長崎県雲仙市に広がる雲仙地獄は、30あまりの地獄が点在する九州屈指の地熱地帯です。硫黄の香りが立ち込め、地の底から吹き出す蒸気と熱気が辺り一面を覆い尽くす光景は、まさに「地獄」そのもの。
しかし雲仙地獄は単なる観光地ではありません。江戸時代にはキリシタン殉教の悲劇的な舞台となった場所でもあり、日本の宗教史における重要な史跡でもあるのです。
この記事では、雲仙地獄の30の地獄すべてと、その背景にある歴史・文化を完全ガイドします。
雲仙地獄とは?九州最大級の地熱地帯
雲仙地獄の概要
雲仙地獄は、雲仙温泉の古湯と新湯の間に広がる白い土(温泉余土)におおわれた地帯です。30余りの地獄から構成され、至る所から高温の温泉と噴気が激しく噴出しています。
基本データ:
- 所在地: 長崎県雲仙市小浜町雲仙320
- 地獄数: 30余り
- 最高温度: 120℃
- 泉質: 硫酸酸性の硫黄泉
- 開放時間: 24時間
- 入場料: 無料
地獄の成り立ちと地質学的価値
雲仙地獄のエネルギー源は、橘湾の海底のマグマ溜りだと考えられています。このマグマ溜りから発生した高温高圧のガスが、岩盤の裂目を通って上昇し、化学変化を経て高温熱水となります。その熱水の沸騰によって生じたガスが激しい噴気となって現れているのです。
この地熱活動により、雲仙の温泉は地下のガスと周辺の山からの地下水が混ざり合って生成されています。
30の地獄を徹底解説|主要地獄の特徴と見どころ
【最激烈】大叫喚地獄(だいきょうかんじごく)

雲仙地獄の東側に位置し、最も噴気の激しい場所です。仏教の地獄の一つである「大叫喚地獄」にちなんで名付けられました。
特徴:
- 間近で噴気現象を観察可能
- 展望所に石碑が整備
- 記念撮影の人気スポット
- 噴気音が最も激しい
【伝説の地獄】お糸地獄

明治初期に噴出したとされる地獄で、悲しい女性の伝説が残されています。
お糸の伝説: 島原城下で裕福な生活をしていたが、密通の末に夫を殺してしまったお糸という女性がいました。お糸が処刑されたころにこの地獄が噴き出したため、「家庭を乱すと地獄に落ちるぞ」という戒めを込めて名付けられました。
現在の様子:
- 噴気活動が非常に活発
- 雲仙地獄茶屋に隣接
- 足蒸し体験や温泉たまごが楽しめる
【その他の主要地獄】
清七地獄
- 男性の名前が付いた地獄
- 中規模の噴気活動
八万地獄
- 八万の数にちなんだ名前
- 複数の噴気孔が点在
邪見地獄
- 仏教の煩悩「邪見」に由来
- 比較的静かな噴気
その他20余りの小地獄 雲仙地獄には名前の付いていない小さな地獄も数多く存在し、それぞれが独特の表情を見せています。
キリシタン殉教の歴史|雲仙地獄の悲劇的な過去
雲仙地獄キリシタン殉教事件
1627年から1632年の5年間、雲仙地獄では江戸幕府によるキリシタン弾圧の一環として、改宗を迫る拷問が行われました。この事件は海外にまで知られ、多くの人々の心を揺さぶりました。
殉教の実態:
- 硫黄沸き立つ湯壺に投じられる
- 全身に熱湯を注がれる
- それでも信仰を捨てなかった殉教者数十名
島原の乱への道筋
島原藩主松倉重政とその子勝家による過酷なキリシタン弾圧は、やがて島原の乱(1637-1638年)の勃発へとつながっていきます。雲仙地獄での拷問は、この大規模な一揆の背景にある宗教的対立を象徴する出来事でした。
キリシタン殉教碑
現在、地獄を見下ろす丘にはキリシタン殉教碑が建てられています。
碑文(抜粋): 「身体を殺して霊魂を害し得ないものを恐れるな」との聖訓を奉し、神への忠誠と霊魂の尊厳とを重んじて、拷問と死とに打ち克った聖なる殉教者たちの誉れは永くここに留まる。
毎年5月の第3日曜日には、この地でキリシタン殉教祭が行われ、殉教者の霊を慰めています。
2016年リニューアル!体感型地獄体験
「見る地獄」から「体感する地獄」へ
2016年秋のリニューアルにより、雲仙地獄は従来の「見る地獄」から「体感する地獄」へと生まれ変わりました。五感で楽しめる新しいスポットが整備されています。
新体験スポット
1. 雲仙地獄 足蒸し(あしむし)
- 足を置くと地熱や噴気を直接体感
- 天然の足湯効果
- 休憩所としても利用可能
2. 雲仙地獄工房
- 地獄の蒸気で蒸した温泉たまごを販売
- 出来立て熱々を味わえる
- 営業時間:10:00~17:00(年中無休)
- 料金:2個200円、5個400円
3. 雲仙地獄見台(兼休憩所)
- 周辺の地獄を見学しながら温泉卵を楽しめる
- 絶好の撮影スポット
4. 泥火山
- 地中からの噴気で盛り上がった円錐形の山
- 灰白色の粘着性のある土質
- 日によって形が変わる自然現象
温泉たまごの長寿伝説
雲仙地獄の温泉たまごには古くから伝わる言い伝えがあります:
- 1個食べたら1年長生き
- 2個食べたら2年長生き
- 3個食べたら死ぬまで長生き
秋の繁忙期には1日2,000個以上売れる人気商品です。
効率的な地獄めぐりルートと所要時間
基本情報
- 所要時間: 約60分(全地獄制覇)
- 歩行距離: 約1.2km
- 難易度: 初級(遊歩道完備)
- ベストシーズン: 通年(早朝・夕方がおすすめ)
おすすめモデルコース
【完全制覇コース(60分)】
スタート: 温泉神社 ↓(5分) 1. 大叫喚地獄(10分滞在)
- 最激烈の噴気を体感
- 展望所で記念撮影 ↓(5分) 2. お糸地獄(15分滞在)
- 伝説の地獄見学
- 雲仙地獄茶屋で休憩
- 足蒸し体験 ↓(3分) 3. 清七地獄(5分滞在) ↓(5分) 4. 泥火山(10分滞在)
- 円錐形の自然現象観察 ↓(7分) 5. キリシタン殉教碑(10分滞在)
- 歴史学習と黙祷 ↓(5分) 6. その他の小地獄群巡り(15分) ゴール: 温泉神社
撮影ベストスポット
- お糸地獄の石垣終点:観光写真の定番アングル
- 大叫喚地獄展望所:最も迫力のある噴気
- キリシタン殉教碑:歴史的意義のある記念撮影
- 真知子岩:映画『君の名は』ロケ地
歴史・文化スポット
温泉神社(うんぜんじんじゃ)
雲仙地獄の北端に鎮座する長崎県下最古の神社です。
歴史的価値:
- 創建:大宝元年(701年)またはそれ以前
- 島原半島内の温泉神社の総本宮
- 雲仙岳(温泉山)を崇拝する山岳信仰の拠点
参拝のすすめ: 地獄めぐりの前に温泉神社で参拝し、心身を清めてから散策を始めるのが伝統的な作法です。
真知子岩
1954年公開の映画『君の名は』のロケ地となった記念の岩です。ヒロインの岸恵子さんが手を添えた岩が記念碑として残されています。
石碑の言葉: 「忘却とは忘れ去ることなり、忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ」
アクセス・料金・営業時間
基本情報
営業時間: 24時間開放(ライトアップなし) 入場料: 無料 定休日: なし
アクセス方法
公共交通機関
- 島原鉄道バス「雲仙」バス停から徒歩4分
- 長崎駅から約2時間
自動車
- 長崎自動車道諫早ICから約60分
- 九州自動車道鳥栖JCTから約1時間30分
駐車場
- 温泉神社駐車場:500円
- 満明寺駐車場:500円
- その他民間駐車場複数あり
周辺施設
雲仙地獄茶屋
- 営業時間:10:00~17:00
- 温泉たまご、温泉レモネード販売
- 雲仙美人フェイスマスクなどお土産充実
季節別の楽しみ方
春(3月~5月)
- ミヤマキリシマの開花
- キリシタン殉教祭(5月第3日曜日)
- 観光シーズン開始
夏(6月~8月)
- 避暑地として人気
- 早朝散策がおすすめ
- 夜間の幻想的な雰囲気
秋(9月~11月)
- 紅葉シーズン
- 温泉たまごの需要最高期
- 観光ベストシーズン
冬(12月~2月)
- 雪景色と地獄のコントラスト
- 湯けむりが最も美しい季節
- 観光客少なく静寂な雰囲気
よくある質問(FAQ)
Q: 雲仙地獄は24時間いつでも見学できますか? A: はい。24時間開放されており、入場料も無料です。ただし、夜間照明はありませんので、安全面から日中の見学をおすすめします。
Q: 服装で注意すべき点はありますか? A: 硫黄の匂いが衣服に付着することがあります。お気に入りの服装は避け、歩きやすい靴での見学をおすすめします。
Q: 小さな子供でも安全に見学できますか? A: 遊歩道が整備されていますが、高温の噴気が出ているため、必ず大人が付き添い、指定された遊歩道から外れないよう注意してください。
Q: ペットの同伴は可能ですか? A: 高温の噴気や硫黄ガスがあるため、ペットの健康を考慮して同伴は控えることをおすすめします。
Q: 雨の日でも楽しめますか? A: 雨の日は湯けむりがより幻想的に見える一方、足元が滑りやすくなります。雨具と滑りにくい靴を準備してください。
Q: 写真撮影に制限はありますか? A: 基本的に撮影自由ですが、他の観光客への配慮をお忘れなく。特に殉教碑周辺では敬意を持った撮影を心がけてください。
まとめ:雲仙地獄で体感する自然の驚異と歴史の重み
雲仙地獄は、30余りの多彩な地獄が織りなす自然の驚異と、キリシタン殉教という重い歴史が交錯する、他に類を見ない観光地です。
地球の息吹を感じる地熱活動の迫力、400年前の宗教的対立の悲劇、そして現代に受け継がれる温泉文化。これらすべてが一つの場所で体験できるのは、雲仙地獄ならではの魅力です。
無料で24時間開放という贅沢な環境で、ぜひ時間をかけてじっくりと地獄めぐりを楽しんでください。きっと自然の偉大さと歴史の重みを同時に感じることができるでしょう。
基本情報
- 住所:長崎県雲仙市小浜町雲仙320
- 営業時間:24時間開放
- 入場料:無料
- 駐車場:周辺有料駐車場利用(500円程度)
- 問い合わせ:雲仙温泉観光協会 0957-73-3434
この記事の情報は2025年5月時点のものです。最新情報は雲仙温泉観光協会の公式サイトでご確認ください。