長野県の秘湯13選——北アルプスと八ヶ岳の山湯宿へ
長野県は、海に面しない内陸県でありながら、全国有数の温泉県である。理由は地形にある。県の中央を糸魚川静岡構造線が縦断し、その西縁に沿って飛騨山脈(北アルプス)がそびえる。東には浅間山、南には八ヶ岳、北には志賀高原と、活火山と火山群が県内に点在する。断層に沿って地下水が温められ、火山の熱が加わる。この二つの仕組みが、標高の高い山あいのあちこちに湯を湧かせてきた。
湧く湯の性格も、山ごとに異なる。志賀高原や白骨、八ヶ岳の一帯では、硫化水素を含む硫黄泉が乳白色や緑色に濁る。北アルプスの花崗岩地帯では、無色透明の硫黄泉やアルカリ性の湯が多い。小谷や釜沼のように、炭酸や重曹を含む冷たい鉱泉が湧く土地もある。同じ長野県でも、浸かる湯は一様ではない。
長野の秘湯を語るうえで欠かせないのが、湯治の文化だ。小谷温泉の山田旅館や渋温泉の金具屋は、江戸から昭和にかけての木造建築が国の登録有形文化財に指定され、湯治場の姿を今に伝える。中房温泉や高峰温泉のように、登山基地を兼ねた一軒宿も多い。山を歩く人と、湯に治しに来る人が、同じ湯船を分けあってきた歴史がある。
今回は、宿泊できる山の湯宿を中心に、長野県の秘湯13か所を厳選した。志賀高原・北信から東信の浅間・八ヶ岳、北アルプスの白馬・小谷・安曇野、そして木曽へと、県内を大きく巡る順に紹介する。いずれも源泉かけ流しを基本とする宿だが、標高が高く冬季閉鎖や季節営業の宿も含む。加えて、宿泊予約はできないものの、長野を代表する野湯として名高い湯俣温泉と七味温泉も本記事で押さえた。北アルプスの源流や高山村の山中に自然湧出する、真性の秘湯である。訪問前に各宿・各湯の最新情報を確認してほしい。
1. 渋温泉 金具屋(長野県下高井郡山ノ内町)

2. 志賀高原 熊の湯(長野県下高井郡山ノ内町)
3. 高峰温泉 ランプの宿(長野県小諸市)

4. 本沢温泉(長野県南佐久郡南牧村)

5. 白馬鑓温泉(長野県北安曇郡白馬村)

6. 小谷温泉 山田旅館(長野県北安曇郡小谷村)
7. 雨飾温泉 雨飾荘(長野県北安曇郡小谷村)
8. 中房温泉(長野県安曇野市)
9. 白骨温泉 泡の湯(長野県松本市)

10. 中の湯温泉旅館(長野県松本市)
11. 釜沼温泉 大喜泉(長野県木曽郡木曽町)
12. 湯俣温泉 野湯(長野県大町市)

13. 七味温泉 野天風呂(長野県上高井郡高山村)
総まとめ——長野の秘湯宿を巡る前に
長野の秘湯は、北信・東信・北アルプス・木曽という区分で計画すると動きやすい。多くが標高1,000mを超える山あいにあり、冬季は道路が閉鎖される宿も少なくない。まず、どの季節にどの山域を訪ねるかを決めておきたい。
【志賀高原・北信】 山ノ内町の渋温泉は、石畳の温泉街に九つの外湯が並ぶ湯治場だ。なかでも金具屋は、木造4階建ての「斉月楼」など館の建築群が国の登録有形文化財に指定されている。同じ山ノ内町でも標高を上げた志賀高原の熊の湯は、含硫黄の炭酸水素塩泉が空気に触れて緑色に濁る珍しい湯として知られる。長野電鉄の湯田中駅からバスで入るのが基本になる。
【東信・浅間・八ヶ岳】 小諸市の高峰温泉は、標高約2,000mに建つ「ランプの宿」だ。冬季は雪上車でしか到達できず、野天風呂からは浅間連峰が見渡せる。南佐久郡南牧村の本沢温泉は、標高約2,150mに湧く野天風呂「雲上の湯」で知られ、日本最高所の露天風呂とされる。登山道を2時間以上歩く必要があり、湯そのものより山歩きと一体の湯と考えたい。
【北アルプス・白馬・小谷】 白馬村の白馬鑓温泉は、標高約2,100mの稜線近くに湧く露天で、営業は夏山シーズンに限られる。小谷村の山田旅館は、江戸・明治・大正の建物が登録有形文化財に指定された湯治宿で、武田信玄ゆかりの重曹泉が滝のように注ぐ。同じ小谷村の雨飾荘は、雨飾山の登山口に建つ日本秘湯を守る会の一軒宿である。いずれも冬季の営業状況とアクセスは事前確認が要る。
【北アルプス南部・安曇野・上高地】 安曇野市の中房温泉は、90℃を超える源泉を加水・加温せず自然冷却で使う湯宿で、燕岳登山の基地としても知られる。松本市の白骨温泉には、乳白色の大露天で名高い泡の湯がある。含硫黄の炭酸水素塩泉が空気に触れて白濁するのが特徴だ。同じ松本市の中の湯温泉旅館は、上高地・焼岳の登山口に建ち、穂高連峰を望む上高地エリアで数少ない通年営業の宿である。
【木曽】 木曽町三岳の釜沼温泉 大喜泉は、含二酸化炭素の炭酸水素塩泉が湧く一軒宿だ。冷たい源泉と加温浴槽を備え、肌に泡がまとわりつく炭酸の湯が味わえる。木曽路の玄関から山へ入った静かな立地で、御嶽山麓の湯治宿として親しまれてきた。
【予約不可の野湯——湯俣・七味】 上で挙げた宿泊の湯宿とは性格が異なるが、長野の秘湯を語るうえで外せないのが野湯である。大町市の湯俣温泉は、北アルプス・高瀬川の源流に自然湧出する天然の噴湯で、車道は通じず徒歩でしか到達できない。県内でも屈指の秘湯度を誇る一湯だ。上高井郡高山村の七味温泉には、硫黄泉の湧く野天風呂がある。いずれも宿泊予約や整った設備を前提とせず、たどり着くには相応の時間と装備が要る。混浴の湯や、料金が寸志・志納制の湯もあるため、脱衣や湯づかいのマナーは現地の掲示に従いたい。
山域をまたぐ移動には注意したい。志賀高原と木曽は同じ長野県ながら車で数時間離れている。二泊三日以上で山域を一つか二つに絞るのが現実的だ。標高の高い宿・野湯が多く、日帰り入浴の受付可否・営業期間・冬季の道路状況は変わりうる。訪問前に各施設の公式サイトや観光協会で最新情報を確認してほしい。
よくある質問(FAQ)
Q. 日帰り入浴だけでも利用できますか。 本沢温泉・中房温泉・小谷温泉 山田旅館・白骨温泉 泡の湯・中の湯温泉旅館・釜沼温泉 大喜泉などは日帰り入浴を受け付ける日がある。一方、高峰温泉 ランプの宿は宿泊者専用、渋温泉 金具屋は原則宿泊者向けだ。湯俣温泉・七味温泉は宿泊予約を伴わない野湯で、そもそも徒歩や現地でのアクセスが前提になる。受付時間や休止日は変わるため、各施設の公式情報で確認したい。
Q. 冬でも入れますか。 中房温泉・小谷温泉・釜沼温泉などは通年営業だが、白馬鑓温泉は夏山シーズン限定、本沢温泉は冬季の徒歩アクセスに登山装備が要る。高峰温泉は冬季、雪上車での送迎になる。湯俣・七味の野湯も積雪期はアクセスが大きく制限される。雪道の運転や冬期閉鎖の可能性があるため、訪問前に道路状況を確認してほしい。
Q. 源泉かけ流しの宿はどれですか。 本記事で紹介する宿11軒は、いずれも源泉かけ流しを基本とする。釜沼温泉 大喜泉のように、冷たい源泉浴槽と加温浴槽を併設する宿もある。加えて、湯俣・七味の野湯は自然湧出の源泉そのものに浸かる湯だ。加温・加水の有無は宿ごとに異なるため、湯づかいの詳細は各施設の掲示や公式情報で確かめたい。
Q. どのエリアから回るのが効率的ですか。 公共交通が使えるのは、湯田中駅からの志賀高原方面や、松本・大町起点の北アルプス方面が中心だ。本沢温泉や白馬鑓温泉、湯俣温泉は登山・徒歩を伴い、高峰温泉は季節により送迎が要る。山域を一つか二つに絞り、車と登山装備の要否を宿・湯ごとに確認して計画するとよい。
注意事項
- 本記事に掲載している情報(入浴料金・営業時間・泉質データ・営業期間等)は、リサーチ時点の情報をもとに作成しています。誤りや変更が生じている可能性もあります。最新の情報については、各施設の公式サイトや観光協会等でご確認ください。






















