浴:可
- 宿泊:可
- 営業期間:通年営業
まとめ
岩手県の秘湯は、それぞれが独特の魅力を持った貴重な温泉ばかりです。標高の高い山間部に位置する温泉が多く、都市部では味わえない自然との一体感を楽しむことができます。野湯から歴史ある宿泊施設まで多様な形態があり、温泉愛好家にとって探求しがいのあるエリアといえるでしょう。
特に冬季休業となる温泉も多いため、訪問前には必ず営業状況を確認することをお勧めいたします。また、山間部の温泉へのアクセスは道路状況に左右されやすいため、天候や交通情報にも注意が必要です。
岩手県の豊かな自然に育まれた温泉文化を、ぜひ実際に体験してみてください。
※情報はリサーチした時点での最新の情報ではありますが、誤りなどがある可能性もあり、最新の情報は公式サイトなどを確認ください。